Books-Fiction: 2013年1月アーカイブ
澁澤龍彦の遺作となった読売文学賞受賞作。幻想文学の傑作。Kindleで読書。
高丘親王は平安時代初期の皇族で、政変により皇太子を廃されて出家、晩年に天竺への旅へ出発、その途上で行方不明となった人物。マレー半島で虎に食われたと伝えられており碑もある。甥に在原業平がいる。
天竺目指して南の海へでた高丘親王一行は、上半身が人間で下半身が鳥の美女が待つ後宮や、頭がイヌの犬頭人の国や、本当に人の夢を食う獏を飼う国を訪れる。7つの国の章からなるが、不思議な話が実は夢だったというオチが待つ章があったり、登場人物が千年後の現代史の知識があるかのような発言をしていたりと、どの話も人を食ったような話ばかり。しかし、物語のいたるところに史実や伝承、博物学的な知識がいっぱいちりばめられていて格調高い文体。博覧強記の大法螺という澁澤龍彦らしい幻想譚。
喉頭がんに苦しみながら書いた遺作ということだが、主人公の高丘親王も旅の途中で真珠を飲んでのどの痛みに苦しみ死を意識する。幼少の頃の思い出にとらわれ続ける高丘親王=作家自身という構図が明らかにでている。国家のために仏教経典をとりにいくのではなく、子供の頃からの憧れとしての天竺へ向かうことにこそ意味を求める親王。これもまた作家の最後の境地なのだろうな。
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