Books-Internetの最近のブログ記事
感動した。やはり西垣通は凄い。バズワードともいえるくらい広まっているが、定義がなく諸説入り乱れる集合知を、日本の情報学の権威が整理してくれた。集合知がなぜ有益なのか、論理的な根拠が大切だとして、基本としての式が示されている。大勢が知恵を集めると誤差が減るのだ。
集団誤差=平均個人誤差 ー 分散値
だから「推測を行うメンバーのそれぞれの推測モデルの質がよいこと、しかも多様な推測モデルが用いられることが、集合知によって正解がえられる条件にほかならない」。文殊の知恵が起こる条件を示している。
人間は世界についての知識を外部から獲得するのではなく、世界のイメージを「内部でみずから構成していく」。心は本当は閉じている。私の赤とあなたの赤が同じ保証はない。生命はオートポイエーシス自己創出系だ。だから、一人称の視点から三人称の客観知をいかに導けばよいのだろうかという問題設定がでてくる。西川アサキ『魂と体、脳 計算機とドゥルーズで考える心身問題』がしばしば引き合いに出される。この本も読まなくては。
そして対話から生まれるリーダー論。これがネット選挙解禁の今、まさに注目すべき重要な考察が展開されている。
「もしある特定のメンバーが「物知り・情報通」で、多数のメンバーの質問に答える能力をもっていれば、対話を繰りかえすうちに、そのメンバーはやがて集団のリーダーと見なされるだろう。そしてリーダーの回答(意見)は単なる個人的な回答(意見)にとどまらず、いずれ三人称の客観知識に近い権威をもつようになっていく。要するにリーダーとは、他のメンバーから「信用」される偉い存在なのだ」
こうして、メンバー同士の対話が頻繁におこなわれるとき、あるメンバーが、他の多くのメンバーから借りた知識を、一時的にせよ集約してたくさん身につけ、いわば知の交流センターのような役割を集団のなかで果たす場合がある。このとき、そのメンバーは名実ともに集団の「リーダー」という存在になっているのだ。
インターネットコミュニティのようなフラットでオープンなネットワーク上でリーダーの選出が行われるとき、何が起きるのか?ここではシステム論的観点から、予想される政治状況が明らかにされる。
「大ざっぱにいうと、開放システムでは、各メンバーにとって世界があまりに「透明」に見えすぎるのだ。瞬間的にせよ、そこでは一元的で絶対的な価値観(世界観)がうまれる。したがって、従属閾値などわずかな周囲条件(外部環境)の変動にも敏感に反応し、グローバルな状況が急激に変わってしまう。つまり外部環境に他律的に依存して、「唯一のリーダー/複数のリーダー/リーダー無し」といった状態のあいだを不安定に揺れ動くのである。」
リアルタイムにフィードバックし合うようなシステムは不安定になりがちというのは直観的にもわかる。ほどほどの相対主義と価値観の共有が大切という結論が導き出される。そしてほどほどの不透明さや考える時間も人間社会には必要なのだ。
「フラットで透明な社会、つまり、情報が迅速に伝わりすぎる社会で、質疑応答による議論をしていると、かえって社会は安定しなくなり、適切な秩序ができなくなる。過度に均質化され中央集権化されてしまうか、逆にアナーキーな無秩序状態になりやすいのだ。 人間集団のなかに、ある種の不透明性や閉鎖性があるからこそ、われわれは生きていけるのである。情報の意味内容がそっくり他者に伝わらないというのは、本質的なことなのだ。」
著者はコンピュータの役割進化はAI(Artifical Intelligence) IA(Intelligence Amplifier)への転換すると予言している。人間の思考を代行してくれるのではなく、集合知の生成を支援するツールであり場として進化していくということらしい。
ITビジネス雑誌がなくなっていく中で果敢に創刊するアスキークラウド。創刊準備号を読んだ。
