Books-Fiction: 2006年10月アーカイブ
あまりに面白すぎて危険なため、盆暮れ正月連休中に読むことをおすすめします。
明治時代に起きた、実際の大量殺人事件「河内十人斬り」。幼子まで含めて10人を惨殺する残虐事件でありながら、熊太郎・弥五郎の復讐劇は、盆踊り「河内音頭」のテーマとして歌い継がれてきた。
この小説「告白」は、ひとづきあいが苦手で、性根が駄目人間の城戸熊太郎が、なぜ村人を恨み大殺戮に至ったのかを、生い立ちから綴った独白である。
「
安政四年、河内国石川郡赤阪村字水分の百姓城戸平次の長男として出生した熊太郎は気弱で鈍くさい子供であったが長ずるにつれて手のつけられない乱暴者となり、明治二十年、三十歳を過ぎる頃には、飲酒、賭博、婦女に身を持ち崩す、完全な無頼者と成り果てていた。
父母の寵愛を一身に享けて育ちながらなんでそんなことになってしまったのか。
あかんではないか。
」
こんな出だしで始まる700ページ近い長編。
凶悪犯の恨みつらみの話でありながら、あっけらかんと明るい調子の関西弁で、数十年間の転落人生が物語られる。根から悪い男ではなかった。こども時代の事件に端を発する、心のボタンのかけちがえみたいなことが、次第に世間との溝を拡大していき、破滅へと熊太郎をおいやっていく。
ま、ストーリーはそんなかんじで、ほかにもいろいろあるが、実はどうでもよかったりする。この作品の本当の面白さは文体にあるのだから。著者の芥川賞作家 町田康は、パンクロックアーティストの町田町蔵なのでもある。語りかけるノリが、パンクのシャウトであり、ロックのビートであり、読者をリズムに酔わせるのである。それは、読書を止められなくなるくらい強烈なドライブ感なのである。
驚いたことにこの長い小説、最初から最後まで章立てとか見出しが一切ない。段落ぐらいはあるが、ひたすら区切らないで、延々続いているのである。熊太郎が頭の中で考えたことをすべて語り口調で書き出している。
熊太郎はかなりの駄目人間だが、誰だって駄目駄目な部分は持っているから、読者はそのうち自分と似た駄目なところに共感してしまう。思考をうまく言葉に表現できないもどかしさ、面倒を嫌って流されてしまう怠惰な性格、大きく見せようと思う虚栄心。そういうものに同情しているうちに、自然と読者は、なぜ殺人鬼が生まれたか、不条理ではなく、道理で、理解する。
すると、ときどき、この殺人鬼にエールを送りたくもなる。
そんなどっぷりヘンでオモシロな作品である。
町田康は、本作品で谷崎潤一郎賞を受賞。
この本にタグをつけるとしたら「これはひどい」と「これはすごい」。
日本推理作家協会賞を受賞した表題作含めて、最初から最後まで、人肉を喰らったり、切り刻んだり、拷問したり、洗脳したり、虐殺したりされたりの短編が8本。死体や血しぶきが飛ばない作品は収録されていないので、グロテスク、スプラッター大嫌いの人は手にとってはいけない。人間のあらゆる狂気の濃縮ジュースみたいな内容である。
どの作品も独特の世界観の中に読者を閉じ込めて、強迫観念的な悪夢を味あわせる。実話に味付けした「怖い話」シリーズの作家として活躍する著者のストーリーテリングの技法が見事に活きている。読者は、巧みな物語設計によって、怖いもの見たさや、結末の見えない落ち着かなさを植えつけられる。救いようのない話ばかりだけれども、先が読みたくなってしまうのである。
そして読後の後味は意外にも悪くない。残虐行為の記述は語りの道具であって、メインテーマではないからだ。妙な話をバリエーション豊かに、次々に聞く面白さがこの本の魅力といっていい。「独白するユニバーサル横メルカトル」の語り手は、タクシー運転手の使っている地図である。地図が喋っているだけでも相当妙な話だが、その運転手が連続猟奇殺人犯であったりする。グロテスクな描写もどこか異世界の話として受けとれる。
閉塞感を巧妙に操る作家だなと思った。虐待される子供、数に執着する男、狂気の集団に潜入してしまった親子など、逃げ場のない設定が、読者に瞼を閉じることを許さないのだ。そうした語り方は著者の原点である怪談の技法と同じといえそうだ。
奇怪な話ばかり読みたいと思ったら、この本は最近のおすすめ作である。
「
