Books-Internet: 2011年10月アーカイブ
・検索エンジンはなぜ見つけるのか ―知っておきたいウェブ情報検索の基礎知識
Google、Yahoo,Bing,Baidu...。Webの検索エンジンって不思議である。何千億ページもあるWebページを一瞬で検索できる。検索エンジン会社にはどんな凄いスーパーコンピュータがあるのだろうか?そしてWebページは世界中の何億台ものサーバに分散しておかれているが、ページの追加、更新を登録するマスターデータベースのようなものは存在しない。検索エンジンはどうやってWebの世界をデータベースに取り込むのだろうか。
もれなく、すばやく、的確な検索を実現する。検索が3つの要件を満たすには、専門的には、クローリング、インデクシング、スコアリングという機構があって、N-gram、ページランク、ベクトル空間モデルなどの、さまざまな要素技術が働いている。詳細に語ろうとすると専門用語だらけで分厚い本になってしまう分野だ。
検索技術者の著者は、技術者ではない一般人に向けた平易な言葉で、たとえ話を使ってわかりやすくしくみを解説する。たとえば図書館には100万冊の本があるが蔵書目録は10冊くらいにまとまる。巧妙につくられた目録をつかえば膨大なページ数の中からでも必要なページを高速にみつけることができる、具体的には...という風に。
テレビのしくみ、電話のしくみ、コンピュータのしくみ。現代社会に生きる人間の常識として、検索エンジンのしくみも必須科目になっていいと思う。
技術書なのだが、たとえ話が古代プトレマイオス朝のアレクサンドリア図書館だったり、日本神話のオオクニヌシとスクナビコナだったり、ギリシア哲学のソクラテスだったりする。
著者の森大二郎さんとはミクシィでつながっていて「橋本さんのブログはいつも拝見していますが、実は本書の執筆中に橋本さんのブログを通して「プルーストとイカ」に出会い、非常に大きな影響を受けました。(八割方書き上がっていたものを一から書き直すぐらいの勢いで)。」というメッセージをいただいた。
書物と同じくらい検索が人類のコミュニケーションに大きな影響を与えるものという視野で書いたという。本当だとしたら、きっかけをつくることができて大変うれしい。
・プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-849.html
ウェブとはなにか。果てしない議論になりそうな大きなテーマを「ソーシャル」と「アメリカ」を軸に整理していく。完成度が高すぎるウェブ論。あまりに見事な総括に、逆に粗を探したくなって読み返してみるが、やっぱりよく書けているなあ、腑に落ちるなあと感心してしまう。
この本のカバーするキーワードは多数ある。AppleとGoogleとFacebook、フリーミアム、ネットワーク科学、Web2.0、ブロゴスフィア、複雑系、アーキテクチャ、スチュアート・ブランド、サイバネティクス、ハッカー、シリコンバレー、エンゲルバート、カウンターカルチャー、ベイトソン、ゲーム理論、自由、ザッカーバーグと『アエネーイス』、グローバルビレッジ、デモクラシー、エンタプライズ、イノベーション、クレアトゥーラ、全球...。出自の異なる多様なキーワードが、ウェブを生みだしたアメリカのハイテク産業の歴史へと結び付けられていく。
カウンターカルチャーがPC/ウェブを作ったというよく聞く仮説に対して、著者は、いやそれをつくったのは、アメリカの宇宙開発への夢であるという。PCもウェブもその夢の副産物に過ぎないとし、60年代ヒッピー文化という枠組みを超えて、より大きな歴史のベクトルの中に、PCとウェブ、シリコンバレーとインターネットを位置づけていく。
GoogleとFacebook、そしてAppleを真善美と割り振った著者の見識が、今後の時勢を読むのに参考になった。それぞれの企業が何をしそうか、なにをしないかを予想する指針になるだろう。
「ところで、いささか言葉遊びになるが、真善美という三つの基本的な価値になぞらえれば、科学的合理性を追求するGoogleは「真」、ユーザーという人間的なインターフェイスを通じて共同体の構築を勧めるFacebookは「善」、触角を通じた自在性を売りにすることで、ヒューマンタッチを具体化させたAppleは「美」、という具合にそれぞれ基本的な価値を実現していると見ることもできるだろう。」
ウェブのサービスをつくるうえで、真善美のどれを追求していくか、という問題設定もしてみると、未来イメージや競争戦略の展望がみえてきそうだ。
そしてとても響いたのはここ。
「つまり、ネットワーク科学には、純粋に数理的でシミュレーション的である「複雑系」や「非線形科学」の系列と、レヴィ・ストロース的な「人類学」的な系列の二つの流れがあるということになる。ネットワーク科学の成果は、ウェブ企業であればどこでも応用を考えていて、GoogleやFacebookはもちろんそうした企業に含まれる。そして、あえてその特徴を割り当てれば、Googleは前者の複雑系科学的なシミュレーション志向であり、Facebookはソーシャル・グラフを重視するところから後者のレヴィ・ストロース的な人類学的志向であるといってもいいだろう。」