力の入ったAmazon特集。アマゾン消費VS楽天消費というユーザー行動比較調査が面白かった。私は典型的な「アマゾンおやじ」だ。ネットを活発に利用する自由人型男性ユーザー。楽天はライトユーザー、女性客に人気でポイント意識高いとか。同じ価格の商品を購入する場合に選ぶ店としては6割が楽天と答えていたのは意外。
「もうモテ男はLINEでナンパしない!?」というポストLINEの次世代SNS予想も先を行く話題で突き抜けてて次も読みたいと思った。かなりネットオタクのつもりの私も知らないサービスを紹介している。ムムムやるなってかんじ。力は入っているが硬派すぎることもなく、週刊アスキーよりも読みごたえたっぷり。
書評コーナーが3ページもあったが充実させてほしい。
この雑誌、全体としては大人のビジネスマンがワールドビジネスサテライトみたいに家でくつろぎながら読むのによいかな。実は会社を取材してもらったので次号あたりで掲載してもらえるかもなのですが、この記事内容のレベルなら嬉しい。期待期待。
元ヤフー知恵袋などのプロデューサーで、現在はアカデミックリソースガイド社長の岡本さんが本を出版した。なんと文章術の本だった。なぜ岡本さんが文章術?と意外だったが、読んでみて、なるほど納得。ヤフーのような何百万人が使うサービスで、万人に伝達できるニュースリリースやお知らせを書く実践ノウハウがまとめられていた。
たとえばイベントの集客用の告知文をどう書くか。私もよくイベントを主宰するのでこの書き方が難しいのは知っている。岡本さんがおすすめするのはたとえばこんな文章。短い文字数でちゃんと伝わる秘訣がここにいくつも込められている。
「2012年12月31日(月)、山下公園で「本年最後」の忘年会を開催、参加者募集中」
「2012年10月21日(日)~10月22日(月)、山中湖でライブラリーキャンプ2012秋「創る図書館を創る/未来の図書館を作る」を開催、30名様限定で参加者募集を開始」
なぜこうした単語の並びの文章にすべきなのか、について、岡本さんは、
ウェブでの文体論としては、
1. 主観的な部分は前に、従属的な部分は後にする
2. 意思や要件は明示する
3. 過剰な敬語は使わない
4. キーワードを意識して書く
ということ。そして
1. 短文で書く
2. 改行を入れる
3. 箇条書きにする
4. リンクを用いる
5. 画像を差し込む
6. 変化を明示する
を心がけよといって具体的な添削例を示しながら話を進めている。
ウェブでの<伝わる>文章とは、より目にとまりやすく、読みやすい、ウェブで伝わる文章のことをさす。ウェブ上で文章を書くサービス担当者やブロガーが学ぶべき内容。為になった。
週刊アスキー 2013年 1/29増刊号 は、指に着ける「ウルトラマウス」が付録としてついてくる。580円。オマケのマウスなんてたぶんロクなモノではないだろうなとわかっていながら、こういうガジェットをコスト的に無理してでも、年末号の付録にする出版社の心意気が大好きなので、即購入してみた。
質感としてはそれほど安っぽくはない。
雑誌の表紙イメージだけ見ているとまるでワイアレスみたいだが、さすがにこの値段でそれは無理だったみたいで普通にUSBケーブルでPCに接続する。人差し指にマウスを装着して、光学読み取り面を下を向けてマウス操作を行う。人差し指でマウスパッドの上をなぞる感覚。
これはジェスチャー操作がやりやすいからウェブブラウジングと相性いいんじゃない?と思ったが読み取りが雑なために、カーソルを思うように動かすのが難しい。それに比べると左右のクリックボタンとマウスホイール部分は操作性が良い。
クリックとホイールだけで操作するアプリを、寝転がりながら行うのによいと思うのだが、それってどういうアプリだろうかが不明。
結局、実用性としては大変な疑問符がつくシロモノだったが、質感が悪くないし用途を考えるのが楽しいのでかなり気に入っている。2週間くらいは遊べそうだ。
・LINE なぜ若者たちは無料通話&メールに飛びついたのか?
