Books-Management: 2005年6月アーカイブ
「組織の常識は世間の非常識」という状況になぜ陥ってしまうのか、理論的でありつつ、やさしく解説した組織論の本。最近のNHKや三菱自動車、社会保険庁のような組織の常識の破綻がなぜ起きるのか、不確実な現代を生き抜く強い組織はどういう組織かを適応のモデルを使って論じる。
■頑健な共有意味世界に生きる組織と適応性
まず組織の必要条件として「意味世界の共有」があると定義される。
「組織が共有する意味世界は、それに関与する人びとの交代によって左右されないいわば頑健性がある」
それは一般に組織の中で、常識と呼ばれ、具体的には
「常識とは、”かなり共通の対人経験”を有する人びとが客観的だと同意する事柄である」
とされる。ただし、この常識は外部の現実世界のそれと異なる。組織はそれが生きる環境自体を仮想的に創造して、組織の常識を作り出し、その内部に生きるという。
「
組織によって主体的に想像された環境像が実際の環境を創造し、その創造された環境が今度は組織を拘束するのである。これが常識の環境捏造性である
」
「
動植物が環境に受動的に適応するのに対して、人間組織は自らが捏造した環境に適応するのである。
」
組織の常識に反する新しい事態が起きると、不安になり、コミュニケーションが常識を疑う相互了解を形成する。その結果、常識の信頼性が下降して、捏造された環境自体が力を弱める。逆に言えば捏造環境が成長している間は、組織の常識も成長する。これが組織の適応モデルだという。
■未練のハードルと臆病のハードル、組織に4分類
しかし、組織が長年かけて築いた常識を、一度限りかもしれない新しい事態をきっかけにそのたび作り直していては、組織は安定することができない。過去の成功から学び取った知識はまだ有効であるかもしれないからである。そこで、組織の適応には二つの機制が存在する。
1 「未練のハードル」
不安が増大してもとりあえず今の常識を信頼しようとする機制
2 「臆病のハードル」
今の常識が軽々しく疑われたり批判されるのを避ける機制
この二つの機制により「適応は適応可能性を排除する」のである。
そして著者は、適応のハードル1と2をXY軸にして組織を4つに分類する。
この4類型からどの適応モデルが望ましいものかを決めるには、最大利得または最小損失を理想とする意思決定論ベースの現代経営学では不足であると著者は論じる。利得の確率が不明な不確実な状況下では、どの適応モデルも同様に長所、短所があり、優劣が決定できないからだ。
そこで、著者は意思決定以前の認識の段階での適応モデルの強さを考えるべきだとし、
・組織は多様性に富んでいなければならない(必要多様性)
・よく行為する組織はそうでない組織より認識に優れる(行為の重要性)
という二つの着眼点から、現代の組織として望ましいのは試行型、性急型、慎重型、鈍重型の順であると結論した。つまり、矛盾、言行不一致、ちゃらんぽらんが、首尾一貫、言行一致、真面目に勝るということになる。
過去の経験から学びすぎず、適当に”遊び”のある組織が適応上は強いのだ。いろいろな意見を内側で活発にぶつけながらも、同時に半歩先を行く取り組みには速い、そんな組織が理想だというのは、かなり妥当な結論だなと思った。
・パーソナルブランディング 最強のビジネスツール「自分ブランド」を作り出す
■パーソナルブランド(自分ブランド)の時代
著者はパーソナルブランディングのセミナー(2日で30万円)を年100回開催している、この分野の第一人者らしい。
・Personal Branding - Personal Marketing - Peter Montoya
http://www.petermontoya.com/
この本においてパーソナルブランドは、価値、能力、行動を象徴するものであり、「あなたは誰なのか、あなたは何をしているのか、あなたが他人と違うところ、あるいはターゲットとするマーケットに対してどんな価値を提供するのか。」を伝えるものであると定義される。
「ブランドを明確にすれば、ブランドはあなた自身を明確にする」
そしてパーソナルブランドは次の3つの印象をターゲットに与えるものとされる。
1 差別化
2 優位性
3 信憑性
パーソナルブランドに力を与えるものは、
1 感情的なインパクト
2 一貫性、
3 時間
で、つまり、肯定的な強い印象を引き起こすブランドメッセージを、一貫して長期間にわたって、繰り返し送り続けることが大切なのだそうだ。
この本のメインは成功するパーソナルブランドの作り方で、それは以下の8つのチャネルの使い方ノウハウでもある。
・得意先からの紹介
・プロフェッショナルからの紹介
