Books-Education: 2012年1月アーカイブ
「ソーシャルラーニング」入門 ソーシャルメディアがもたらす人と組織の知識革命
複数の人間が一緒に学ぶことをソーシャルラーニングと呼ぶが、この本はソーシャルメディアを活用した「新しいソーシャルラーニング」を定義、提案する本である。CIA、インテル、IBM、デロイト、シェブロンなど海外の大企業、大組織の事例が多数ある。
「専門家が1回限りのセミナーを行ったり、1日まるごとの研修を行ったりする古典的な企業研修のモデルは、近代化されようとしている。他者との対話から、あるいは業務の中で学びを得るには偶発的なチャンスを最大限に生かすような仕組みが必要である。」
私は企業研修の企画を仕事のひとつにしているが、よく提案するのがワークショップだ。社会人は皆なにかしらのプロだから、インタラクションによって、持っている経験知を引き出しあうことが、一番効果的な実践的学びになると考えている。ワークショップ未経験の企業では、従来の講義形式と違って「上司から遊んでいるようにみられてしまうのでは?」と担当者が懸念する場合がある。しかしそこで意思決定者たちを集めて一度体験してもらうと皆納得する。遊びに熱中するように学ぶのが一番効果的だとわかるからだ。ワークショップではひとりも居眠りをする者がいない。
「学習に関する研究レポートで明らかにされているように、学習者は深く関与すればするほど、学びが効果的になる。言い方を変えれば、学習者が質問をすればするほど、学習が強化されることになる。ソーシャルラーニングは、人々にとって(自分の)質問と、(自分の)答えの両方を容易に見つけることのできる手段であると言える」
いまならばITを活用することでソーシャルラーニングの効果は倍増させることができる。その具体例やキーワードが本書にはたくさん取り上げられている。たとえば社内でネットを活用している企業だったら「メディアシェアリング」や「マイクロシェアリング」の効果は体験しているのではないだろうか。Web上の記事をネタに、ネット上で情報交換をすることだ。
「バックチャネル」という言葉をこの本ではじめて知った。「ライブ・イベントなどの場において聴衆がツイッターやチャットを使って行うリアルタイムのテキストコミュニケーション」を指す。セミナーを聴いている聴衆が、ツイッター上でリアルタイムに議論をするあれである。
「多くの発表者は自分の話を聞かないで他のことをしている聴衆を見ると、発表者を無視しているのだと思うかもしれない。しかし、これは必ずしも実証されていない。多くの人は副次的なことをすることで主目的に集中するものである。"Applied Cognitive Psycology"の調査では、「ながら族」はそうでない人たちに比べて29%多く電話の会話を思い出すことができると報告している。」
教える方と学ぶ方をわけずに、皆でインタラクションして学ぶというスタイルがソーシャルラーニングである。バックチャネルにこそ本質があるような教育もでてくるかもしれない。講師は場のデザインとファシリテーション能力が求められるようになっていくのだろう。
そしてとても響いたのは「学ぶとは、自分のネットワークの質を最適化することである」という一文。ソーシャルメディアによって、より一層、知は人と人の間で創造されるものになっていくのだなあと予感させる内容。
この本の出版記念イベントやります。
「ソーシャルラーニング入門」出版記念「ソーシャルラーニング元年!学びで加速するソーシャル世界」セミナー開催
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/01/post-1569.html