Books-Internet: 2005年6月アーカイブ
ASTERIAは企業内の異種システムを上流で統合するEAI (Enterprise Application Integration) ツールの一種。会計システム、販売システム、生産管理システム、購買システム、社内イントラなどを連携させるプログラムを開発する。
・ASTERIA(アステリア)【データ連携・システム統合プラットフォーム】
http://www.infoteria.com/jp/product/asteria/index.jsp
ASTERIAの最大の特徴はこうしたEAIアプリケーションをアイコンを並べて線でつなぐビジュアルプログラミングによって短期間に開発できること。パワーポイントでシステム図を描く要領で、コンポーネントアイコンを並べてシステムの構成を作り、処理手順通りに線でつなげ、パラメータを設定するだけで、プログラミングが完了する。
あらかじめ、多様なシステムと連結するためのインタフェースや、出力フォーマット(RDB、XML、CSV、EXCELやPDFなどもある)が大量に準備されている。ASTERIAでは、設計すること=開発することであり、設計者はコーディングの高度な知識を必要としない。純粋にビジネスロジック部分の開発に集中できる。
最も便利なコンポーネントは「マッパー関数コンポーネント」と呼ばれるデータ変換機能。このコンポーネントでは左側の入力の項目に、任意の変換操作を行った後、右側の出力の任意のフィールドに差し込むことができる。こう書くと分かりにくいが、要はインプットとアウトプットの間のデータ処理をすべて記述できるわけだから、ほとんどのデータ処理プログラミングはこのマッパー上で作ることができる。
条件分岐や制御構造、サブフローや並行処理、例外処理もビジュアルで表現できる。システム構成と処理フローが図として残るから、膨大な仕様書は不要である。この図そのものがシステムの仕様になるのだから。
この本には試用版CDが付属していたので早速試してみた。ASTERIAはサーバとデザイナークライアントに分かれており、サーバはWebベースで管理することができる。クライアントはWindowsデスクトップアプリケーション。多少はルールを覚える必要があるが、CSVファイルに記述された顧客マスターデータから、特定の属性のお客さまリストを抽出して、メールを送るプログラム程度は30分もあれば完成してしまう。
大規模なEAI用途というよりは、むしろ、個人の定型業務の自動化に向いているようにも思った。単純な順次実行のバッチ処理ではなく、ある程度複雑な条件判断が必要なエージェントプログラムを、アイコンを線でつないでいくだけで手元で作ることができるのは、便利だ。
最終章にASTERIAの設計思想が開発者によって書かれているが、
「95点ルールと70点ルール」
「変わらないものから変わるものへ」
というお話がある。
世の中には、財務会計や生産管理のように間違いが許されない95点を求められるシステムと、うまくいかなかったら失敗から学んで次のフェイズで片付ければいい70点システムがあるという。一般にシステムの精密度は50点を70点にするのは簡単だが、80点を90点に、さらには100点に近づけていくには膨大なコストがかかる。すべてを銀行の基幹業務システム並みの完成度にすることは効率が悪い。
特にナレッジワーカーが日常使う情報系システムは、非定型的で変化要因が多い。95点のツールを完成させても、時代遅れのシステムでは成果が出せない。70点のシステムをすぐさま状況に応じて設計できることは大きなメリットになる。ASTERIAの活躍の場は、変化の速い、70点でも動くシステムが求められている場なのだと結論されている。
まったくその通りで、私の日常の情報処理も、まさにそうした70点ツールがいっぱい欲しい。今は暇を見つけてはPerlやPHPなどのスクリプト言語で、自分専用の自動化ツールを開発したりしている。だが、やりたいことに追いついていないし、情報のターゲットがしばしば変化してしまうので、やり直しが多い。
