Books-Education: 2009年12月アーカイブ
・防災ゲームで学ぶリスク・コミュニケーション―クロスロードへの招待
ゲームを使って災害時のリスクコミュニケーション(情報共有)を学ぶ「クロスロード」開発者たちの本。続編も出ている。
防災ゲーム「クロスロード」では5人くらいの参加者によるグループが、10枚のカードを順番にめくる。各カードには災害時を想定した、重大な意思決定をせまる、次のような質問が書かれている。
「あなたは、食料担当の職員。被災から数時間。避難所には3000人が避難しているとの確かな情報が得られた。現時点で確保できた食料は2000食。以降の見通しは、今のところなし。まず、2000食を配る? YES(配る) / NO(配らない)」
参加者は各自で意思決定を行った後で、全員の判断を公開する。結果として多数派の決定を選んだ人は青い座布団(ポイント)がもらえる。YESとNOが同数なら誰もポイントがもらえない。YESまたはNOが一人だけだった場合はそのひとりだけ金座布団(青と同じ1ポイント)がもえらえる。
カードを10枚やって最もポイントを獲得した人が勝利者となる。
ゲーム後のふりかえりセッションでは、各問題についてなぜそうした決定をしたのかを話し合う。多数派の青座布団を最も多く手に入れた人は誰か、なぜその人はたくさんの座布団を得られたのか。金の座布団(唯一の意見)を手に入れた人の心理は?。すぐにきめられた質問、なかなか決められなかった質問はどれか、など。ふりかえりながら、参加者は災害のリアリティを構築し、自分たちの災害対応のローカルなコンセンサスをつくっていく。
クロスロード開発チームは、阪神大震災に対応した職員に対する膨大な量のインタビューから、当時の意思決定場面を徹底的に分析した。すると「あのときの判断はあれでよかったと思っているが、今思い返すと、もっと他のやり方があったと思える部分もある。」と当時に思いをはせる職員が多かった、という。危急の場面では、その場にいる人間がその場にあるリソースを使って意思決定をしなければならない。普遍的なマニュアルには頼ることができない部分が大きい。
「なぜなら、これらの課題には、普遍的に通用するような真理(正解)がないからである。言い換えれば、これらの課題は、自然や社会の中にすでに存在する「真理(正解)」を見つけ出すことによって解決されるのではなく、当事者たちが、各地域のローカルな事情や自分たちの価値観を踏まえて、ローカルな「合意」を共同で生成していくことによってこそ解消される。」
こうしたローカル知識の共同生成を、ゲーミングを通して行うことができると著者らは考えた。ゲームは、ソーシャルリアリティを即座に構築し、多重の対話を生み出すことができるツールである。「ゲーミングの体験をふり返ってみることで、何がゲームの現実を規定しているのかという制度的側面や、立場の差によるリアリティの構成の差異を具体的、体験的に認識することが可能になる。」(出口、1998)という効用があるという。
ローカル知識の共同生成というモデルは災害時だけでなく、経営や現場の意思決定も応用が利きそうな考え方だと思う。このノウハウでリスクコミュニケーション以外の分野でも、ゲームを作ったら面白そうだなあ。