肉体の束縛を離脱した主人公は、時空を超え、太陽系の彼方へと宇宙探索の旅に出る。棘皮人類、共棲人類、植物人類など、奇妙な知性体が棲息する惑星世界。銀河帝国と惑星間戦争、生命の進化と諸文明の興亡。そこでは星々もまた、独自の生を営む生命体であった。そして、銀河という銀河が死滅する終末の時がやって来る。星々の精神と共棲体を築いた主人公は、至高の創造主「スターメイカー」を求めて旅立つが…。宇宙の発生から滅亡までを、壮大なスケールと驚くべきイマジネーションで描いた幻想の宇宙誌。そのあまりに冷たく美しいヴィジョンゆえに「耐えがたいほど壮麗な作品」(B・W・オールディス)と評された名作。
」(アマゾンのデータベースから引用)
普通の人間の想像力では大風呂敷を広げるにも限度がある。思いつく限りのスケールの大きな話をしてみろと言われても、人類の歴史だとか、地球の成り立ちだとか、せいぜい150億年前のビッグバンくらいが限界だろう。
人間の想像の大きさを競う種目があったら、この作品はギネスブックに載っておかしくない。太陽系を超えて、銀河を超えて、5千億年の時空を超えて、あらゆる生命の営みを観察し、全宇宙の知生体と意識を統合し、やがて宇宙の終焉間近に、万物の創造主スターメイカーの意図を知るまでの、果てしなく壮大な物語である。数ページで数億年のスケールに圧倒される。
登場人物はほぼ「わたし」一人だ。「わたし」はテレパシーを通じて他の星の知的生命体の精神と共鳴し、統合されて「わたしたち」になる。統合によってその精神は覚醒レベルを高めていき、すべてを見渡す究極の集合知性へと発展していく。その高みから全宇宙を俯瞰する。
登場人物がいないためにそこに人間的ドラマはない。星々の多様な形態の生命の興亡史を歴史家として叙述しているのみだが、読み進むにつれ「わたし」のビジョンがどんどん大きく、普遍的なものになっていく加速感が読むものをひきつける。SFというより哲学書といったほうが正しいのかもしれない。
1930年代(70年前!)にオラフ ステープルドンによって書かれた伝説的なこの作品は、後世のSF作家や科学者に多大な影響を与えたと言われる。世界の階層性や、精神的な統合への意志、進歩の概念、唯一の創造主の存在など、キリスト教、西洋文化的な要素を強く感じる。普遍を描いているので古さは感じない。フリーマン・ダイソン、ボルヘス、クラーク、バクスターらの絶賛の言葉は今も活きている。
「
大学四年の僕(たっくん)が彼女(マユ)に出会ったのは代打出場の合コンの席。やがてふたりはつき合うようになり、夏休み、クリスマス、学生時代最後の年をともに過ごした。マユのために東京の大企業を蹴って地元静岡の会社に就職したたっくん。ところがいきなり東京勤務を命じられてしまう。週末だけの長距離恋愛になってしまい、いつしかふたりに隙間が生じていって…。
」
なんというか、書評が書きたくないが、オススメしたい特殊な本に当たってしまった。
「評判通りの仰天作。必ず二回読みたくなる小説など、そうそうあるものじゃない。」(帯より)というのは、私にとっては本当であった。
結局、この本を2度読み返した。部分的には3度も4度も読んだ。
ある意味、大変よくできた、面白い作品である。
発表時はだいぶ話題になったらしい。
ただし、読み方によってはまるで面白くないという人もいるだろう。どこにでもある若い男女の恋愛話だから。
小説が好きな人は、これ以上の予備知識なしに、軽く読んでみてほしい。
読み終わったらネットでいろいろ調べてみると楽しみが増える。
「
突然の手紙に驚いたけど嬉しかった
何より君が僕を恨んでいなかったということが
これからここで過ごす僕の毎日の大切な
よりどころになります ありがとう ありがとう
」風に立つライオン さだまさし作
さだまさしの「風に立つライオン」は、アフリカの難民のために使命感に燃えて働く男性医師の生き様を歌った作品。かつての恋人から送られた、他の男との結婚を告げる手紙を読みながらも、自分が選んだ道への強い思いを確認する内容である。
「風に舞いあがるビニールシート」は、国連の現地採用で東京で働く里佳と、夫であり上司でもあるエドの、厳しくも爽やかな生き方を描いた直木賞作品である。二つの作品は風という言葉だけなく、主題もどこか似ている。