コグレマサトさんとまつもとあつしさんがタイムリーにLINEの人気分析本を出版した。
初期のLINEは面白さがわかる人とわからない人が明確に分かれたサービスだったと思う。かつてSkypeに飛びついたコンピュータのアーリーアダプター層とは異なる、ビギナーというかほんわかミクシイを楽しんでいる若者がよく使い、逆に大人たちは何が面白いんだろうと首をかしげていたように思う。それがあっという間にユーザー数8000万人。いまやフェイスブックやツイッターよりも成長スピードが速い。
この本ではLINEのメインユーザーとは、
・スマートフォン中心でパソコンを使わないような若者が中心
・スタンプを使ったカジュアルでエモーショナルなコミュニケーションを好む
・「アドレス帳のマッチング」を通じて毎月500万人以上の増加を続けている
だと簡潔に総括されていた。この勢いはフェイスブックが似たようなメッセンジャーを出しても衰えることがない。チャットの王者だったSkypeも大きく水をあけられた格好だ。LINEがこれまでのグループチャットと違うのは一目瞭然だ。会話よりもスタンプが目立つ。ビジュアルでエモーショナルな会話ができること。
本書のインタビューではLINEのプロジェクトを率いるNHN JAPANの舛田淳氏は、LINEの重要なポイントとなった大きなキャラクターのスタンプの開発経緯についてこう語っている。
「そういった「スマートコミュニケーション」に何が求められるのか?というと、スピード、リアルタイム性はもちろんですが、もう一つは、いかに感情をインスタントに、シンプルに伝えられるかということに腐心したんです。」
ソーシャルネットワークが発達したことで、私たちは互いの背景情報を共有することが簡単にできるようになった。だから交わされるメッセージは絵文字のように短くなっていく。互いの文脈を共有できているので、長々と説明をしなくても、短いつぶやきで、微妙なニュアンスまで伝達してしまうのだ。そして電話番号を知っている親密な関係性では、会話の内容よりも、つながっていること、会話をしていること自体が主なメッセージであることも多い。LINEのエモーショナルなスタンプによる会話は、SNSとスマホの時代のニーズを絶妙にとらえている。だから流行しているのだと思う。
もちろんエモーショナルなコミュニケーションはエモーショナルな関係性を産む。ケータイiモードの立役者だった夏野剛氏が、本書のインタビューの中で、LINEが出会い系になってしまうのでは?という懸念に対して「出会い系がいけないと言われているのは日本だけなんです。よく考えたら何でいけないのかわからないんです。渋谷でナンパするのと、mixiで出会うのと何がいけないのか分からないんですけれど、日本だけが特別倫理上の話をするんですね」と答えているのが面白い。そうかグローバルでは出会い系は問題なしか。
LINEの使い方ではなく人気の理由を考える材料がいろいろ入っているタイムリーな新書。
・iPhone Magazine (アイフォン・マガジン) Vol.32 2013年 01月号
iPhone4SをiPhone5へ乗り換えたので買った雑誌。冒頭にiPhoneとAndoroidのシェアが掲載されている。iPhone32.3%、アンドロイド64.1%。数字的にはアンドロイドなのだがiPhoneは1機種で3割以上のシェアをとっているのが凄いとしている。iPhone5とアプリの紹記事がメインだが、ケースやアクセサリのカタログとしてもよい本だった。
・アップル iPhone 5 対 iPhone 4S 詳細比較チャート
http://japanese.engadget.com/2012/09/12/iphone-5-iphone-4s/
ファーストインプレッションはあまり変わらないなあというものだったが、使っているうちに、じわじわと良さがわかってきた。私の考えるiPhone5移行のポイントは3つ。
1 LTEが高速
体感的にも実測値的にも無線LANと同じような速度が出ている。通信がボトルネックになるアプリは多いので、CPUの高速化もあるだろうけれど全般的にLTEのおかげで軽快感がアップしている。
2 画面が縦に伸びたこと
3.5インチ 960 x 640→4インチ1136 x 640と縦に伸びた。アプリのアイコンが縦に5段入っていたところが6段になった。よく呼び出すアプリが見つかりやすくなり、操作性がよくなった。通知センターの情報量が増えた。
3 テザリングが利用可能
これはソフトバンクの場合、12月からなのであるが、iPhoneとWiFi版iPadを持ち歩く身としてはありがたい。
