Books-Economy: 2012年10月アーカイブ
ITベンチャーのインキュベーター MOVIDA JAPAN株式会社のCEO孫泰蔵氏監修、2010年代の新しいスタイルによる起業のすすめ。MOVIDAの経営陣(実はそのうちのひとりでかつての一緒に起業したこともある伊藤健吾氏から献本頂きました)や、支援を受けたスタートアップ起業家たち、国内のVC関係者たちへのインタビューと寄稿を中心に、シリコンバレーの最新事情から国内スタートアップの現状とアドバイスなど情報が盛りだくさんの内容。シリコンバレー事情は、起業十数年目の私にとっても面白い情報だった。
まずIT系ビジネスの起業コストは10年間で20分の1~100分の1にまで下がっている、という分析がある。「10年前のドットコムバブルの投資のほとんどは、膨大なサーバー投資、ソフト制作人件費、販売促進費などに消えていったんですね。」
それがこの10年間で、
膨大なサーバー投資 → 安価なクラウドサービスの登場
膨大なソフト制作人件費 → 高度なオープンソースソフトウェアの登場
膨大な販売促進費 → ソーシャルメディアの発達
といった大きな変化によって起業のハードルが下がってきた。
だから、MOVIDA JAPANのスタートアップへの投資の基本金額は500万円だ。これは数人の若者が6か月懸命に働いて1つのプロダクト、サービスを作り上げて市場に投入するまでのスタートアップのコストを500万円と見積もっているからだ。
「出資に関しては株式による出資ではなく、日本版のConvertible Noteである新株予約権付転換社債で行っています。これは我々の出資時点でValuationを決定せず、次の投資家が出資するときまでつなぎ融資をしているイメージです。次の出資が決まれば株式に転換することになっています。起業家の株式希薄化のスピードを緩めたり、我々投資家側のダウンサイドのプロテクションにもなっています。」(MOVIDA JAPAN伊藤健吾氏)
才能ある若者たちに数人でのバンド感覚の起業をすすめている。業界で経験を積んでから満を持して覚悟の起業という古いスタイルとは違う。バックパッカーのような新しい感性の新しい起業家たちが、この本にはケースとして何人も登場している。彼らは起業プロセス自体にはまったく悩まず、いきなり面白いサービスつくりに集中している。この新しい起業家のプールから新しい何かが生まれてくるかもしれない。
本書に登場するDCMパートナーの伊佐山氏いわく、成功する起業家の条件はメガロマニア(誇大妄想癖)、パラノイア(強烈な偏執癖)、ヒュメイン(人間味)の3つを備えた人。カジュアルに起業できる時代といっても、根源的な部分で莫大なエネルギー量を持った人間でなければ経営者として成功することはないだろう。そういうちょっとヘンで、かなりあつくるしく、しかしどこか気になる顔たちが見える一冊だった。若手起業家予備軍におすすめ。