Books-Economy: 2011年7月アーカイブ

・日本の農業は"風評被害"に負けない
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原発事故の影響で苦境に立たされている農家への取材と風評被害問題の解決の考察。

被災地東北の農家の応援はしたい。だが本当に政府が安全とする放射線の基準値は正しいのか。こどもに食べさせてもまったく問題はないのか。誰が安全を保証してくれるのか。今は悩ましい気持ちで過ごしている消費者が多い。農家に対する信頼不足ではなく、政府の対応に対する信頼不足が原因だ。

放射線がまったく検出されない農作物でありながら、東北の産物だというだけで消費者に敬遠されてしまうとすれば、それは確かに風評被害である。3月22日 茨城県で「イチゴの取引価格が1パック20円に急落」したそうだが、出荷はできても市場での価格がとんでもなく低くなってしまうことも痛い。

この本に登場する農家たちは、

「安全・安心の根拠を作るため、あえて自分の畑を一度潰した」
「出荷先を市場ではなく、直取引にシフトする戦略を取った」
「自ら市場に安全の根拠となる資料を配った」

などの行動をとって、それぞれが風評被害に対処している。個々の安心安全を守ろうとする意識はとても高い。苦境にありながら、消費者には安心安全だといえるものだけを届けたいという信念の人がいっぱいいる。志の高さに感動する。

だが、思わぬ問題もあるのだなと知る。

ある茨城の農家は、風評被害によって通常の相場の10分の1(数十円)にまで値段が下がったトマトを泣く泣く直接市場で売った。どれだけ店舗で安売りされているか確認しにスーパーに行くと驚いたことに売り場では「風評被害に負けるな!茨城県産の野菜を食べよう!」というポップ付きで普段の定価(数百円)で売られていたという。値崩れを防ぐための販売手法なのかもしれないが、数十円で売った立場としては、なんともいえない気持ちで帰ってきたそうだ。風評被害に乗じて不当な利益を得ている業者もいるかもしれないと著者は指摘している。

日本の農業は"風評被害"に負けないという力強いタイトルの通りになってほしいが、問題はいままだ現在進行形である。これを機に直販を多くして経営を安定させる農家もあるかもしれないのがわずかな希望か。いま起きている風評被害の複雑さが印象的なタイムリーな内容の本だった。

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