Books-Management: 2004年6月アーカイブ
■SECIプロセスなど基本のサマリー
ナレッジマネジメントの重鎮、野中氏、紺野氏の共同執筆による入門書。
そもそも何故、知識経営なのか。
冒頭で、マイクロソフトとコカコーラの例が挙げられる。この二つの企業は企業規模や売り上げでは、世界の大企業の中で中位なのだが、時価総額ではトップ10に入る(この本の執筆時点)。ブランドやソフトウェアという知識資産が、規模や売り上げ以上に、市場に高く評価されていることになる。そして、知識ワーカーが知識を生み出し続ける企業が21世紀の経済の主役となると多くの経営者がアンケートに答えている。知識が名実ともに、企業経営の中心となったのだと始まる。
KMの大家である野中郁次郎氏のSECIプロセスはあまりに有名で、大抵のKMの本に引用されている。知識には、文書や言葉になった形式知と、職人の熟練のような言語化できない暗黙知の二つがあるとし、組織における知識創造のプロセスは、ふたつの知が、次の4つの段階を螺旋状に上っていくプロセスだ、という理論。
共同化 身体・五感を駆使、直接経験を通じた暗黙知の共有、創出
表出化 対話・思慮による概念、デザインの創造(暗黙知の形式知化)
統合化 形式知の組み合わせによる新たな知識の創造(情報の活用)
内面化 形式知を行動・実践のレベルで伝達、新たな暗黙知として理解・学習
とても完成度の高い理論で、これはそのとおりだなと思っている。
情報システム主導によるKMは、統合化ばかりを強化しているのが弱点だと思った。この知識スパイラルをまわすためには、4つのプロセスがバランスをとらないといけない。個人の内面や、個と個の間(人間、ジンカン)あたりがポイントなのではないかなと思いながら、読み進めた。
■「知識とは信念である」
この本では、たくさんの理論や要素のリストが紹介されているのだが、なるほどと思ったのは二つある。
ひとつは知識とは信念であるということ。このセンテンスについては、昨年、日経BPの連載でも一度書いた。
「
ナレッジマネジメントの権威、野中郁次郎氏の著書の中で、知識の定義のひとつとして、「知識とは信念である」というセンテンスがあった。知識とはそれを持つ人にとっては、これまでのところ正しい「真」であり、信じていることだ、とし、この性質に「正当化された真なる信念(Justified True Belief)」という呼称を与えている。別の学者の「行動のための能力(Capacity To Act,K.Sveiby)」という定義も同時に紹介されていた。[橋本大也]
私たちは、知識を行動の原理として使う場合、その知識が正しい、少なくとも最善だ、と思っているものだ。だが、この場合、客観的な正しさや論理的な正しさは必ずしも求められていないように思える。
」
この続きは詳しくはこちらで。
・情熱的な発信者と知識の影響力
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20031111-01.htm
思い込み知識のパフォーマンス、モチベーションと情報感度、その強化方法、ITと個の影響力の範囲拡大、ポスト・デジタル・デバイドの丸裸の個人 影響力を持つ知識の使い手の戦略、悪貨と良貨を見分ける難しさと必要性。
■場と愛嬌
もうひとつは場こそ重要だということ。
表出化の場として会議やお喋りという対話場がある。「対話場は情報システムを介して創出することも可能です。ただし、対話の場自体がサイバー・スペース上にあるのではなく、チームやグループの考えをまとめるのに情報技術を活用するというのが有効な方法といえます」という。当たり前の話であるが、これはKMシステムの導入担当者がしばしば間違う所だと思う。政治家がハコモノを重視してしまうのと同じように、KM担当者はまずシステム主導の知識マネジメントを考えがちである。使われない社内掲示板が作られてしまう原因はここにあるだろう。
対話場というのは、自分や他人から情報を引き出すインタラクションの場である。そうした場は設計が難しいと思う。上から場のレイアウト、テンプレートを与えても、それだけではインタラクションは起きないものだ。例えばどんなによく設計された会議室であっても、意識統一のできていないメンバーを入れてしまったらアウトプットはでない。