不便なこととしては
・マップの性能がよくない。
・コネクタの形状が新型変わってしまった。iPad充電と併用できない。
の2点。
とはいえ全体的には乗り換えに満足。
著者紹介。
「村上福之(むらかみ・ふくゆき)
株式会社クレイジーワークス代表取締役 総裁
1975年大阪生まれ、37歳。8歳からプログラミングを学ぶ。関西の家電メーカーでの開発職を退職してオーストラリアを放浪中、Webデータベース開発を受託したことからWebプログラミングを独学で学び、業績から永住権を得る。帰国後、フリーエンジニアとして漫画喫茶で開発した独自の動画コーデックが、経済産業省主催のビジネスプランコンテスト「ドリームゲートグランプリ」で国内2位となり、審査員を務めたGMOインターネット熊谷会長の支援で上京。その後に電子書籍プラットフォーム「androbook」や、音楽配信プラットフォームである「andromusic」などを開発。」
この脈絡不明気味の著者の村上さんと私はフェイスブックでつながっている。のだが、実は、いつどこでお会いしたのか覚えていない。社長なのに日常的に「金ない」「富士そばなう」「死にたい」的つぶやきを連発する。それに釣られてタイムラインをクリックすると、ソーシャルメディアやインターネットの本質を探究した独特のおもしろーい長文記事を書いているのがみつかる。その独特のおもしろーい記事を集めたのがこの本である。
「僕のように、よくブログを書きなおかつそのブログの文章が長い人はだいたい「なんらかの意味で面倒くさい人」です。」という法則な話とか、
「しかしながら、1万2000人というフォロワーがいるいもかかわらず、僕は土日を一人で過ごしています。嫁も恋人もいません。」という自虐的な話とか、
「フォローワーも、「いいね!」もカネで買える」(5000フォロワー3800円、5000いいね!15000円が相場)というあからさまな話、そして
「楽天で1位」「iPhoneの○○ランキング1位」は実はたいしたことがないという話。
他にも1日で作ったサイトを150万円でヤフオクに売った話とか、3日で280万円集めたソーシャル募金とか、年収12億円アフィリエイターとマック赤坂を信用調査してみた話など生々しい体験談も読みごたえがある。業界人の私でも新発見や再認識できてよかったと思える情報がいくつもあった。
タイトルからするとソーシャルのブームに踊らされてもいいことないよという後ろ向きな本かなと思ったが。実は後半はネットベンチャーとしてのサバイバル論や仕事のうまい進め方なんかもたっぷり書いてあって案外にポジティブ指向。ソーシャル大好き人間でも決して厭な気分には終わらない。著者のサービス精神旺盛さを端々に感じる楽しく、そしてITベンチャーな人には参考情報満載の本。
「一般的にいって、過剰結合状態は非常に不安定で変化が激しいばかりでなく、事故も引き起こしやすい。1958年にプリンストンの数学者ユージーン・ウィグナーが発表した論文によれば、高度につながった大規模なシステムは、特定の状況下に置かれると必ず不安定になるという。システムの規模が増し、結びつきが強まるにつれて不安定さは増していく。ウィグナーが分析した計算式は、経済学者が経済システムを分析する際に用いる計算式に酷似している。」
シリコンバレーのベンチャーキャピタリストが過剰結合状態にあるインターネットの危険性を論じた本。現行制度の多くはもっと結びつきの弱い社会を前提に設計されている。インターネットがすべてを緊密につなげてしまうと、インターネットは制御棒を失った原子力発電所のように、臨界爆発を発生させかねない。
著者が提案する解決は、
1 正のフィードバック水準を下げる
2 事故が起きにくい強固なシステムを設計すること
3 むすびつきの強さの自覚
という内容。
特に重要とする1は、たとえば金融機関のレバレッジ規制、社会的に無価値な取引への課税、市場の透明性を高めることなど、国家の垣根をこえてなんでもありのインターネットに対して、何らかの規制をかけるべきだという。回路を加熱(正のフィードバックの行き過ぎ)から守るサーモスタット機構をもたねばならないという意見だ。
過剰結合の系がもたらす急激な変化は「ある文化のまわりの文化がその変化についていけない状態」つまり「文化的遅滞」をもたらす。環境が技術変化についていけないとき、大規模な文化的遅滞が起こり、社会を破壊する。だから、アクセルだけでなくブレーキが必要だというのはよくわかる。