たとえば、一般の検索エンジンや、ECサイトのデータベース、ソーシャルネットワーク、ソーシャルブックマークなどのWebアプリケーションから情報を取得したいのだけれど、先方の仕様は良く変わる。一度ツールを作成しても数ヶ月で動かなくなってしまったりしている。作り直しはコードの読み直しになる。ただでさえその場しのぎのスパゲッティコードなので、再度、全貌を理解するのにも時間が掛かる。そのうち、メンテナンスをあきらめてしまう。引継ぎなど不可能だ。
ASTERIAのように図面設計すること=開発することになるツールであれば、修正も容易だ。ビジュアルプログラミングは、作ってみようかの心理ハードルも低い。まさに個人のナレッジワーカーにとって強力な味方になりそうだ。
ただし、ASTERIAの最大の欠点は価格だろう。販売代理店の情報を見ると300万円近くするようだ。現在はEAIツールとして、ある程度大規模な異種システムの上流統合の市場を対象としているらしいが、本当の需要は個人のナレッジワークにこそあると思った。
また、完成したアプリケーションをPerlなどのスクリプト言語にエクスポート(そしてインポート)する機能もあると、今までの開発スタイルと連続できてさらに便利になるだろう。これができればノンプログラマがプログラマと協働することが可能になる。
と、いろいろ感想を書いてみたけれど、ビジュアルプログラミングで情報業務系を簡単開発できるツールは、今まさに企業のナレッジワークの現場に特に求められていると思う。
・今日のイベントはどうでしたか?とアンケートメールを参加者に送り、サーバで結果を集計してEXCELファイルとしてイントラにアップロードし、担当者が開く
くらいのアプリが、必要なときにすぐ作れるASTERIAは便利である。こうした芸当を5人、10人がこなせるような会社であれば、導入の検討余地がありそう。
関連:
・ズバリ自動化 Waha! Transformer Personal
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003267.html
・インターネット広告革命―クロスメディアが「広告」を変える。
この本の主題であるインターネット広告革命の内容とは、
1 広告表現革命
ブロードバンドに対応した音声や映像によるリッチメディア広告や、ユーザとインタラクションするインタラクティブ広告など、広告表現の多様化。
2 ターゲッティング革命
ユーザの閲覧履歴分析やテキストマイニングの技術を使ってユーザの関心を割り出したり、配信時間帯を制御することで、視聴者層を絞り込む。
3 メディアプランニング革命
メディアミックス(異なる媒体の加算効果)からクロスメディア(媒体効果の乗算)によるメディアプランニングへ。
という3つのインターネット広告の変化から構成される。
ポスト・クリックだけでなくポスト・インプレッションも重視したブランド形成型の広告戦略が必要だという分析がある。
従来のWebマーケティングでは、投下した広告予算の効果を計測する指標はクリックレート(クリック数÷露出数)であった。つまり露出(インプレッション)しただけではダメで、即時にクリックされなければその広告の効果は評価されなかった。
しかし、最近のユーザの動向をWeb視聴率会社の調査データやアクセスログのデータから分析していくと、広告が即時にクリックされなくても、露出後一ヶ月以内に広告主のサイトへユーザが訪問する率が高いことが発見されたという。つまり、インターネット広告にもテレビCMのようなブランド認知の効果があり、露出効果も含めての広告戦略が必要になってきた。
具体的には米国ダブルクリック社のデータによると、2003年第2四半期から、
1 クリックスルー率
広告をクリックしてから広告主指定ページを訪問した比率
2 ビュースルー率
広告を見ているが、その場ではクリックせず、30日以内に広告主サイトを訪問した比率
の2つの指標で、後者が前者を上回る状況になったそうである。
即時にクリックされなければならない広告は、私流にわかりやすく言えば「ポン引き」みたいなものだと思う。その場でクリックさせる工夫はいろいろある。たとえば古い手法なら、バナー広告を押しボタン風にするとか「クリック」という文字を入れるだとか、破線で囲ってみるなど。こうした小手先の工夫のトレンドはめまぐるしく変化するが、それほど難しいことではない。
