Books-Fiction: 2011年7月アーカイブ
面白くて、読みやすくて、上質な味わいの外国文学。とてもおすすめできる作品。
現代アイスランド文学の旗手オラフ オラフソンの第一短編集。2006年度アイスランド文学賞を受賞、O・ヘンリー賞受賞作を含む。
短編作品が「一月」から「十二月」まで12編収録されている。夫婦や恋人たちに破滅が訪れるような瞬間という切り口で、少し意地悪に人生の機微をとらえる。どんなものか、たとえていうなら、恋人とのベッドの中で違う異性の名前を呼んでしまった気まずい瞬間みたいなものが、12個並んでいると思ってもらえればいい。
人の不幸は蜜の味というけれども、12種類もの不都合な人間関係がカタログ商品みたいに次々に出されると、なんだか可笑しくなってしまう。ヤバイのは少なくとも読者の私じゃないのだからね。人生の闇がテーマでありながら、ほほえましい感じがする、絶妙な仕上がり。
抑制が効いた文体で、そこはかとないユーモアを感じる。日本人好みの作家だと思う。そしてこの作家が面白いのは、実はビジネスの世界での相当の実力者だということ。著者はソニー・インタラクティブ・エンタテイメント初代社長をつとめ、プレイステーションの世界展開の立役者だそうだ。今はアメリカのタイムワーナー副社長をつとめる。だが作品は経営小説的要素やプラグマティズムの気配をまったく感じさせない。
夏にホテルのプールサイドで読書するのにいいとおもう。
行えば必ず人死にや神隠しが起こる奇祭 大鳥町の「鬼祭り」が100年ぶりの断絶を経て、村興しのイベントとして現代に再現されることになった。成り行き上、祭りを監修することになった異端の考古学者 稗田礼二郎は視察に訪れた村で、祭りが呼び込む異形のカミと遭遇する。
大御所 諸星大二郎の代表作妖怪ハンターシリーズのなかでも傑作『闇の客人』を、若手漫画家がリメイクした。まったく期待していなかったというか、絶対駄作だと信じていただけに、悪くない出来であり好評価。原作ファンならば、おすすめ(原作未読の人は原作から読むべき)。
あのおどろおどろしい諸星タッチの画風が、新しい漫画化の手による現代劇画風になり、稗田礼二郎がすっかり若返ってイケメン化している。「僕もこのくらいのページ数で描きたかった」と諸星大二郎が帯でつぶやいているように、原作の4倍のページ数で描きなおしているので、物語のディティールが加わったのが魅力。
諸星大二郎の原作を超えることはできていないが、原作を知る読者は、こういうのもありだなあと、かなり楽しめるレベルに達している。
こちらが『闇の客人を原作本。
宇宙SF漫画『2001夜物語』の星野之宣が、あのジェイムズ・P・ホーガンの不朽の名作『星を継ぐもの』を漫画化。深紅の宇宙服を着た人間が月面で発見されて、しかも、死後5万年が経過しているという謎から始まる長編の第1巻。
よいできなので星野ワールド初体験の読者にもおすすめ。大英博物館に大抜擢されて「宗像教授」が開かれて、国際的な名声も高まりつつある漫画家。
大筋は変えないが原作にない要素も盛り込んでおり、往年の小説のファンも楽しめる。もともとシリアスな宇宙SFを得意としてきた星野が、SF文学史上に残る傑作を原作とすることで真骨頂の作品ができあがりつつある。連載完結が楽しみ。アーサー・C・クラーク作品も漫画化しないかなあ。
「【星雲賞受賞作】
月面調査員が真紅の宇宙服をまとった死体を発見した。綿密な調査の結果、この死体は何と死後五万年を経過していることがわかった。果たして現生人類とのつながりはいかなるものなのか。やがて木星の衛星ガニメデで地球のものではない宇宙船の残骸が発見された......。ハードSFの新星が一世を風靡した出世作。」
・PILOTS初期画集成LEGEND ARCHIVES―COMICS
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/06/pilotslegend-archivescomics.html
・宗像教授異考録 12
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/01/-12-1.html
・私の好きな漫画家たち
http://www.ringolab.com/note/daiya/2003/12/post-46.html
ミヒャエル・エンデ晩年の傑作寓話短編集。
標題の『自由の牢獄』
若者は悪魔によって神の意思が届かない巨大な円蓋の部屋に閉じ込められる。
そこには111の扉がある。それは地獄に続く扉かもしれないし、神の世界に戻る扉かもしれない。「ひとつの扉を開けば、その刹那に他の扉はすべて永遠に閉じ込められるのだ。やり直しはないぞ。よく選ぶがよい!」と悪魔の声はいう。
部屋は快適でいつの間にか食事や飲み物が現れる。若者は完全な選択の自由を与えられながら、無数の選択肢の中の一つを自分の運命として選びとることができない。やがて若者は、眠って起きるたびに、目の前の扉の数が減っていくことに気がついた。
自由意思とは何か、神の全能性とは何かを象徴的に描写した印象深い作品。これは読者の視点によって幅広く読みとれそうなので、読書会のネタによさそう。
『遠い旅路の目的地』もよかった。
莫大な遺産を相続した孤独な若者は、なんでも手に入れることができる境遇にありながら、故郷というものを持っていなかった。世界中を旅行して故郷を探したが見つからない。ある日、見つけた絵画の中の風景に、若者はどうしようもない郷愁を感じる。若者は、持てる財力と情熱のすべてをかけて、この世に存在しない風景を探し求め、やがて見つけた理想郷の中へと消えていく。
人生において、探すということの意味を読者に問う内容。
ミヒャエル・エンデの、幻想的な寓話と現代的な哲学解釈が光る。眠る前に読むと眠れない。