しかし、既存のシステムを破壊したうえで、新しくてよりよいシステムが現れることもある。急速な変化でなければできない革命もある。著者が必要と強調する抑制を強める「負のフィードバック」機構はえてして旧体制の勢力を意味することも多いはずだ。なにが暴走で破壊なのかを、結果論で見極めるのは、結構難しいことなのではないか、とも思う。
ネット情報活用術の定番が出た。この種のテーマは類書が多い(実は私も過去に一冊書いているが(笑))。IT業界の著者が多くて、内容がネット、テクニカルに偏る傾向があった。その点、本書はバランスが取れた内容で、一般のビジネスマンやライターにもおすすめしやすい内容。
「収集」、「保存」、「確認」、「編集」、「発信」、「共有」、「安全」の7つのプロセスからなる。新聞記者らしいのは「確認」と「安全」を大切にしているというところ。「確認」とは発信元を確かめる、ウラをとるということ。「安全」とは情報の取り扱いにおける安全やネット上のトラブルに巻き込まれないための配慮のこと。
発信を前提にした情報収集術。これって実はブロガーやツイッターにとっても役立つノウハウだ。ネタにした情報発信者が実は偽物だったり、いい話だと思って広めたら作り話だったりして、そこを突っ込まれて逆切れして炎上などという、ありがちな悲劇にあわないですむ。新聞記者ならウラをどう取るか、実例で学べる。
そうした"守り"をおさえたうえで、私が一番参考になったのは、"攻め"の部分でこんな文章の書き方。
「記者の書き方といえば、新人記者のころに教わったひとつのコツがあります。ある市長のインタビュー記事がうまくまとまらず、取材ノートをめくりながら途方に暮れていたときに、先輩記者がこう教えてくれたのです。「一番面白かった話から順番に書けばいい。行数になったらおしまい」
物事の順序や起承転結みたいな形式にこだわって、順番に書いていくと平板で面白くない文章を書いてしまう。冒頭から読ませる記事でなければ、ネットではなおさら読んでもらえない時代になったわけで、この古いノウハウは今もまた活きる。
本文記述には無数に出典(主にURL)が示されている。巻末にはネットの理解に役立つ20冊も挙げられている。このオマケが実はかなり内容が濃くてお得。
なんでもかんでもグーグルまかせの危険性を語った一冊。
特に「選択アーキテクチャー」の問題は重大だと思った。行動経済学の研究では、ユーザーに与えられた選択と序列が、その意思決定に極めて重大な影響を与えることが、さまざまな人間の行動において明らかになってきている。
自由意思を尊重しているようにみえるシステムでも、人々の行動は初期設定に大きく左右される。基本メニューに何が入っているかとか、初期設定オプションがオンなのかオフなのか、検索したときに何が最初に表示されるか。こういったことが、人々の政治、社会、経済の意思決定に強く影響する。
グーグルでさまざまな意思決定のための情報を探す。グーグルのインフラ上でビジネスをする。グーグルで政治について調べる。なんでもグーグル任せになりつつある私たちは、グーグルのデフォルト設定の支配力に対して、もっと意識的でなければならないというのが本書の主張だ。「中立的設計」などありえないのだから。
「私たちは検索システムに積極的かつ意図的に影響──規制さえも──をおよぼすべきであり、そうすることで、知識を配信するウェブのやり方について責任を負うべきだというのが、本書の主張である。私たちは、有力な一企業──どんなに素晴らしい企業であっても──短期的な利益をもたらすのではなく、長期にわたって全世界に利益をもたらすような、一種のオンライン生態系を構築しなければならない。」と著者は語る。
将来的に世界にとってグーグルは大きな脅威になるかもしれない。フラットなネットワーク社会でヒトラーのような独裁者が力を持つことは考えにくいが、情報インフラを握ることで、グーグルが民主政を実質支配してしまうことは十分に考えられる。人々の投票行動や、コミュニケーション、評価評判といった民主制において重要な要素を制御できてしまうわけだから。グーグル化の代償はとてつもなく大きくなる可能性がある。
すべてグーグル任せというスタイルは避けるべきなのかもなあと、グーグルどっぷりの私は素直に思った。しかし結局、他のサービスを使っていても、グーグルに買収統合されてしまったりするのだよね。
・実践 行動経済学 健康、富、幸福への聡明な選択
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/post-1114.html
選択アーキテクチャーについての本。
・閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/03/post-1613.html
同じくグーグルの影響について語っている本。
・必ず結果が出るブログ運営テクニック100 プロ・ブロガーが教える"俺メディア"の極意
本気でブログを始めようとする人におすすめ。
有名ブログ ネタフルのコグレマサトさんと和洋風◎のするぷさんによるブログ運営ノウハウの集大成本。二人はブログが本業のプロブロガー。「仲間」と「収入」を得ることを目標として、「書き続ける」ためのテクニックの記事を100本書いている。初心者向けなのかと思ったらそうでもない。ベテランブロガーが読んでも、十分に役立つ内容になっている。
ブログを書くための情報収集ツール類、ブログエディター、執筆支援ブックマークレットなど秘密兵器が使い方とともに紹介されている。知らないサービスがいくつもみつかった。
自己表現、自己実現の手段として取り上げられることもあるブログだが、自分が書きたいことを書くだけでは、仲間も収入も得られない。自分をメディア化する意識が必要だし、プロの道具で武装することも必要になる。
極意の筆頭が毎日書くこと。記事数が増えると検索にひっかかりやすくなるということもあるが、「間を空けて記事を書くと、余計な力が入ります。すると、往々にして余計な力の入った書き方は見透かされてしまうようで、期待するほど反響が得られないものです。一方で、まったく力を入れずに10分ほどで書いた記事が大反響となることもあります。」という。これは私も深く共感。肩の力は抜かないと続かない。
するぷさんは「楽しむ」「楽しんで書いている」ことが伝わることが大事といっている。私のブログも3000日以上続いている。継続としては成功例といえると思う。で、自分の経験を振り返ってみると、日々楽しくブログを書いている記録なのであって、決して毎日書かなきゃいけないとか、何千日を目指すぞ、えいえいおーと頑張ってきたわけではない。何が楽しいかというと、やはり二人と同じように「仲間」と「収入」が得られるから。
それから、ブログは基本は一人で書く。だから、なんでも効率よくやる必要がある。写真を加工する、アフィリエイトのタグを効率よく作る、画面キャプチャーを手早く撮る、などのツール類の紹介が多いのは必然なのだと思う。一本のツールで数分ずつ時間を稼げれば、中長期では書く記事の本数が確実に増える。ツールで武装しておくことが毎日書く秘訣でもあるのだ。
"知りたい情報"がサクサク集まる!ネット速読の達人ワザ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/10/post-1526.html
人気ブログのネタフルがiPhoneアプリに IT・デジモノ記事のネタフル
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/06/iphoneit.html
・閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義
「グーグルで○○で検索して3番目にでてくるのが私のページです」という説明は、少し前から通じなくなっている。グーグルは検索結果のパーソナライズに取り組んでおり、過去にどんな検索をしたかによって、検索結果の順位をユーザーごとに変更しているのだ。ある人には3番目でも、普段の検索傾向が違う人には異なる順位で出てくる。
グーグルだけでなくネットの至る所にパーソナライズは仕掛けられている。ネット技術に習熟した人ほど、自分の興味関心のある情報が密度濃く現れる情報宇宙に包まれる。この現象を著者は"フィルターバブル"(これが原題)と呼んでいる。
フィルターバブルに包まれると目障りなものは見なくていいし、聞きたくないことは聞こえない。一見、自分を中心に世界が回っているような魅力的な情報空間に思えるが、多様な情報、異質な情報のインターネットの本来の魅力が失われてしまう。我々は、そうと気づかぬうちにグローバルなロボトミーを受けつつある」と著者は危惧する。
私たちは多様性や異質性と向き合うよりも、よく知っている情報ばかり好んで吸収しようとする。専門家ほどその傾向は強いという。
「専門家は、多大な投資をして世界を説明する自分の理論を構築する。だから数年もたつと、右にも左にも自分の理論が見えるようになる。たとえば、バラ色の経済に賭けている強気の株式アナリストは経済全体が破綻しかねなかった住宅バブルに気が付かなかった───誰にでもわかりそうなほどトレンドは明確だったというのに。」