機械と人間の融合がウェブである。融合された状態が当たり前になって、そこからやがて、複雑系的数理でもレヴィ・ストロース的エスノグラフィでもない、第三のあたらしい科学の研究領域が現れるのではないか。
ブログを一人で3万記事も書いた人気ブログ ネタフルの作者 コグレマサトさんがまとめた情報術の本だ。コグレさんは"ブログ専業"でもありネットでのネタ探しが生業である。私も『情報力』という著書を持つわけで、コグレさんにはライバル意識もあるのだが、プロの技を盗むためにこの本を買った。結論から言うと私はいくつかのツールを入れ替えた。うーん、ちょっと先を行かれていたなという感じだ。
コグレさんはまず情報をフローとストックに分けて考える。そして「目の前を流れていく情報の中から必要なものを網でキャッチして入れ物に入れる保管場所のイメージ」として、RSSリーダーやEvernoteなどのツールの利用技術を洗練させてきた。この本はコグレさん曰く「入門本」だが、膨大な思考錯誤の結果たどりついた現時点で最高の効率が達成できるデジタル情報収集と整理のノウハウが書かれている。
ニュースリーダーとスクラップ帳ツールを組み合わせて使うというやり方は、多くの人がやっているオーソドックスな方法論である。具体的にどのツールを使うか、どうやって使うか、で差が出てくる。
私は長い間愛用していたツール(Read It Later、ByLine)を、1か月ほどコグレさんおすすめのツール(InstaPaper、Reeder)に置き換えてみた。結局、両方とも入れ替えることになった。どちらも機能的には似ているが、ちょっとずつ便利なのだ。そのちょっとが積み重なって全体ではかなり情報処理の効率があがる。
たくさんのツールを思考錯誤で試すよりも達人のやり方をそのまま、真似てしまった方が手っ取り早い。入門書として、この本は薄いし、あまり理屈も長く書いているわけではないが、ここにでてくるツール類と利用法を見よう見まねすれば、ネットの事情通に近づける。
企業コミュニティの運営支援の専門家が書いた消費者ネットワークの収益化の方法論。
「心あたたまる関係」と「お金儲け」を両立させる方法が語られている。
多様なソーシャルメディアを4象限で整理する軸ってなんだろうとずっと考えてきたのだが、この本には、縦軸に「拠りどころ」(現実生活←→価値観)、横軸に「求めるもの」(情報交換←→関係構築)という軸が示されている。しっくりくる組み合わせだ。
■情報交換←→関係構築
関係構築を求めるコミュニティは、 20名規模、親密な「思いやり空間」、唯一性と居心地の良さが評価対象となる。一方で「情報交換を求める」グループは、規模が巨大になる、参加者同士は比較的離れている、利便性や有効性が評価対象となるという。
■現実生活←→価値観
「価値観を求める」コミュニティは、匿名性が高く、円状モデルで、自由な発話空間のイメージ。一方「現実生活を求める」は実名性高く、扇状モデルで、知人との連絡網のような性質を持つ。
この二軸で構成される4象限上に、ブログやSNS、掲示板など代表的なソーシャルメディアをマッピングすると、状況を簡潔に俯瞰整理できる。Facebookは関係構築と現実生活系、2ちゃんねるは情報交換と価値観系というように。コンサルタントの考え方、整理のテンプレートがいっぱい紹介されているのが仕事のヒントになりそうでうれしい。
著者は企業サイトの歴史をこんなふうに総括している。
「企業サイトは、第一世代の「メディアの時代」では、コンテンツを発信することで興味関心を惹きつけようとした。続く第二世代の「ツールの時代」では、優良なコンテンツを蓄積し、それを便利に使えるようにした。そして第三世代になり、企業サイトは、消費者に協力してもらってコンテンツをつくる仕掛けを搭載し、「場の時代」へ突入することになった。」
顧客が対話する場の構築こそ収益化のカギであるということを、10年以上前から考えて、300社以上の企業サイトを支援してきた実践者が語るノウハウや小論が満載。
ところで今週の土曜日に著者の武田隆さんとパネルディスカッションをすることになりました。ご興味のある方ご来場ください。
デジタルハリウッド大学の先駆的・先導的研究機関、
メディアサイエンス研究所による「研究発表会」を10月8日に開催
本学教員による全17の個性的な研究発表に加え、
豪華ゲストを交えた基調講演や対談を実施
お申し込みはこちら
http://www.dhw.ac.jp/ms2011/
研究者対談(13:00~13:40)
「ソーシャルメディアデザイン~ソーシャルメディアのこれまでとこれから~」
ビジネスでも活用されるようになったソーシャルメディアの活用法や、コミュ
ニケーションデザインのあり方などの「これまで」と「これから」そして「未
来のカタチ」を本学教授陣と株式会社エイベック研究所 代表取締役社長 武
田隆氏との対談形式でお話いたします。
ゲスト
武田隆氏(株式会社エイベック研究所 代表取締役社長)
橋本大也デジタルハリウッド大学教授
本多忠房デジタルハリウッド大学院准教授