Books-Fiction: 2008年8月アーカイブ
「15歳のぼくは、母親といってもおかしくないほど年上の女性と恋に落ちた。「なにか朗読してよ、坊や!」―ハンナは、なぜかいつも本を朗読して聞かせて欲しいと求める。人知れず逢瀬を重ねる二人。だが、ハンナは突然失踪してしまう。彼女の隠していた秘密とは何か。二人の愛に、終わったはずの戦争が影を落していた。現代ドイツ文学の旗手による、世界中を感動させた大ベストセラー。 」
アメリカでは200万部以上が売れて、映画化が決定している。「タイタニック」のケイト・ウィンスレットがハンナを演じるそうで相当の大作になりそうだ。現在撮影中で2010年に公開予定。今頃読んでおくと、映画の頃には程よく忘却していてちょうどよいかもしれない?。
舞台は第二次世界大戦末期のドイツ。15歳の少年が一回り年上の大人の女性ハンナと恋に落ちる。愛の行為の合間に少年は求められるままに物語を朗読して女に聞かせた。しかし突然女は少年の手の届かない場所へ行ってしまう。戦後、大人になった少年は司法修習生となった。研修で訪れた裁判所で、ナチスの協力者として裁かれる女の姿を偶然に発見する。
かつて愛し合った男女が一度もことばを交わすことなくプラトニックな関係を何十年間も続ける。別の人生を歩んだ二人だが、そこには切ることの出来ない絆があった。その関係性は「恋愛」とか「友情」のような、わかりやすい既成の言葉に収まらないものだ。読者の年齢や経験によって多様な解釈が生まれそうだ。
これは読まないと損なかなりの傑作。新潮の100冊入り。夏の読書におすすめ。
ソ連SFの巨匠ストルガツキー兄弟が原作小説を書きタルコフスキーが映画化した「ストーカー」。大江健三郎が著書の中で何度も言及していたので知り、ずっとその映画が気になっているのだがDVDが品切れで、なかなか見ることができない。数年が経過。
もう先に原作を読んでしまうか、と思って手に取った。
あるとき異星人の「来訪」があった。彼らは人類にまったく接触することなく、痕跡「ゾーン」のみを残して地球を去っていった。「ストーカー」とは危険な「ゾーン」に不法侵入して、異星人たちが残した正体不明の物体の数々を持ち出してくるアウトローな職業の呼び名だ。
彼らがゾーンから運び出す「空き缶」「魔女のジェリー」「うごめく磁石」「黒い飛沫」などと通称される謎の物体は、地球の物質とは異なる性質を持ち、希少価値として闇市場で高く取引される。ゾーンの奥深くには人々の願望を叶える「願望機」があるという噂だ。ゾーンはあらゆる死の危険に満ちた空間だがストーカーたちは高い報酬を求めて侵入を繰り返す。
ロシア語の原題は「路傍のピクニック」。人類に比較して圧倒的に高度な知的生命体は、地球にピクニックにきたけれども、彼らにとって人類の存在は地球にたかっている虫レベルの意味しかなかった。人類がゾーンで漁っているモノは、人類へのメッセージなどではなくて、彼らの行楽で残したゴミの山に過ぎない、という皮肉なテーマなのである。ストーカーは命がけでゴミを漁っていることになる。
設定がハードSFである上にアウトローの主人公の生き様がハードボイルドに描かれるので全体的に超硬派な印象だ。人間の生き様、人生観を描いているのはロシア文学の伝統っぽくもある。文学作品として上質なSF作品。