お金よりも大事なもの、恋愛よりも大切なもの、家庭よりも大切なもの、をみつけてしまった人たちの6つの物語。アフガンで死んでいく難民たち、保健所で始末されるイヌたち、修復を待つ仏像たち、芸術作品としてのケーキ、会社の意地悪が原因で落第する社会人の苦学生たち、軽んじられる今時の若者たち。そうしたものを救うことに、他の大事を投げ出すことを選ぶ人たちの群像である。
自分だけの価値観を追っていけば、周囲との軋轢をうむ。主人公達は、葛藤し、決意し、行動し、そして挫折するものもいれば、充足する人生を拓いていくものもいる。結果はどうあれ、それぞれが、力強くて、まぶしい。しかし、使命感はバランスを許さない。普通の幸せ、普通の損得計算は吹き飛ばしてしまうし、後戻りができない選択を強いられる厳しさもある。
私は大学時代に国際交流のNPOで活動していたのだけれど、当時の友人達の中には、卒業後も、国際NGOや国連組織に入って活動している人たちが何人かいる。私は入学当初は外交官を志していたけれども、難しい試験にあると聞いて、あっさりと諦めてしまった。それが結局、良かったのか、悪かったのかは今となってはよくわからない。今の仕事も生活も、とても気に入っているから。
数年前に東京大学の学生サークルからベンチャーの面白さについての1時間の講演を依頼された。彼らはあるNPOを立ち上げたばかりだった。かものはしプロジェクトという名前のその団体は、カンボジアの貧しい少年少女にITやプログラミングを現地で教育する活動を計画していた。日本で開発案件を受注し、カンボジアのチームに発注する。利益を現地の少女売春撲滅活動に使う。
「卒業したらどうするの?」
依頼主の学部生に聞いたら「きっと、この活動を続けたいと思います」と答えが返ってきた。
私は内心、彼は今はそう言うけれど、他の東大生と同じように、きっと普通に官庁か大企業に就職するだろうと思っていた。
何年かが過ぎて、私の会社にNPO法人化した同じ組織の経営メンバーとして訪問を受けたときには、びっくりした。卒業後、そのまま活動に身を投じていた。彼の志は本物だった。「風に舞いあがるビニールシート」を放っておけない人って稀にいるのである。
・かものはしプロジェクト
http://www.kamonohashi-project.net/
凄いと思います。がんばってください。
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■外資系投資銀行・新人OLの青春物語!
外資系投資銀行の新人OLミヤビが、入社してから大規模M&A案件に挑むまでを描いた青春小説。経済の知識ゼロで入社してしまったミヤビは、右も左もわからない状態から、先輩社員の指導の元、大手化粧品会社のM&Aに挑む。徹夜でプレゼン資料を作成したり、同僚のリストラ、クライアントの接待、海外出張など、多彩な経験をして成長していくミヤビと先輩社員との淡いラブストーリーも見所です。軽快でわかりやすい文章を通して、経済、株式、企業ファイナンスなどの知識が楽しみながら身につくのも特徴。本物の投資銀行マンだった著者が、経験をフルに生かして書いた一冊です。
」
さわやか!。
新入社員として投資銀行に入社した主人公の女性が、はじめてのことの連続に戸惑いながらも、最初のM&Aの大仕事をやり遂げるまでの奮闘記。著者の保田さん(男性だが)自身の投資銀行勤務の経験を活かして書かれている。外資系の投資銀行の仕事の概要や雰囲気を味わえる。
外資系の投資銀行は企業買収以外に何をしているのか、「デューデリ」「ビューティ・コンテスト」「レップス&ワランティ」など専門用語の意味、どんなムードの職場なのか、といった業界知識が小説に織り込まれていて自然に学べる。特に就職希望の学生におすすめ。
最近、経済評論家としてテレビ出演も多い保田さん。前作よりかなり小説書きとしても腕を上げられている。次は「ザ・ゴール」みたいなのを書いてください。あと、たまに遊んでください。
・ワクワク経済研究所LLP
http://wkwk.tv/
著者のサイト。
・ちょーちょーちょーいい感じ - ブログ|本日出版!「投資銀行青春白書」
http://wkwk.tv/chou/?action_xeblog_details=1&blog_id=1116
この本の出版に喜ぶ保田さんに書店で悲しい事件が(笑)。