Books-Management: 2005年2月アーカイブ
・一億総マーケター時代の聞く技術―「明日の売れ筋」をつかむプログラム
これは本当にいい本だ。
私はこの半年、毎月のように企業で”ブログ講演”をやっている。ブログを一般の会社がビジネスにどう役立てるか、がテーマだ。どの会社も気にしているのは、コミュニティとの接点をどう管理するべきかということ。ブログはリンクやコメント、トラックバックなど外とつながるオープン機能満載である。ブログの可能性に期待すると同時に、企業の顔であるWebサイトに商品の悪口や会社への批判の声が集まって、評判を落とすことを恐れている。
企業がネットコミュニティとの間で起こすトラブルの原因はほとんどの場合、担当者の対応ミスである。知識と経験の不足である。火を消すつもりがニュースで取り上げられるような、大火事にしてしまったりする。失敗は経験者から見たらマズさ一目瞭然のことが多い。配信承諾を得ないリストに”CC”でぶしつけ広告を配信してしまったり、告知なしに一方的に利用規定を変更してしまったりするわけだ。
逆にネット対応を長年、上手にやっている企業もある。担当者自身がネットの住人として溶け込んでいて、かなり大胆な企画や発言をしても、評判は上々で、成果を上げ続ける。こうした企業はコミュニティとの間の、超えてはならない一線が見えている。何をするとコミュニティに愛されるのかを体得していて、自然にそうしたふるまいをしているから、ますます愛される。
そうしたネット対応の秘訣のノウハウ一覧がこの本である。企業とコミュニティのいい関係をつくる方法がわかりやすく、具体的にまとめられている。
■顧客の声の何を聞くべきか
インターネットの出現で企業の社員全員が顧客とつながってしまった1億総マーケター時代。「お客様は神様」かもしれないけれどお客様の声は神の声ではないとして、上手に「聞く」技術のガイドラインが示されている。
1 「意見」ではなく「事実」に着目する
2 「けなし言葉(否定)」ではなく「ほめ言葉(肯定)」に着目する
3 「意識」ではなく「行動」に着目する
意見から事実を「聞き」分けて、苦情ではなくほめ言葉を「訊い」て、意識ではなく行動を「訊く」ステップがこの本の基本思想。
そして、
ほめ言葉=ポジティブ・データ=機会発見情報
けなし言葉=ネガティブ・データ=改善情報
と分類し、「明日の売れ筋」はほめ言葉から生まれる。だから、事実にもとづくほめ言葉をたくさん聞く技術が大切だということになる。
■原理と応用
最初にいくつかの原理が紹介される。
ネガティブ〜ニュートラル〜ポジティブという軸のうち、ネガティブからニュートラルな意見Nを、インタラクションによって、ポジティブな意見に変換する「NP変換」だとか、
6つの要素(ターゲット、場面、ウォンツ、清貧、属性、ベネフィット)で顧客から声を引き出す新商品開発モデル「BMR」、接客理論の「CNAPP」など。
こうした原理をネットマーケティングの具体に次々に落とし込んでいく。
気になったところを抜粋:
・メールやメールマガジンの書き方
全体を三部に分け、本文、冒頭20行、タイトルの順で書くこと
・アンケート質問の設計
「この商品があったらあなたは買いますか?」などと聞くな
・ネットグルインの方法論
参加者をアンケート回答から選ぶ方法
・メール対応
「怒り」は引用しない、
・コミュニティでのコミュニケーション
あいづちの可視化、流れのNP変換、「第2波」観察
・クチコミの原理
クチコミは受信者原理。「聞き上手」、「リアルユーザ」、「商品開発者」、「ユーザの声」の4つが起点。ポジティブファクト中心に広がる。
それぞれ実際にうまくいったサンプルも例示されるので明解。
■これは一社に一冊本
少数の例外を除いて”ネットマーケティング本”の多くは、視野が狭かったり、文章が粗雑だったり、抽象的過ぎ(あるいは具体的過ぎ)て実用に使えなかったりするケースが多かったと感じている。手法にしても、クリック率の高い宣伝文の書き方だとか、サーチエンジン上位表示の仕方だとか、ゲリラマーケティング中心で、個人かSOHO企業向きのものが多かった(書き手がその立場が多いからだろう)。
