Books-Fiction: 2006年4月アーカイブ
諸星大二郎がグリム童話をおどろおどろしくリメイク。「赤ずきん」「ラプンツェル」「ブレーメンの楽隊」などのよく知られたお話が、初期設定は原作と同じなのに、いつのまにか、魑魅魍魎のうごめく諸星異界へ引きずりこまれていく。相変わらず諸星先生はすばらしい作品をつくる。
私は諸星大二郎の大ファンで思い入れは過去にこの記事で書いた。最近、映画(「奇談」)にもなった妖怪ハンターシリーズや暗黒神話シリーズがおすすめである。
・私の好きな漫画家たち
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000741.html
独特の世界観を持つ諸星作品、なかなか一般に受け入れてもらえないのだが、グリムというわかりやすいこの作品、新しいファンへの入り口になるかもしれないと思った。
ところで、絵本やアニメのグリム童話はこども向けにマイルドにアレンジされていることはよく知られている。原作は残酷で猟奇的な要素が含まれているのだ。そうした本当のグリム童話について解説した本も数多くあるので紹介。
■真実のグリム童話
原作をそのまま読みたい人のために。
倉橋 由美子著。
「超現実的なおとぎ話こそ、同情も感傷もない完全に理屈にあったもので、空想ではありません。そこにあるのは、因果応報、勧善懲悪、自業自得の原理が支配する残酷さだけです。この本は、ギリシア神話やアンデルセン童話、グリム童話、日本昔話などの、世界の名作童話の背後にひそむ人間のむきだしの悪意、邪悪な心、淫猥な欲望を、著者一流の毒を含んだ文体でえぐりだす創作童話集です。 」
「
人間の魂、自分の心の奥には何があるのか。“こころの専門家”の目であのグリム童話を読むと……生と死が、親と子が、父と母が、男と女が、そしてもう1人の自分が、まったく新しい顔を心の内にのぞかせる。まだまだ未知に満ちた自分の心を知り、いかに自己実現するかをユング心理学でかみくだいた、人生の処方箋。
」
河合 隼雄著。
「
実母を処刑した白雪姫、魔法の力を借りなかったシンデレラ、2つの禁断の鍵を開けてしまった青髭の妃…。封印された真実の物語が今、ここに開かれる。
」
・大人もぞっとする初版『グリム童話』―ずっと隠されてきた残酷、性愛、狂気、戦慄の世界
「
これから寝かしつけようという幼い子どもに、手足を切断するような話など、とてもできない―。そんな批判を受けて改筆される以前の初版『グリム童話』では、残酷な刑罰、男女の性愛なども、あけっぴろげに語られていた。夢のように見えるおとぎ話の中に隠された残酷、狂気、不道徳の世界、そして、当時の人々のアクの強い知恵を、感じてほしい。 」
このほか、読んでいないので内容は保証できないが、こんなアダルト向きマンガもあるらしい。タイトルが気になる。なんなんだいったい。
「
【星雲賞受賞作】
32光年彼方の乙女座ベータ星めざし、50人の男女を乗せて飛びたった恒星船〈レオノーラ・クリスティーネ号〉。だが不測の事態が勃発した。宇宙船は生れたばかりの小星雲と衝突し、バサード・エンジンが減速できなくなったのだ。亜光速の船を止めることもできず、彼らは大宇宙を飛び続けるしかないのか? ハードSFの金字塔。
」
SFはサイエンスとフィクションのバランスが肝だと思う。科学的であることにこだわりすぎて難解になると、物語性が失われる。物語性を追求すると、科学性がぼやけてしまう。ふたつの要素はトレードオフの関係にあるのだと思う。この作品は、両方を絶妙なバランスで均衡させた名作だと思った。
無限に広がる宇宙。永遠に続く時間。そして光速に近い宇宙船が遭遇する時間と空間の不思議。この作品は、宇宙の果てに思いをはせた子供時代の好奇心を呼び戻し、これでもかとばかりに満足させてくれる。気が遠くなりそうな、永遠のイメージを何度も喚起させられた。こういう感覚は普通の読書にはない。
そして、宇宙船に閉じ込められた50人の運命共同体が織り成す人間模様。ロマンスあり、組織論あり、人生論あり。このドラマがあるおかげで、物語がわかりやすく、読みやすくなっている。ハードSFである割にあっという間に読めた。
著者のポール・アンダースンは、名声を確立したSF界の巨匠であるが、多作であるため、その作品は珠玉混交といわれているようだ。だが、タウ・ゼロは間違いなく光り輝く玉であると思った。1970年ごろの作品だが、内容は古くない。
現在の巨匠グレッグ・イーガンは難解すぎる、なにか口あたりよくハードSFの極みを味わえるものはないかなと探している人におすすめ。