Books-Fiction: 2007年6月アーカイブ
「地球と月を中継する軌道ステーション“望天”で起こった破滅的な大事故。虚空へと吹き飛ばされた残骸と月往還船“わかたけ”からなる構造体は、真空に晒された無数の死体とともに漂流を開始する。だが、隔離されたわずかな気密区画には数人の生存者がいた。空気ダクトによる声だけの接触を通して生存への道を探る彼らであったが、やがて構造体は大気圏内への突入軌道にあることが判明する…。真空という敵との絶望的な闘いの果てに、“天涯の砦”を待ち受けているものとは?期待の俊英が満を持して放つ極限の人間ドラマ。」
久々に手に汗握りながら読む作品に出会った。非常事態スペクタクルの傑作。「老ヴォールの惑星」の小川一水の長編。スピーディな展開と緊迫感。ユニークな設定の登場人物たちが、極限状況下で織りなす人間ドラマ。映像的でわかりやすい。そのままハリウッド映画にできそう。
沈没していく船からの脱出を描いた70年代のヒット映画「ポセイドン・アドベンチャー」と作風は似ている気がする。この映画も素晴らしかった。希望と絶望が交互にやってきて、葛藤する複雑な人間模様があって、パニック映画のお手本だなあと今でも思う。
これを2006年にリメイクしたのが「ポセイドン」。最新のCG技術を使って、豪華客船の沈没シーンを迫力映像で描いている。最初の10分間は見物である。
ポセイドン・アドベンチャーに興奮した人には間違いなく天涯の砦はおすすめである。海中以上に、宇宙における人間の無力感を感じさせて、ドキドキである。
・老ヴォールの惑星
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004637.html
・SF作家 小川一水のホームページ 小川遊水池
http://homepage1.nifty.com/issui/
芥川賞選考会の委員にも就任して、現代文学の代表的作家になった川上弘美。この本は、はじめて文学と向き合う若い読者に向けた自選アンソロジー。漢字にはルビがふられており、中学生、高校生の読者を意識しているようだ。
作品の選び方は決してお子様向けではなくて、「はだかエプロン」の話もあるし、倦怠感漂う男女関係の話もある。得意とするもののけの話もある。はじめて読む大人にとっても、著者の多様な作風の作品を少しずついれているので、入門ガイドとしておすすめ。
「ためになる、とか、視野が広がる、とか、そういうことも多少はありましょうけれど、それよりもっと大きいのは、なんというかこの「隠微な快楽」の味なのです。」。あとがきのなかで著者は、想像力をめぐらせて自由に読むことこそ小説本来の楽しみ方だとすすめている。
このブログで何冊か川上弘美の作品は紹介していて、収録作品のいくつかは重なっている。二回目だった作品も、深く読むと別の味わいが感じられたりして、やはりこの作家は凄いなと再認識した。
特に書き出しがうまいことに気がついた。
「恋人が桜の木のうろに住みついてしまった」 運命の恋人
「くまにさそわれて散歩に出る。河原に行くのである」 神様
「一月一日 曇 もぐらと一緒に写真をとる」 椰子・椰子
「十四本のろうそくを、あたしは埋めた」 草の中で
いきなり短文で読者を異世界へ誘う。どういう話だろうとふらふら入っていくと、いつのまにか隠微な川上ワールドに閉じ込められて、終わるまで出られなくなる。
過去に書いた川上弘美作品の書評。
・ざらざら
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004886.html
・龍宮
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004759.html
・真鶴
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004871.html
特に真鶴がおすすめ。これを読んで以来、ずっと行きたかった真鶴へGWに行ってきました。真鶴岬は上空で風がぐるぐる回っている感じがして、不穏な空気を感じました。真鶴港の海は引き込まれそうな青緑色にひかれました。小説に感化されすぎかな。そういう雰囲気が写ったらいいなと思って、写真に撮ってきました。
「最初の訪問から70年をへて再度太陽系を訪れた謎の飛行物体ラーマは、それを脅威とみなした人類の核攻撃を受け、破壊されたかに見えた。しかし―ラーマは生きていた!人類の調査隊員3人をその内部に閉じこめたまま、ラーマは太陽系を離れ、どことも知れぬ目的地をめざして虚空を飛びつづける。そして深宇宙の彼方でラーマが停止したとき、そこに待ち受けていたのは、人間の想像をはるかに超えた巨大な構造物だった。」
そして”3”である。”2”の数十年後に3回目のラーマの接近があるという始まり方をするものだと、私は予想していたので、冒頭から面食らった。これは、前作で太陽系を離脱していくラーマに取り残された、あの3人の物語だったのである。
3人はラーマの内部に生存可能な環境をみつけて長い孤独な生活を始める。事実上の主役となるニコルは、そこで子供を産み家族をつくる。そしてラーマは星間飛行を終えて停止する。それは長い旅の終わりではなく、壮大な宇宙叙事詩の幕開けであった。
ここから物語はまったく新しい展開を始める。人類のラーマへの大量移住と人類社会の腐敗。地球外生命体との接触。ニコルの一族の運命は予想もつかない方向へ転がっていく。
”2”は”3”と”4”の舞台を作るためのプロローグに過ぎなかったようだ。率直に言って続編群は作品としての完成度は初作に遠く及ばない。だが、アーサー・C・クラークらの想像力の果てを確認したい熱心なファンは読まざるを得ないだろう。謎の答えが少しずつ明かされる。随所に盛り込まれる文明批判の視点を説教臭く感じるかどうかが、好き嫌いの分かれ目になりそうである。
ところで第一作のときから私はラーマの構造を視覚化できずに困っていた。巨大な円筒体の内部に関する詳細な記述はあるのだが、イラストは一枚もないため、物理的な形状を想像するのが難しかった。
ラーマの構造を絵にした人がいないかとネットで調べていたところ、ラーマ世界の全体や物語のシーンにインスパイアされて3DCGを描く人たちのサイトを発見した。ラーマの神秘的で荘厳な印象を損なわずに立体的に描写している。壁紙にしたいほどの完成度。
・Welcome to RAMA3D
http://www.rama3d.com/
・宇宙のランデヴー
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004864.html
・宇宙のランデヴー2(上)(下)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004872.html
・宇宙のランデヴー3〈上〉〈下〉
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004873.html