しかしネットユーザもリテラシーが高まってきてポン引きを見抜くようになったし、クリックしたからといって買うわけでもない。ポン引き広告の限界がきたのだと思っている。これは私自身も感じていて、たとえばよく知らないWebショップの商品広告バナーを見て商品がほしくなった場合、まず行くのはその知らないショップではなくて、アマゾンや楽天などの既に知っている「有名サイト」である。
以前、書評した「けなす技術」の中で切込隊長氏が、マス広告が消費者に選択肢を与え、選択肢からの決定にはネットが大きな影響力を持つ、ネットだけではマーケティング効果は期待薄だと書いていた。この本のメディアミックス(異なる媒体の加算効果)からクロスメディア(媒体効果の乗算)へというメッセージはそれに近いメッセージである。
テレビのようなマスメディアと、インターネットメディアを組み合わせて、ブランドを作ったうえでポン引きもやるのが賢いということなのだと思う。
・けなす技術
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003238.html
テレビとインターネットを融合させた広告キャンペーンが効果的と結論されている。
ネット上でのブランド認知という点では、ユーザに強い印象を与えるリッチメディアやインタラクティブ広告が、効果が高いとされていた。BMWのショートムービー広告キャンペーンの成功などが語られている。
最新の広告事情がわかって面白い本だったが、著者は博報堂資本の大手ネット広告代理店の副社長であり、要旨はもっと幅広く広告を出しましょう、特にネット広告の比率を上げましょうという結論だから、ある程度割り引いて考えないといけない部分もあるなと感じた。
特に映像や大きなサイズのFlashを多用したリッチメディア広告については、その商品に強い関心のある人には効果が確かに高いのかもしれない。たとえば今ならスターウォーズの予告編ムービーが3分間も見られるビデオ広告があったとしたら、私も見たい。クリックもするし商品も買うかもしれない。しかし、通常はそこまで強い関心を持つユーザにターゲッティングしマッチングを成功させるのは至難の技なのではないか。スターウォーズのようなロイヤリティが確立されたブランド商品は数が少ないのだから。
むしろ、インターネット広告の未来は、リッチメディア広告のように”ユーザを捕まえる”ものではなくて、アドセンス、アドワーズのように広告であることをなるべく感じさせず、そのページの情報価値を高める(関連度の高い広告情報表示)ことで、”ユーザが捕まえる”ものであるような気がしている。
サイトを見て何かを買うというプロセスの間に、何らかの広告があったことをユーザが意識することがない、というのが究極的なインターネット広告ではないだろうか。
この本の一節によると、現在のインターネットのトラフィックの4割から6割がファイル交換ソフトによるものだそうだ。その内訳は動画が38%、音楽20%、画像17%。インターネットは実は動画をP2Pで交換する用途に一番使われているのだ。これにはちょっと驚く。
■P2Pという概念の整理
かつてナップスター全盛の頃、IT業界ではそこかしこで新型P2Pのアプリケーションについてブレストが行われていた。参加者はP2Pを音楽ファイル交換以外で使う方法を考えるわけだが、
・P2Pで2ちゃんねる形式の掲示板
・P2Pで楽天
・P2PのWeb検索エンジン
・P2Pで分散スーパーコンピュータ
・P2Pで電子メールのやりとりができるアプリケーション
などなど、アイデアは次々にでてきた。
だが、99.9%のアイデアは、それってP2Pでなくても良いのでは?とか、それはP2Pと違うのでは?などの理由で却下されていき、最後は皆で「そもそもP2Pってなんだっけ?」というオチにはまり込み、こんがらがったままタイムアウトするのが常だった。
パソコン同士をLANで相互に接続するのもP2Pだし、インスタントメッセージを送りあうのもP2Pだし、音楽ファイルを共有するのもP2Pである。SkypeのようなP2PでIP電話を実現するケースもあるし、宇宙からくる電波を分散コンピューティングで解析するのもP2Pだった。P2Pという言葉にはいくつもの異なる意味が混在している。
