Books-Fiction: 2012年4月アーカイブ

父の暦

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・父の暦
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フランス文化省芸術文化勲章シュヴァリエ章受章ほか海外で評価が高い谷口ジローの漫画。

「郷里に帰る......のではない、いつの日か郷里がそれぞれの心の中に帰って来るのだ」

父親の葬儀で、十数年ぶりに故郷の鳥取へ帰った男が、家族や親せきと再会して、父母の人生に思いを寄せる。そこで、はじめて聞かされた事実に、最後までわだかまりをとくことができなかった父のことを、男はやがて理解する。

鳥取出身で長く故郷へ戻らなかった主人公は、谷口ジローの人生と重なるものだそうで、少年時代の実体験も相当織り込まれているとのこと。描きたいと思った話をじっくりと描いたことで傑作ができあがった。

ほとんど通夜、葬儀、回想のみ。地味な展開と、劇画調ながら淡々とした絵柄。抑えた表情の描写が、感情をあまり表に出すことがない中年男の内面を、逆にリアルに伝えてくる。上質な小説みたいだと評するのは漫画という表現形式に対して失礼なのかもしれないが、しっとりと静かな感動を呼ぶ極上の作品。漫画の表現力を見直した。

・ふらり。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/03/post-1620.html

・九月が永遠に続けば
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『ユリゴコロ』『猫鳴り』沼田 まほかるの第5回ホラーサスペンス大賞受賞作。

高校生の息子の失踪と不倫相手の事故死。ふたつの事件に関係はあるのか。猟奇と官能のミステリー。複雑な人間関係の割に、スピーディーな展開についていけて、あっという間に読み終わった。文章がうまいのだ。あとで全体を振り返ると、盛り込み過ぎていて、ちょっとやりすぎな気がするが、娯楽小説としてはこれくらいでちょうどよいかも。面白かった。

この作家の57歳のデビュー作。今回はじめて経歴を知った。

「大阪府の寺に生まれる。1985年より大阪文学学校に学ぶ。若くして結婚し主婦をするが、堺の母方祖父の跡継ぎを頼まれ、夫がその住職となる。その後離婚、自身が僧侶となる。40代半ばで知人と建設コンサルタント会社を創設するが十年ほどで倒産する。57歳で初めて書いた長編『九月が永遠に続けば』で第5回ホラーサスペンス大賞を受賞し、遅咲きのデビューを果たす。2011年からその文庫が売れ出し、60万部を記録する。2012年、『ユリゴコロ』で第14回大藪春彦賞を受賞。」Wikipediaより。

盛りだくさんなのは、人生経験によるものなのだなあ。

この作家、ユリゴコロと本作は幻想的なビジョンを描く部分など、もっと人間を深く描くこともできる作家なのではないかと思わせる表現があって、これからの作品にすごく期待。

・猫鳴り
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/01/post-1373.html

・ユリゴコロ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/12/post-1556.html

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