Books-Economy: 2011年12月アーカイブ
世界最強の組織の裏側を外国人ジャーナリストが暴く。第23回アジア・太平洋賞大賞受賞、英エコノミスト、フィナンシャルタイムズのブック・オブ・ザ・イヤー受賞作。
中国共産党は2009年半ばの党員数7500万人(国民の12人に1人)。世界最大の人口と多くの問題を抱えながらも、共産党が導く中国は、短期間に著しい経済成長と近代化を実現してきた。間違いなく世界最強の組織だ。だがその内側のことはほとんど世界に知られていない。著者は共産党や大企業幹部への取材活動を通して、現代の共産党の実態を明らかにしていく。
「わずか一世代のあいだに党のエリート層は、陰気な人民服を着た残忍なイデオロギー集団から、スーツを着た、企業を支援する金持ち階級へと変身した。それとともに彼らは自分たちの国を変容させ、世界をも作り変えようとしている。今日の中国共産党は、グローバリゼーションの道を邁進することに専念し、それによって経済効率と収益率を高め、政治的影響力をより強固なものにしようとしている。」
中国共産党は何かに登録された組織ではない。憲法前文にある「共産党の指導のもと」という一文以外に、共産党を組織として存在させる法律や登録は存在していない。だから誰も正式には党を訴えることはできない。法体系の外にある超法規的存在なのだそうだ。その力はあまりに強大だ。
「すべての国有大企業では通常、役員会に先だって党会議が開かれます。経営コスト、資本拠出義務などについては役員会で討議されますが、役員人事を握るのは党です。」
共産党の幹部たちは党の要職とともに大企業の役員も歴任していく。党は企業人事に関与していないというフィクションを作り上げるため、表向きの発表は普通の企業の役員交代であるが、実質は党内の人事異動に過ぎないのだという。
中東では民主革命を実現させたソーシャルメディアや検索エンジンでさえ、中国共産党は支配のツールとして活用している。中央権力を強化するために、地方の政治的腐敗や過剰投資を敢えてブロガーに暴かせ、粛清していくのだ。
「ゴマ粒官僚たちを従わせるためには、最新のツールも巧みに利用されている。国内のジャーナリストやブロガーが地方の役人による権力の乱用を暴露することを許したのだ。もちろん、中央政府の最高幹部はその対象に入っていない。中国で言うところの「人肉検索エンジン」によって、地方の役人たちが次々に失脚させられたのは2009年のことだった。」
中国共産党の目指すのは「経済成長」と「ナショナリズムの再興」。経済成長の成功によって自信を取り戻した中国は、もはや西欧型の民主国家+市場経済を見習おうとしているわけではないと著者は結論している。経済大国となりつつある中国は社会主義国家でさえない。まったくユニークな中国共産党の独裁国家なのだ。
TVチャンピオン優勝者で回転寿司評論家が書いた回転寿司屋の経営実態。経営の合理化の典型的な成功例がみえて楽しいニッチなテーマの経営書だ。お客が回転寿司ではどう振る舞うのがお得かわかる内容もあって経営者でなくても楽しめる。
原価率30%以下が一般的な飲食業界にあって、回転寿司は原価率が40%~50%が当たり前の世界。人件費や管理コストをシステム面でのハイテク化、IT化によって徹底的に合理化して、競合店が熾烈な競争を繰り広げている。
たとえば、ここで紹介されていたあきんどスシローの導入した「開店すし総合管理システム」は、
「皿の裏側にICチップを付け、単品管理を行うと共にリアルタイムの売れ筋状況を把握することで、いま流すべきネタをコンピュータが指示するという画期的なシステムである。客の性別、年代などを来店時に打ち込み、さらに滞在時間により来店したばかり、30分経過、帰る間際等に分類し、どの寿司をどれくらい流せばいいのかをPOSデータをもとにコンピュータ制御するわけだ。三人連れの親子が40分以上滞在している場所にたくさんの寿司を流しても食材ロスになる確率が高くなるし、子供が多ければ、子供が好きな寿司やデザートを流すなどの調整ができる。」
なんていう内容。回転寿司が職人の勘や技に頼っていた時代はとっくに終わっている。そしてこうして絞ったコストを食材の調達に使う。いま回転寿司業界は大手100円寿司チェーンと、高価格グルメ系回転寿司店が二分しているそうだが、後者では銀座の高級店より鮮度の良い美味な魚を味わうことができることもある、という。
三貫盛りはお得、メバチマグロはおいしい、「当店の人気ベスト3」は主に店が売りたい高利益商品、全国ご当地回転寿司など、お客にとっても有益な情報も満載。
国際的なマーケティングコミュニケーション企業のヤング&ビルカムが、17年間で120万人以上を対象に継続実施してきた「ブランド・アセット・バリェエーター」(BAV)という調査がある。50カ国4万を超えるブランドイメージについて四半期ごとの購買・消費者意識アンケートを行うものだ。
著者はBAVの分析もとに、リーマンショック後の、世界の消費者心理と購買行動に大きな変化があったと結論する。危機を乗り越えた消費者たちは、まるで御札が投票用紙であるかのように、絆や夢や未来のために、消費活動を行うようになった。社会をよくするための選択としての消費へのシフト。それが本書のタイトル「スペンドシフト」だ。
この本で紹介されるデータ的には「富裕層向け」「お高くとまった」「感性に訴える」「大胆な」「トレンディ」だったかつての人気ブランドへの評価が下降して、代わりに「親切で思いやりのある」「親しみのある」「高品質の」「社会的責任のある」「リーダー」といったイメージを持つブランドが高く評価されている。
物質主義から精神性や社会性の追求がはじまった。消費者の価値観は「不屈の精神」「発明・工夫」「しなやかな生き方」「協力型消費」「モノ重視から実質重視へ」。じっくり考えるソクラテス流の消費の時代。自分の理念に合うかどうかを基準にしてブランドを選ぶ時代。さまざまな調査の数字がそうした新しい時代精神を示している。
クチコミによる評判を重んじ、良き企業市民であること、地域社会や従業員を大切にする企業が愛される。コミュニティづくりと親和性の高いブランドは主要指標のすべてにおいて他のブランドを上回っている。ソーシャルメディアが「顔の見える」企業をつくるための有効なツールになる。
「次の選挙を待つまでもなく、消費が新しい傾向を示す背景には価値観の変化があるとわかるはずだ。アメリカは借金による消費やモノの過剰と決別して、節約と投資へと向かっている。わが国のGDP(国内総生産)の三分の二は消費支出によって支えられている。つまり、消費の風向きは、文化と経済の両方に変化を及ぼしているのだ。わたしたちは、消費しない社会に向かっているわけではなく、消費のもたらす変化をとおして社会をよい方向へ導こうとしている。」
ここに取り上げられるデータは欧米のものが多いのだが、日本でも3.11以降、コミュニティ、絆、未来の共創が大きなテーマとなった。2011年がスペンドシフト元年と言っていいかもしれない。
消費者が何を買うか、何を買わないかで、社会を変えていく。マーケティングの役割が大きく変わるということでもある。視野を広く、志を高く持たないと、マーケッターという仕事はつとまらない時代になった。