「ある政党の支持者は自分の政治的信条に沿ったニュースソースを消費する傾向がある。教育程度の高い人は政治関連のニュースに興味を持つ割合が高い。だから、教育程度が高いほうが、まちがったことを学んでしまう可能性がある。」
そしてユーザーの検索や購買の履歴、交友関係、サービス利用状況などはグーグルやアマゾンのような企業によって膨大に収集され、統合されていく。そのデータはおすすめに使われるだけでなく、いずれは与信にも利用されるだろうと著者は予言している。友達に支払いがルーズな人がいるとあなたが銀行でお金を借りるとき不利な条件が課されるようなことがあるかもしれない。
グーグル・パーソナライズ・民主主義という副題がついているが、多くのエンジニアはこの問題に対して鈍感である。エンジニアの多くが自分は便利なサービスをつくっているだけと考えていて、ユーザーのニーズにこたえることが善だと考えているイメージがある。エンジニアが自分たちの仕事の倫理性や政治性を意識すべきだという指摘があったが、教育が文系と理系と両方を融合させることが真に重要な時代になってきたということでもある。
政治や倫理の世界と、情報科学と工学の世界はいまはとても離れてしまっている。住んでいる人種が違いすぎる。理系の科目をいっぱいとるには文系の科目も何割とらないとダメみたいなルールを作ったらいいのかもしれない。それから異質な人との逃げ場のないリアルな討論会もよさそうだ。
・週刊ファミ通2012年1月12日号増刊 ファミ通Mobage Vol.3
私はかなりゲーマーだが、自分の業界的に詳しくなければならないはずのケータイのソーシャルゲームにまったくはまれないできた。だが、ここまでビジネス的にも大きな存在になってくると、やはり一度は本気でソーシャルゲームにはまらないとイカンだろうと思って買ってきたのがモバゲー宣伝雑誌のこれ。
48本のモバゲーのゲームについてカラーで紹介している。ファミ通が制作しているとはいっても、スポンサーつきであるから、サービスカタログと提灯記事ばかりであるが、最大の売りは袋とじのアイテム企画。32本分のゲーム用の特別なアイテムがもらえるシリアルナンバーが付録になっている。モバゲーで複数のゲームをやっている人にはお得な企画。なお、1ゲームあたり数ページの簡単な紹介であり、詳細な攻略情報はまったくないので注意。
で、今回、めでたく私は無事数本のゲームにハマることができて、ソーシャルゲームの魅力と問題点をはっきり理解できた気がした。かつて試した怪盗ロワイヤルはなじめなかったが、ファイナルファンタジーやガンダムという親しみのあるコンテンツで興味を持つことができて、ロワイヤル系も牧場系もカードバトル系もマスターできた。ああ、よかったよかった、のか?(笑)。
中毒性をもたせて、アイテム課金へ誘導する仕組みがそこかしこに盛り込まれていて、ビジネスマンとしても大変勉強になる世界だ。キャラクターや世界観を取り換えることで、同じゲームシステムでバリエーションをつくっていて経済的。技術的にも分散でスケールさせれば数百万人のユーザーでも対応できるような仕組みでできている。
122ページに『ソーシャルゲームユーザー白書』の抜粋データが紹介されているが、ユーザーは男性は30~40代、女性は20~30代がボリュームゾーン、全体で最も多い職業が専業主婦となっている。1日の平均利用時間は30分。会社員の男性と主婦の女性がひまつぶしに1日に何度もアクセスしている。
ひまつぶしでストレスを発散しているわけだから、それはそれでよいわけだが、この1日30分の反復ってなにか学習に使えないかなと思った。最近、ポケモンと信長の野望が合体したゲームが電撃発表された。戦国武将がポケモントレーナーになるという内容だが、こどもたちはポケモンで遊びながら武将の名前を覚えるだろう。同じように、大人たちがはまっているソーシャルゲームで学びがあったらよいのにと思うのだ。反復の頻度と中毒性が学習に最適な気がするから。ソーシャルゲーム大学でMBAとかできないものだろうか。
『フリー』『シェア』の次が『パブリック』
FacebookにTwitterにFoursquare。ネットのサービスは、〇〇さんが、△△さんと、どこどこで、××していました、なんてことが表示されるサービスが大人気で"情報大公開時代"を迎えている。Facebook以外にも"パブリックであることが価値を生みだす"多くのサービスが紹介されている。
Goodreads 読書中の本
Last.fm 好きな音楽
Scribd 作成した文書
