Books-Internet: 2012年3月アーカイブ
・閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義
「グーグルで○○で検索して3番目にでてくるのが私のページです」という説明は、少し前から通じなくなっている。グーグルは検索結果のパーソナライズに取り組んでおり、過去にどんな検索をしたかによって、検索結果の順位をユーザーごとに変更しているのだ。ある人には3番目でも、普段の検索傾向が違う人には異なる順位で出てくる。
グーグルだけでなくネットの至る所にパーソナライズは仕掛けられている。ネット技術に習熟した人ほど、自分の興味関心のある情報が密度濃く現れる情報宇宙に包まれる。この現象を著者は"フィルターバブル"(これが原題)と呼んでいる。
フィルターバブルに包まれると目障りなものは見なくていいし、聞きたくないことは聞こえない。一見、自分を中心に世界が回っているような魅力的な情報空間に思えるが、多様な情報、異質な情報のインターネットの本来の魅力が失われてしまう。我々は、そうと気づかぬうちにグローバルなロボトミーを受けつつある」と著者は危惧する。
私たちは多様性や異質性と向き合うよりも、よく知っている情報ばかり好んで吸収しようとする。専門家ほどその傾向は強いという。
「専門家は、多大な投資をして世界を説明する自分の理論を構築する。だから数年もたつと、右にも左にも自分の理論が見えるようになる。たとえば、バラ色の経済に賭けている強気の株式アナリストは経済全体が破綻しかねなかった住宅バブルに気が付かなかった───誰にでもわかりそうなほどトレンドは明確だったというのに。」
「ある政党の支持者は自分の政治的信条に沿ったニュースソースを消費する傾向がある。教育程度の高い人は政治関連のニュースに興味を持つ割合が高い。だから、教育程度が高いほうが、まちがったことを学んでしまう可能性がある。」
そしてユーザーの検索や購買の履歴、交友関係、サービス利用状況などはグーグルやアマゾンのような企業によって膨大に収集され、統合されていく。そのデータはおすすめに使われるだけでなく、いずれは与信にも利用されるだろうと著者は予言している。友達に支払いがルーズな人がいるとあなたが銀行でお金を借りるとき不利な条件が課されるようなことがあるかもしれない。
グーグル・パーソナライズ・民主主義という副題がついているが、多くのエンジニアはこの問題に対して鈍感である。エンジニアの多くが自分は便利なサービスをつくっているだけと考えていて、ユーザーのニーズにこたえることが善だと考えているイメージがある。エンジニアが自分たちの仕事の倫理性や政治性を意識すべきだという指摘があったが、教育が文系と理系と両方を融合させることが真に重要な時代になってきたということでもある。
政治や倫理の世界と、情報科学と工学の世界はいまはとても離れてしまっている。住んでいる人種が違いすぎる。理系の科目をいっぱいとるには文系の科目も何割とらないとダメみたいなルールを作ったらいいのかもしれない。それから異質な人との逃げ場のないリアルな討論会もよさそうだ。