この本は顧客コミュニティと良い関係を維持しつつ、価値ある情報を聞き出す手法が中心になっている。普通の会社で使いやすいはずだ。サポート返信メールの書き方から、アンケートの質問設計方法、コミュニティ運営術、メールマガジンの運用術、クチコミの利用法など、明日から使える現場の話が満載。
全体としては、文章がわかりやすく、ポイントがよくまとまっており、実例提示が多いこと。新人にとっては良い教科書になる。教育する立場の人間にとっても指導内容の整理やマニュアル作成に大いに役立つ「一社に一冊本」だと思う。私もこれは会社に置いておこうと思っている。
誰が書いたのだろうと最後に著者プロフィールを見たら、日本のネットマーケティングの老舗ドゥ・ハウスの常務さんだった。さすが...。
ニューヨーク市警でハイジャックや爆弾人質事件の専門交渉役(ネゴシエーター)として22年間働いたプロフェッショナルが明かす究極の交渉術ノウハウの本。交渉術の本は数あれど、交渉に失敗すると人質も自分も生命が失われるという極限状況で培われた戦術論は一読の価値あり。迫力。
・HostageNegotiation.com, home of the International Association of Hostage Negotiators (IAHN) providing negotiator training information, classes, audio, video, articles, news, gifts and products
http://www.hostagenegotiation.com/web/HostageNegotiation_v2/default.asp
著者のサイト。Hostage Negotiation(敵対交渉)のプロフェッショナル。
交渉を成功させるには、交渉・記録・決定の3つの役割が必要で、一人で交渉を行う際にも、各役割を別物として意識せよ、という。交渉役は共感ベースで相手と接触する。背後には冷静に決定を行う役がいる。記録係は忘れられがちだが長い交渉では極めて重要で、相手の要求や態度の変化読み取るためのデータを作成していく。この三権分立が破綻すると交渉は失敗するという。
そして交渉役は、相手の話す内容には、発言、感情、価値観の3つが含まれていることを意識し、言葉通り受け取らず、その背後にあるものを常に読み取ることが大切だという。犯人の要求タバコ3本で人質を解放させた経験談など参考になる実例多数。
なるほどと思ったノウハウを3つ。
アウェイが有利:
多くの交渉術の本では交渉は自分のホームとする場所で行うのがベストだとされる。だが、著者は交渉はだましあいではないから、相手がリラックスして本音を出せる敵のフィールドこそ有利だと指摘する。「交渉は戦いと対極に位置するものだ。自分が落ち着いていることだけでなく、相手が落ち着いていることもまた重要なのだ」
妥協リスト:
冷静に交渉を進めるために紙に一本線を引いて、妥協できること/できないことリストを作れという。アナログな方法だが、人質交渉から車や冷蔵庫の購入交渉まで、このやり方が一番役立ったらしい。
同情でなく共感を示せ:
交渉役がすべきなのは相手がこちらにどう映るかを話すことであって同情を示すことではないとする。たとえば「気が滅入っているんだね」と言わず「気が滅入っているように私には思えるんだが」と言うべき。
爆弾を抱えた犯人や今にも橋から飛び込もうとしている女性を前にして、著者がどう交渉してきたか、ドキュメンタリタッチで生々しく教えてくれるのが本書の読みどころ。今は警察を退職してビジネス交渉のコンサルタントになっているそうだ。妻や自動車ディーラーや上司を相手にどう交渉するかという現実的なゴールのノウハウも多数ある。
交渉術に興味がある人なら、娯楽作品としてもノウハウ本としてもかなり面白い一冊。
関連書評:交渉、説得術
・トップに売り込む最強交渉術
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