Books-Fiction: 2013年2月アーカイブ
海外文学から「厭な物語」ばかりを11編セレクトして収録。執筆陣が豪華。アガサ・クリスティー、パトリシア・ハイスミス、モーリス・ルヴェル、ジョー・R・ランズデール、シャーリィ・ジャクソン、ウラジミール・ソローキン、フランツ・カフカ、リチャード・クリスチャン・マンスン、ローレンス・ブロック、フラナリー・オコナー、フレドリック・ブラウン。
シャーリイ・ジャクスンの「くじ」は有名作品。村人たちが何か相当深刻なことをかけてくじ引きをする話。終始流れる不穏なムード、緊張感がよい。こういう精神的な負荷をじわじわと高めていく古典的で上品なものが半分くらい。
下品で強烈なのもある。アメリカ南部の町。二人の不良が犬の死骸を車でひきずって走るシーンから始まる「ナイト・オブ・ザ・ホラー・ショウ」は生理的にサイアクに厭な感じ。ひきずって走れば内臓も骨もぐじゃぐじゃになってしまうわけだが、そこへさらにヤクザな人間に絡まれて、二人が犬みたいにぐじゃぐじゃにされてしまう。
あの手この手で厭な感じな作品が編まれている。ハッピーエンドよりもバッドエンドの方が結末が予測不能で、作家の創造性が発揮されるということがあるのかもしれない。かなり面白い。
・収録作品
「崖っぷち」アガサ・クリスティー
「すっぽん」パトリシア・ハイスミス
「フェリシテ」モーリス・ルヴェル
「ナイト・オブ・ザ・ホラー・ショウ」ジョー・R・ランズデール
「くじ」シャーリイ・ジャクスン
「シーズンの始まり」ウラジミール・ソローキン
「判決 ある物語」フランツ・カフカ
「赤」リチャード・クリスチャン・マシスン
「言えないわけ」ローレンス・ブロック
「善人はそういない」フラナリー・オコナー
「うしろをみるな」フレドリック・ブラウン
アンソロジー『厭な物語』ができるまで(執筆者・文藝春秋 @Schunag) - 翻訳ミステリー大賞シンジケート
http://d.hatena.ne.jp/honyakumystery/20130221/1361406114
囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋。ボードゲームをテーマにした短編集。第1回創元SF短編賞山田正紀賞。
チェス盤を使うチェッカーというゲームでは、コンピュータによって完全解が解明されており、互いが最善の手を打つならば必ず引き分けになるということが分かっているそうだ。より複雑なゲームである碁や将棋も、時間の問題で、いずれは同じように完全解が求められてしまうのだろう。
完全解がでても多くの人間は、遊びとしての囲碁将棋を続けるだろう。しかし、完全解の存在がゲームからある種のロマンを失わせることも事実なのではないか。最善の手を打つ限り、先手が必ず勝つということがわかってしまえば、あとは減点主義のゲーム観しか残らないわけだから。
第一話では四肢を切断されて見世物にされた日本女性が、アジアで賭け碁の世界に生きる。将棋盤を自らの身体感覚に取り込むことで、最強の打ち手となっている。コンピュータの計算能力に対して、身体性から得られる勘とは何かを深く考えさせられる内容だ。
確率論、完全解、身体性、心理戦など6つの短編はそれぞれ別の角度から対局ゲームの本質に迫っていく。
Kindleで読んだ。
・名人
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/05/post-988.html
川端康成の囲碁小説。
・天地明察
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/06/post-1240.html