P2Pという言葉の意味をこの本はうまく次の3つに整理している。
1 Peer to Peer(PCとPCをつなぐP2P)
2 Person to Person(人と人をつなぐP2P)
3 People to People(利用者の利用者によるP2P)
この定義では、クライアント/サーバ型のシステム上で実現されていても(たとえば電子メール)、2や3であればP2Pである。実現技術の仕組みに限らず、もっと広くP2Pをとらえようとしている。そして、P2Pファイル共有アプリの著作権侵害の問題や、セキュリティの問題についても考察されている。P2Pの全体像を知らない人にも伝わるように、包括的に書かれていて、参考になる。
■P2Pアプリの最新事情をわかりやすく
後半は具体的に最近流行しているP2Pアプリケーションを紹介している。動画配信のKontiki、巨大ファイル配信のBitTorrent、P2P電話のSkype、写真交換のHello、音楽コミュニティのMercora、コラボレーションツールのGrooveなど。P2Pアプリケーションについてはヘビーユーザ向けのIT雑誌以外では真面目に内容が説明されることが少ないので、こうしたビジネス書で丁寧に説明してもらえるのは、ネットのマニア層ではないビジネスマンにとっては特に助かるだろう。
(幸か不幸か私はマニアだったため...)多くのアプリについては実際に使ったことがあったが、ひとつ知らないアプリの名前が出ていた。調べてみたら大変興味深いものであることがわかった。P2Pで地震情報を共有するアプリケーション。
・P2P地震情報 - 地震情報を自動でチェック
http://www11.plala.or.jp/taknet/p2pquake/
「
当サイトでは、次の3つを「P2P」によって実現しよう、という試みを行っています。
気象庁の地震情報を自動でチェック(P2Pで伝達することで気象庁Webサーバーへの負担を減らす)
ユーザーによる「揺れた」という情報の発信・共有(より早く地震発生を知る)
地震に関する情報の共有
いわゆる「地震情報チェッカー」です。普段はタスクトレイに隠れているので、常駐させておいても邪魔になりません。また、P2Pだからといって「怪しい」「違法」といった心配はなく、むしろP2Pによる様々な利点を感じていただけると思います。
」
この仕組みを使うと気象庁の発表よりも早く実際の地震発生を知ることができるという。気象庁の公式大本営発表と草の根の地域報告を融合させた点がP2Pらしくて面白い。
■P2Pグループウェアの可能性?
もっと真面目に考えてみると、Grooveのような実名グループ内ファイル共有は、現在のクライアント/サーバ型から置き換えられる可能性があると感じている(3ヶ月使ってみての感想)。アリエル・プロジェクトAのような、各自の手元の最新情報を全員が同期するスケジューラーやグループウェアもP2P移行がありえるのではないだろうか。
・Groove Virtual Office
http://www.groove.net/home/index.cfm
マイクロソフトに買収されたP2Pグループウェア。共有フォルダがユーザ間で同期する。ファイルをアップロード、ダウンロードという概念がなく、放っておけばグループ全員のフォルダの内容が同じものになる。
・複数プロジェクトを一元管理できるプロジェクト管理ソフト「アリエル・プロジェクトA」- Ariel Networks
http://www.ariel-networks.com/product/project_a/index.html
ファイルや情報をサーバに登録する手間、ファイルを指定して送りあう手間がなくなるのはとても便利だ。マイクロソフトはGrooveを買収している。Windowsの”マイ フォルダ”の隣に”アワ フォルダ”などというフォルダが登場する日も近いのだろうか。
・P2Pビジネスブログ
http://www.ariel-networks.com/news/
著者の徳力さんは、P2Pコラボレーションソフト開発のアリエルネットワークスのメンバーで、P2Pビジネスの充実したブログを運営している。必見。