私が場の技術でポイントになるのではないかと考えている要素に「愛嬌」がある。知識による理論武装などという言葉があるように、知識や信念に固まった人間同士は、知らず知らずのうちに、鎧を着てしまっているのだと思う。この鎧を溶かすのが「愛嬌のある人」なのではないかと思うのだ。
・放っておけない
・見逃せない
・ホロリとさせる
・ツッコミたくなる
・微笑ましい
・良い意味でのバカ
真の”ファシリテーター(会議の促進者)”とは、場のレイアウトを外や上から与える人ではなく、参加者と同じ視点から、場の雰囲気を、今あるものから、あるべきものへと連続的に変容させることのできる人であるような気がしている。そのはたらきを強く持つのが愛嬌だと思うのだ。愛嬌は知識インタラクションの呼び水であり、アフォーダンスであると考えている。
「知識がある」、「やる気がある」だけでなく「可愛げがある」人、「バカになれる人」を組織に増やすことが実はナレッジマネジメントの重要なポイントになるのじゃないか、そんな風に最近、考えている。そういえばブックオフの本にも「顔を赤くして必死にプレゼンするバカこそ採用すべき」なんてことが書かれていた。少し関係があるかもしれない。(この本の論旨とはだいぶズレた)
この本は、KMの理論や要素リストが多数紹介されており、頭が整理される。入門書としてとてもよい本だなと思った。
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先日、紹介した「すごいやり方」は反響が大きかったが、これもまた同類の本。声に出して読みたい日本語、3色ボールペン情報活用術、会議革命など、ビジネス本のベストセラーを連発している斉藤孝氏の近刊。
この人は出版不況の中で、年間何十冊も本を書いては、ベストセラーに食い込み続ける。出版界の寵児、救世主といってもよさそう。ノリにのっている人物が、今まさに実践している方法論というのは、気になる。
で、この本は、そのノリの部分が純粋に解説されている。
なるほどね、と思ったのを5つばかり紹介すると、
・ポイントはこの3つです
・じゃ、四十五秒でプレゼンします
・座標にして説明します
・具体的かつ本質的な質問いきます
・すみません、少し体ゆすります
「ポイントはこの3つです」は3色ボールペン情報活用術のプロモーション要素がありそうなのだが、これは、確かに効果的な感じがする。私もこれは年中やっている。事前に3つを考えていなくても、とりあえず「ポイントは3つ」と口に出して、ホワイトボードに箇条書きの点を3つ打ってしまうと、そのままスムーズにアイデアが出てきたりするなあと、納得した。
こういうセリフを先に口に出すのって、メールでも可能だと思う。
かきあぐねているメールがあったら、とりあえず、
「まず、ポイントは以下の3つです」
↓
「それは、200字で説明するとこうです」
↓
「座標に整理するとこうなって、」
↓
「...までに...をやります」
と、セリフで構造のアウトラインを書いてしまって、後から内容を埋めるというやり方。ときどき、実践しているのだけれど、結構、うまくいく。
この本と、「すごいやり方」との違いは、あちらはセリフがメインで、解説はおまけ程度だったのに対して、こちらは解説のほうがメインとなっている。内容的には、こちらの方が、基本編かなと思う。
時期的には、五月病からの脱出を狙う、新入社員に特におすすめ、かな。
関連情報:
以前、この本については、日経BPの参加している連載で諸先生方と議論したことがあります。こちらも面白いのでぜひどうぞ。
・橋本講座・第五弾「口癖と生産性」(私の問題提起)
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20040308-01.htm
・第五弾へのコメント1---口癖を縦と横に分けてみる
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20040310-01.htm
・第五弾へのコメント2---頭の中で自分に言う口癖は、精神衛生の維持にはかなり有効
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20040311-01.htm
・第五弾へのコメント3---「たとえば」「言い方を変えると」「今すぐという話じゃないんだけど」
http://sentan.nikkeibp.co.jp/mt/20040312-01.htm