・ダイレクトメール
・ネットワーキング
・セミナー
・PR
・ウォームコール(電話)
・ウェブサイト
企業と同じように個人のパンフレットやロゴも作れという。プロフェッショナルであれば能力があるのは当たり前で、能力よりも、他者に与える直感的な印象や、人間関係を重視すべきだとする。
そして、自分のパーソナルブランド構築にどれだけの費用を投じるべきか?。答えは収入の15-25%。かなり大きな比率である。
■ブログはパーソナルブランディング・メディア
Webサイトやニュースレターの話もでてくるが、ブログこそ、パーソナルブランディングのメディアなのではないかという気がしている。
ブログを書いたからといって大きく儲かるわけでもない。出版やテレビ出演のように有名になれるわけでもない。この本では「パーソナルブランドがなしえないこと」として以下の3つが挙げられていた。
・能力不足を補う
・有名人にする
・パーソナルブランドのみによって目標に到達する
だが、確実に「あなたは誰なのか、あなたは何をしているのか、あなたが他人と違うところ、あるいはターゲットとするマーケットに対してどんな価値を提供するのかを伝えるもの」としては機能する気がする。
まだIT業界に限られてしまうのかもしれないが、大企業に勤務しながら、ブログで活躍し、会社ブランドよりも個人ブランドで仕事上、名前が出てくる人も登場している。ブログが形成する個人ブランドは転職や独立後も引き継げる。名刺や履歴書以上の有効なビジネスツールとなってきていると思う。企業が「ビジネスブログ」をするだけでなく個人が「個人ブランドブログ」をする方法論もそろそろ誰か本にまとめてくれないかな。
一味違う会議ノウハウ本。
ダラダラ続いて結局何も決まらないダメ会議。日本の古い村社会の寄り合い文化を受け継ぐこのやり方は、欧米流効率重視の考え方では無意味に思えるが、実は「納得によるコミュニケーション」を重視した日本の会社風土に適応したノウハウなのだというユニークな分析がまず提示される。
伝統的な農家の村落共同体では、田に水を流すにせよ、稲刈りするにせよ、構成員全員の意見の一致が必要で、多数決では決められない。だから、会議では、「納得とまではいかないけれどまあしかたがないか」的了解に全員が達するまでダラダラする。
「ダラダラ続くダメ会議は、日本人に備わっていた気質が生み出した、構成員全員に仕事について納得させるための場だったのです」と著者は効用を肯定する。つまり、会議は結論を出す場ではなく、納得を作る場だという考え方。ダラダラ会議は誰かリーダーが結論を決めてしまうのではなく、ひとつの文章を共同で作り上げる共創プロセスであると高く評価される。
そしてダラダラ会議にも効用はあるのだから、それを否定するのではなく、「ダメ会議に利用されている人」から「ダメ会議を利用する人」になることが日本の会社社会で出世して、幸福に過ごす近道なのだと、会議での立ち回りの方法論を説く。
具体的には、
(1)会議では1年黙っていること
(2)「自分は納得できない」と発言し続けること
(3)たったひとりを納得させればいいこと
という3つの戦術が詳しく解説されている。
この本の内容はこれまでの会議マネジメントの本と180度違うので、かなり衝撃を受けたが、実際、こういうダラダラ会議はなくならない以上、その土壌の上でどう振舞うかを戦略的に考えてみるというのは、個の視点としては有益だなと感じた。
無論、いくら日本的寄り合いといってもことなかれ主義に徹していては出世は望めない。だから、この本のノウハウは、孤立することなく、周囲に受容される異議申し立ての方法論が主体となっている。「それは違うと思う」をどう言い出すかのメソッドである。そうすることで全員が納得し、会議後の団結と実行効率が高くなる。
まあ、ダラダラ会議がいくら長いとはいえ半日や1日だろう。その後のプロセスがきちんと動くようであれば、ダメ会議も価値があるということか。
日本の共同体の意思決定方法をめぐり多様な考察がある。会議論というより日本文化論になっている。最近、人気の「すごいやり方」、「すごい会議」の対極にある独特な一冊。
・すごい会議−短期間で会社が劇的に変わる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003427.html
・すごいやり方
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/001597.html
・会議が絶対うまくいく法
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000203.html