Books-Economy: 2011年5月アーカイブ
世界の所得分配ピラミッドの底辺40億人、世界人口の3分の2は1日8ドル未満で暮らしている。一人ひとりの収入は少なくとも合計すると年間5兆ドルの所得がある大国となる。この人々を援助の対象とはとらえず、消費者であり生産者であるとみなすことで、現地に持続可能なビジネスを創出できれば、未来の大きな市場となる。
これは国連開発計画(UNDP)の「包括的な市場育成イニシアチブ」調査報告書の日本語版。
1 貧困地域におけるビジネスチャンスと5つの課題
2 BOP市場での事業の成功を導く5つの方法
3 さまざまな業種における、示唆に富む17の事例
という構成で"インクルーシブビジネス"のチャンスを語る。
(1)基本的なニーズへの対応、(2)生産性の向上、(3)収入の増大、(4)エンパワーメント、サポートの方法は大きく4つが設定され、これらの方向性でさまざまな取り組み事例が紹介されていく。中国の貧しい農民のためのコンピュータを開発してソフトとセットで配る。インドの不可触民のために衛生的なトイレをつくる。ケニアの貧困層のために携帯電話で電子マネーの融資を可能にする。南アフリカで低所得者向け教育ローンを提供する。メキシコ人の出稼ぎに住宅建設をサポートするための送金サービスを提供する。などなど。
「貧困は多面的だが、その核心は機会の不足だ。インドの経済学者アマルティア・センの言葉を借りれば、価値があると思える人生を選べないことだ。機会の不足を引き起こしているのは。お金や資源の不足だけでなく、資源を使いこなす能力の不足だ。つまり、健康でないこと、知識や技術が足りないこと、差別を受けていること、社会的に排除されていること、インフラへのアクセスが限られていることなどのせいで、貧困層の人々は自分の持つ資源を活用して機会に変えたくても変えられない。自らが良いと思う選択肢を選べないのだ。」
どうやって貧困層において持続可能なビジネスを生み出せばいいのか。イマージョンという手法が興味深かった。イマージョンとは貧しい村に長期滞在して住民との信頼関係を築き、本当のニーズにもとづくビジネスモデルをつくりあげる手法のこと。
「インテルやモトローラやノキアは「ユーザー人類学者」あるいは「人間行動研究者」を雇っている。彼らは潜在的顧客の中に入り込み、いろいろなサンプルインタビューをして、製品につけたら喜ばれそうな機能は何かを調べてリストアップする。ニューヨークタイムズによれば、携帯電話が家族や隣近所の人たちの間で共用されているという人類学者の研究成果からヒントを得て、ノキアは最大7つのアドレス帳を搭載した携帯電話を生産し始めた。」
貧乏に慣れた長期旅行者いわゆるバックパッカーをイマージョンのリサーチャーとして教育したら面白いことになるのではないだろうか。
世界を変えるビジネスの入口を探している人におすすめの内容。
米国の調査会社が発表した2011年の世界の10大リスクのトップは「Gゼロ」。グループ・オブ・ゼロ、世界的な指導者の不在を意味する。「世界の大国が内向きになり指導力を発揮しようとせず、国際機関も十分な役割を果たせず機能不全に陥る。その結果、経済不振となる」というシナリオ。日本経済新聞社の論説副委員長が書いた。
グローバル視点で混沌とした時代のゲーム盤を読み解けば、オセロで相手の駒をいっきに自分の色に塗り替えるように、勝者と敗者の入れ替えを起こすことができて、日本にも経済復活のチャンスがあるという力強い提案本。
著者は「はたらけど はたらけど 猶わが生活楽にならざリ ぢっと手を見る」の俳句になぞらえて経済活動をとりまく環境条件の悪さを「啄木の世界」となづけた。一方で「カネは天下の回りもの」、自らの才覚で成功をおさめる世界を『日本永代蔵』になぞらえて「西鶴の世界」と呼んだ。
「交易条件の悪化を「啄木の世界」、企業の努力による純輸出の拡大を「西鶴の世界」と呼ぶとすれば、肝心なのはどちらの要素が勝っているかだ。ひと言でいえば、06年までは純輸出額の拡大が交易条件悪化を埋め合わせていた。 だが07年半ば以降は「啄木の世界」が勝っているといえよう。もちろん、その試練は新エネルギー開発やエネルギー効率の向上を促すことで、オセロゲームのように新たな「西鶴の世界」の幕を開く可能性がある。最も有望なのは電気自動車であろうが、ここしばらくは日本にとって「啄木の世界」が続くことを覚悟しておくべきだろう。」
グローバリゼーションの勝ち組・負け組をわけるのは、個々の国や企業の努力というよりも、オセロのルール上で有利な手を売っているかどうか。その見極めるポイントをいくつか解説している。
たとえば一人当たりGDPの増加に伴い消費支出が爆発的に伸びる「スイートスポット」にあたる中国やこれからの成長が見込めるBRICs諸国の市場。アジア、新興国の内需拡大に合わせて家電や車を売り込めれば勝ち組になれるが、お隣韓国が日本を急速に追い上げてきているという。
この本を読んで日本のチャンスとして面白いと思ったのがコンビニの輸出だ。セブンイレブンは日本に12925店あるがタイには既に5660店も出店しており、業界売り上げトップで毎年200から400店ペースで拡大しているそうである。コンビニが受けているというのは、日本的なライフスタイルが受けているということでもある。
「食事やサービス、家電製品、アニメから音楽まで日本をまるごと売りこむ。いわば日本の生活様式を輸出する形で、消費を「外需化」することが重要な戦略目標になってくる。こうした好循環を起こせれば、国内の雇用の増加にも役立つのは間違いあるまい。」と著者は書いている。
新幹線や原発、水道インフラを輸出するよりも、こうした商売のインフラを売った方が、その先にあるアニメやゲームを含めた文化の市場までおさえることができて面白そうである。
国内経済については、生産年齢人口が減り、高齢者人口が増える高齢化社会の問題を分析している。日本の家計金融資産の64%(811兆円)を60歳以上が保有している。このうち一人住まいの高齢者の保有分が235兆円もあるという。将来が不安で死ぬまで金を持ち続ける「強制貯蓄」状態から、一人暮らしの高齢者をいかに解き放つかが課題であると。ああ、オレオレ詐欺に代わる合法的なビジネスということですかね。
日本経済復興のヒントがいろいろ詰まっていそうな論考集。