Books-Education: 2009年5月アーカイブ
・19×19 トクトク―日本人のアタマをもっとよくする2桁かけ算
ITにおけるインド躍進の背景にはユニークな数学教育があったと言われている。インドの九九は9×9で終わらず、20×20まで憶えさせるというあれである。これはインド式掛け算を教えるメソッド本だ。
10の段と11の段、それから20×20の段は簡単なので省略され、12×12~19×19を学習することになる。A×BとB×Aは同じなので逆順もまた省略される。暗記項目の数は案外に少ない。これなら小学生が高学年で九九に加えて憶えてしまえばいいというレベル。
まず12から19にキャラクターが割り当てられる。各キャラクターの絵とプロフィールを右脳的に記憶することから始まる。この数字の語呂+キャラクターの掛け合わせで生まれてくるストーリーを暗記していくのである。
12はトリだ。トリはニワトリだが好奇心旺盛な勉強家で好物は煮干しで空を飛び忍者を目指しているという性格が設定されている。
12×12(トリトリ)=144(ピヨヨ)
12×12はトリが2羽いるからピヨヨである。トリトリピヨヨを語呂とそのイメージで記憶する。
13はトミさんで、ハイテクを駆使する50歳の資産家で骨董好きで女性には興味なし。勝負事には弱い。武士に憧れるというお金持ちの紳士の絵柄。トミさんが財布からお札をトリに渡そうとするイメージで、
12×13=(トリトミ)=156(イチコロ)
トリトミイチコロを憶えるわけである。
日本的な漫画キャラクターのキャラクターが親しみやすく、イラストを眺めながら語呂を暗唱していくと、不思議と頭に入ってくる。暗記が苦手な私だが、やってみたらたくさん憶えられてびっくりした。短期記憶への刷り込みは十分な効果が見込めるメソッドだと思う。長期記憶に定着させられるかが今後の課題だが。
私は人から「橋本さんって本当に変わった人ですね」と言われるのが好きだ。そのために生きているといってもいいくらい快感だ。だから学生や後輩を褒めるのにも「君は変わってるねえ」とか「お前は変人だからなあ」という言葉遣いをする。私としては最上級の賛辞のつもりなのだが、ときどき真意が伝わらず、困った顔をされてしまうことがある。みんなもっと変わっていることに自信を持てばいいのに、と思う。
自他共に認める変人指向の人は、この本をすぐ読むべきだと思う(そうではない人は読まない方が良い)。変わり者であることに自信のない人は勇気づけられるし、うまくいっていない人はどうすべきかのヒントを学ぶことができる。
世の中のマジョリティはいかに良い群れに属するかを競っている。高学歴、高収入、良い家柄、「みんなが認めるタグには価値がある」という画一的価値観に染まっているから行列に並ぶ。非属の才能を持つ人間は行列の最後尾に並ぶのではなくて、自分の後ろに行列ができてくれないかなと願う。
漫画家という非属の代表格のような職業で活躍する著者は、自分の人生を振り返り、見つめ直し、変わり者であることの価値を再確認する。その上で異端児ならではの幸福論を話す。熱いメッセージが感動的だ。
「変わり者のいない群れは、多数決と同じでいつも同じ思考・行動をくり返し、環境や時代の変化に対応できず、やがて群れごと淘汰されてしまう。学校や会社などでは、変わり者は「百害あって一利なし」とまで言われてしまうが、皮肉なことに、停滞した群れの未来はたいがいこの手の「迫害されがちな才能」にかかっている。」
この本は前半で非属系の読者にそれでいいのだと自信を持たせ勇気づける。後半ではそうした非属系が世の中と折り合いをつけて才能を開花させるためのアドバイスがある。決して単純な独りよがりを礼賛する本ではない。非属人間にとっては耳が痛い記述も多い。
「人間は自分を認めてくれる人を認めたがるし、謙虚な人を褒める生き物なのだ。」
「...この自意識というやっかいなものは、他人にとっては本当にどうでもよく、うっとうしいものなのだ。ひと言でいえば、非属の才能を持ちながらみんなとうまくやっている人は、この自意識のコントロールのうまい人間である。」
という非属が陥りがちな傾向に対する警句がある。一番心に響いたのはこれである。
「僕が出会った非属の人たちの多くは、自分の世界を大切にしているだけでなく、その自らの世界をエンタテイメントとして相手に提供する術を知っていた。自分のなかにある非属をみんなのためにわかりやすく翻訳したり、調理したりすることが、幸福な人生を送るためには必須なのだ。嫌われる変人はここで怠けている。どこにも属さないということは、はじめから受けいれてもらうのが困難なところにいるということであり、それなりの努力はつきものなのだ。」
結局のところ、異端で変人でオタクでも、話が面白ければいいのである。世の中にわかってもらえる価値を作り出せれば、そのユニークさゆえに価値が倍増して見えるのである。幸せな孤独者として生きるには、群れずにつながれ、という著者のメッセージに深く感銘した。
百聞は一見にしかず。ことわざや慣用句を写真で説明するビジュアル辞典。基本的に児童学習用。
たとえば、苦労しないでたくさん儲ける「ぬれ手であわ」の項目では、実際に水にぬらした手で粟をつかむとどうなるかを、粟がべったりと着いた手のひらの写真で見せる。どれほど濡れ手に粟がうまいやり方なのか実感できる。
特に動物ネタが楽しい。ことわざや慣用句が作られた頃は人間と一緒に暮らしていた動物も今は生活空間で見ることができないものがほとんどだ。子供に教えるとき、こうしたビジュアルブックがあると便利である。
たくさんの人や物が一箇所に集まる「目白おし」の項目には野鳥のメジロが木の枝の上におしあうようにびっしりと並んだ写真がある。「おなじ穴のむじな」ではムジナが何なのかよくわかった。「蛇足」は実在するものだという発見もあった。「ねこの額」は本当に狭い。「虎視眈々」獲物を狙うトラの目つきは本当に鋭い。瓜を真っ二つにして「うり二つ」を検証する。
実は、私はこの本で数十年来の大きな誤解に気づいた。
「灯台もと暗し」
灯台は海辺の灯台ではないのである。灯台は部屋の中で油を使って火をともす照明器具のことなのである。知ってましたか?写真を見て愕然としましたよ私は。
子供だけでなく、一緒に見ている大人も楽しい本である。