Slideshare 作成したプレゼンスライド
Covester 投資した株取引
Blippy 購入した商品履歴
などなど。
著者はパブリックであることの意味と価値を総括する。
私たちはパブリックであることのメリットと引き換えに、プライバシーを失うかもしれない。そのときプライバシーとはそもそもなんだったかとはじめて考えることになる。アメリカの不法行為法の権威ウィリアム・プロッサーのプライバシー侵害の四類型によると、
1 ひとりで他人から隔絶されて送っている私的な生活状態への侵入
2 知られたくない私的な事実の公開
3 一般の人に誤った印象を与えるような事実の公表
4 氏名または肖像を、自分の利益のために盗用すること
ということだそうだ。プライバシーが制限されても、それ以上にパブリックのメリットが大きいならば、私たちは情報大公開ツールのネットを使うだろう。
本書にはパブリックの時代の法則がいくつも整理されている。
たとえば、面白いなと思ったのを3つばかり挙げると
・タトゥーの法則 ネットに出した情報は刺青のように消えずに残る
・一面の法則 新聞の一面にでて困ることは言うべきではない、一面に載せられることをいうべきだ
・社会的破算の法則 多くの人とつながれば多くの人に煩わされる
ソーシャルネットワーク全盛になると社交術、処世術は大きく変わるだろう。パブリックについては社会規範もまた変わっていくのかもしれない。今の世の中はパブリックにすると都合が悪いことが多すぎる。ささいな発言が、うっかりすると炎上して、退学や退職につながりかねない。
「僕らが一層パブリックになった今、お互いの恥をさらして生きることがそのうち社会の規範になるかもしれない。君の恥ずかしい写真を笑わないであげるから、君もそうしてほしい、と。『大きすぎてわからない』(Too Big to Know)の著者、デビッド・ワインバーガーは言う。「透明性の時代は、許しの時代に他ならない」と。」
著者は自分の前立腺がんについてもネットで公開するパブリック派だが、本書の執筆に当たってはパブリックネスに対する肯定・否定の両方の見方を冷静に検証しており、とてもよい本だと思った。
・検索エンジンはなぜ見つけるのか ―知っておきたいウェブ情報検索の基礎知識
Google、Yahoo,Bing,Baidu...。Webの検索エンジンって不思議である。何千億ページもあるWebページを一瞬で検索できる。検索エンジン会社にはどんな凄いスーパーコンピュータがあるのだろうか?そしてWebページは世界中の何億台ものサーバに分散しておかれているが、ページの追加、更新を登録するマスターデータベースのようなものは存在しない。検索エンジンはどうやってWebの世界をデータベースに取り込むのだろうか。
もれなく、すばやく、的確な検索を実現する。検索が3つの要件を満たすには、専門的には、クローリング、インデクシング、スコアリングという機構があって、N-gram、ページランク、ベクトル空間モデルなどの、さまざまな要素技術が働いている。詳細に語ろうとすると専門用語だらけで分厚い本になってしまう分野だ。
検索技術者の著者は、技術者ではない一般人に向けた平易な言葉で、たとえ話を使ってわかりやすくしくみを解説する。たとえば図書館には100万冊の本があるが蔵書目録は10冊くらいにまとまる。巧妙につくられた目録をつかえば膨大なページ数の中からでも必要なページを高速にみつけることができる、具体的には...という風に。
テレビのしくみ、電話のしくみ、コンピュータのしくみ。現代社会に生きる人間の常識として、検索エンジンのしくみも必須科目になっていいと思う。
技術書なのだが、たとえ話が古代プトレマイオス朝のアレクサンドリア図書館だったり、日本神話のオオクニヌシとスクナビコナだったり、ギリシア哲学のソクラテスだったりする。
著者の森大二郎さんとはミクシィでつながっていて「橋本さんのブログはいつも拝見していますが、実は本書の執筆中に橋本さんのブログを通して「プルーストとイカ」に出会い、非常に大きな影響を受けました。(八割方書き上がっていたものを一から書き直すぐらいの勢いで)。」というメッセージをいただいた。
書物と同じくらい検索が人類のコミュニケーションに大きな影響を与えるものという視野で書いたという。本当だとしたら、きっかけをつくることができて大変うれしい。
・プルーストとイカ―読書は脳をどのように変えるのか?
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-849.html