Books-Education: 2012年9月アーカイブ
児童文学だが大人が読んでも考えさせられることが多い傑作である。いやむしろ大人の方が受け取れるメッセージが多いはず。
「おれは竜退治の騎士やねん。」
夕暮れの教室。忘れ物を取りに行った二人の小学生の前に現れた関西弁の竜騎士の男。どう見ても日本人なのに名前はジェラルドで略してジェリーと呼んでくれという。竜騎士は疑いの眼差しを向ける二人に、竜騎士の仕事を話し始める。こうしておしゃべりしていればそのうち竜が出てくるから、と前置きして。
この物語は映画監督、小説家、歌手、俳優、宇宙飛行士、大統領とか、子供時代に憧れる人は多いが、どうやったらなれるのか道筋が決まっていない職業になる方法を示唆する。ジェラルドによると竜騎士になる第一歩は、トイレのスリッパをきれいに揃えること、なのだが。
おしゃべりしていると出てくる竜の正体は何か、人にそこにいないはずの竜を見せてしまうものとはなにか。どのテーマにも作者は答えをずばりと書いたりはしないが、物語の中で、子供には子供なりに、大人は大人なりに、意義深い答えを読み取ることができるように設計されている。
夢を叶えるゾウに似たところもあるが、こちらの方がずっと古くに書かれている。子供向けの自己啓発には大人向けの本にありがちな、いやらしさがなくていい。