Books-Fiction: 2013年5月アーカイブ
『海賊と呼ばれた男』で本屋大賞を受賞した作家 百田 尚樹の作。整形を繰り返して絶世の美女となった主人公が、"モンスター"と呼ばれ醜い顔に苦しんだ少女時代の復讐を果たす壮絶な物語。美人と不美人のメリット、デメリット、人生において容貌の与える影響を、残酷なほど明らかに書いているのが痛烈で面白い。
人は表面的な印象に左右される。たとえば誠実そうな顔と不誠実そうな顔というのは確かにある。誠実そうな顔の人は誠実そうだと思われる。それは真理だと思う。そして周囲から誠実な人として扱われたら、人は誠実に振る舞おうとも思うだろう。だから誠実そうな人は(少なくとも表層的には)、実際に誠実であることが多いかもしれない。
誠実そうな顔とは何かと言えば、結局のところ、物理的なレイアウトの問題である。この作品に詳しく語られるように、顔の薄い皮一枚で、目鼻の0.1ミリの違いで人の印象は大きく変わるのだ。
モラリストは内面が外面に現れるというが、外面が内面化するケースだって、現実には少なくないだろう。正確には内面と外面は相互作用で形成されていくはずだ。普段、世間では遠慮してはっきり語られないロジックを、次々に明らかにするのがこの小説の読みどころ。
できたら一度は、とびきりの美女に生まれてみたいなと思う。常に異性の視線を感じるだろうし、幼少時から、ちやほやされるだろうから、まるで人間観、人生観が違ったものになるのだろうなと思う。実際には無理な話だが、ちょっとだけそんな体験をすることができる作品だ。
独創的な画風と世界観で熱狂的な支持者を持ちながら、あまりに鬼畜変態的なために、一般におすすめできる作品がひとつもなかった作家 花輪和一だが、ついにカタギの世界でも胸を張って?紹介できる作品がでた。いやまだ普通の読者には十分変態的ではあるかもしれないが。
題材は座敷童、オシラサマ、河童、天狗、山女、迷い家など日本の民話にでてくる妖怪や不思議な現象。しかし、それらは民俗学的な素材というよりも、作者のいつもの因果な妄想を展開するための素材として使われているに過ぎない。
舞台は昔の日本の寒村。主人公の少女たちの会話。
座敷童について
「もしかしたら、本当にいるかも...」
「人間の強欲でなってしまうんだろうか」
「ビシバシ来てる あれ...って何だと思う?」
「人から恨まれると来るアレじゃない?」
「えり首から落ち葉をいっぱい背中に入れられた、チクチクガサガサのあの感じ?」
「そんなのが村中から家にきてたら、子供は生きていけないね」
「うん、それでも生きたかったらざしきわらしになるしかないね」
アレというのが日本人的な世間に生きている感性ではなんとなくわかるような、しかしよくわからないような。本作品でもあいかららず人間の業の深さ、因果応報のカルマをこってりと描いている。
刑務所の前
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/11/post-859.html
・「失踪日記」 「刑務所の中」
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004916.html
「マンガを描き始めた頃、ヤクザ映画が全盛で、映画好きの私はヤクザ映画をよく観ていて、描くマンガも影響された。ならずものは組織や世間に合わず反発し、自滅覚悟で突っ走る。そんな人間を主人公にした作品ばかりを描いていた。 それからしばらくして、私もいっぱしに家庭を持ち、家族ができた。描くマンガも、自滅はマズイあろうと思い始めた。」(あとがきより)
かわぐちかいじの初期作品11篇を収録。「初出不明」の単行本未収録作品が多数混じっている。
主人公と時代設定はバラエティに富んでいる。明治維新に取り残された流れ者、敗戦直後の訳ありの復員兵、プロとしては芽が出なかった元ピッチャー、パンチドランカーになっても戦うボクサー、入れ墨を背負って温泉地で淫靡なショウに出演する女、店を持つために働くホステス1年生、女からカネを巻き上げるのが生業のプロ雀士などなど。
自分の欲望や野心を抑え込むことができず、社会や組織からはみでてしまう無頼の男女たちを愛情をもって描いている。
かわぐちかいじの代表的な長編作品の主人公たちというのは、ならずもの志向で、国家や組織に抵抗する人間を描きつつも、結局は大義を持つ組織や秩序をつくろうとするまっとうな人間像であることが多い。無頼のヤクザ、ならずものでは話が長続きしないのだから当然だが、短編ではそうした人間臭い主役たちが生き生きとしている。そしてなによりかわぐちかいじ作品にありがちな小難しさがなくていい。
おばのるり姉は明るい性格で、自由な生き方をしていて、中学生と高校生の3姉妹は憧れている。休みには一緒にイチゴ狩りへ出かけたり、家に泊めてもらったりの家族づきあい。忙しい母親に比べて一緒にいて楽しい大人だ。だが、その、るり姉が突然、検査入院をすることになる。どうやら深刻な病気らしい。平穏だった家族に暗い影が忍び寄る。るり姉自身の視点ではなく、それ以外の、姉妹や母親、るり姉の夫の視点から、各章が語られていく。
看護師として働く母は離婚しており、3姉妹に父親は不在。るり姉もバツイチの再婚で今は二人目の夫とくらす。次女のみやこは髪を赤く染めている。サザエさん的ステレオタイプではなくて、現代日本のリアルな生活感がある。
失うことになってはじめて気がつく大切なものを、前向きなタッチで描いた。「本の雑誌」2009年上半期エンターテインメント・ベスト1に選ばれた作品。さわやかな読後感。このラストにはやられたなあというかんじ。帯には「ゲラゲラ笑えてダーダー泣ける!」という紹介分があったが、むしろ、穏やかで温かい印象があった。