Books-Internet: 2012年6月アーカイブ
「一般的にいって、過剰結合状態は非常に不安定で変化が激しいばかりでなく、事故も引き起こしやすい。1958年にプリンストンの数学者ユージーン・ウィグナーが発表した論文によれば、高度につながった大規模なシステムは、特定の状況下に置かれると必ず不安定になるという。システムの規模が増し、結びつきが強まるにつれて不安定さは増していく。ウィグナーが分析した計算式は、経済学者が経済システムを分析する際に用いる計算式に酷似している。」
シリコンバレーのベンチャーキャピタリストが過剰結合状態にあるインターネットの危険性を論じた本。現行制度の多くはもっと結びつきの弱い社会を前提に設計されている。インターネットがすべてを緊密につなげてしまうと、インターネットは制御棒を失った原子力発電所のように、臨界爆発を発生させかねない。
著者が提案する解決は、
1 正のフィードバック水準を下げる
2 事故が起きにくい強固なシステムを設計すること
3 むすびつきの強さの自覚
という内容。
特に重要とする1は、たとえば金融機関のレバレッジ規制、社会的に無価値な取引への課税、市場の透明性を高めることなど、国家の垣根をこえてなんでもありのインターネットに対して、何らかの規制をかけるべきだという。回路を加熱(正のフィードバックの行き過ぎ)から守るサーモスタット機構をもたねばならないという意見だ。
過剰結合の系がもたらす急激な変化は「ある文化のまわりの文化がその変化についていけない状態」つまり「文化的遅滞」をもたらす。環境が技術変化についていけないとき、大規模な文化的遅滞が起こり、社会を破壊する。だから、アクセルだけでなくブレーキが必要だというのはよくわかる。
しかし、既存のシステムを破壊したうえで、新しくてよりよいシステムが現れることもある。急速な変化でなければできない革命もある。著者が必要と強調する抑制を強める「負のフィードバック」機構はえてして旧体制の勢力を意味することも多いはずだ。なにが暴走で破壊なのかを、結果論で見極めるのは、結構難しいことなのではないか、とも思う。