Books-Economy: 2010年9月アーカイブ
・コトラーのマーケティング3.0 ソーシャル・メディア時代の新法則
「近代マーケティングの父」コトラーの最新作。
物の売り方や顧客の満足を中心に考える古典的なマーケティングの概念を完全に脱している。核となるのはこれからの企業のミッションやビジョンのつくりかたの話だ。マーケティング担当者だけではなく、経営者が読むのにふさわしい内容。
マーケティングは第三段階に進化したという。
1.0 製品中心のマーケティングの時代
2.0 消費者指向のマーケティングの時代
3.0 価値主導のマーケティングの時代
3.0では、消費者をマインドとハートと精神を持つ全人的存在としてとらえ、従来のマーケティングの武器だった「製品開発」や「差別化」ではなく、「世界をよりよい場所にする」ための社会的な「価値創造」こそが消費者をひきつける重要な要素になると説く。
消費者がインターネットやソーシャルネットワークによって対話し、協働する世界では、もはや企業論理のマスマーケティングは通用しない。消費者は企業を機能的パフォーマンスから社会的パフォーマンスの観点から語り始めている。そうした傾向はツイッターやブログの風評や炎上事件を見れば明らかだ。
マーケティング3.0とは、
協働マーケティング
文化マーケティング
スピリチュアルマーケティング(精神の充足の意味)
の3つの要素の融合であるという。創造性、文化、伝統、環境といった分野で価値創造に参画できる企業こそ、ソーシャルメディア時代の勝者となると教える。マイクロファイナンス、ソーシャルビジネス、BOP市場、グリーン市場など未来の成長市場におけるケースも示されている。
消費者の精神に訴えかけるブランドに必要な3つの要素が次の3iである。
ブランド・アイデンティティ
ブランド・インテグリティ
ブランド・イメージ
ポジショニング、差別化、ブランドの整合性を保つことが重要課題になるという話。
多様な価値観のグローバル世界では、コミュニティ全体の幸福という大義名分を持つことが、最強のマーケティングになるということだろう。経済や経営がわかるだけでは、もはや経営者はつとまりませんという厳しい話でもある。
中華街の老舗 萬珍樓の社長で、横浜中華街発展会協同組合理事長の林兼正氏の書いた町づくり論。
500メートル四方に年間2300万人が訪れる横浜中華街。世界の中華街のうち、横浜中華街が最も来訪者が多い。しかし華僑の人数は、ニューヨーク34万人、バンコク60万人、バンクーバー17万人に対して横浜はたったの3000人しかいないのだそうだ。だから、他国の中華街と違って、中国人のための中華街というより、日本人のための中華街という側面が強くなる。
工夫は料理の味を日本人好みにするだけではない。中国料理だけの町から、訪れて楽しい中国文化の町へ。町ぐるみの経営努力で今の中華街の繁栄は作られたことがよくわかる内容だ。
たとえば何年か前に中華街の住民がマンション建設予定地を18億円で買い上げて、媽祖廟をつくったというニュースを聞いた時は、華僑はやっぱりお金持ちだなあと思ったのだが、大富豪が余裕で買い取ったという話ではなかったと知ってちょっと驚いた。
「18億円と言ったって、そんな金が町にもともとあるわけがない。では、どうしたか。町の人々が全員で負担するのだ。30年で18億円を支払うには、利子を別にして、毎年6000万円の金がいる。月にして500万円。400軒の店が毎月1万円強、30年間支払い続けなければならない。横浜中華街の人たちは、私利私欲を捨て、次の世代のために、町を守ろうと今も支払いを続けている。」
日本人以上に中華街の住民は地元愛が高いようだ。
「子供の頃、私は日本の学校に行った。夏休みになると、友だちみんな「おじいちゃんの所へ行くんだ」と言って、田舎に遊びに行ってしまった。私には、田舎がない。あるとすれば、共産国家の中国で、当時、行けるはずもなかった。だから、私にとっては、横浜中華街が故郷であり、自宅でもあった。 「俺にはここしかない───」 私だけではない。ここに住んでいる多くの人たちが、ここで結婚式を挙げ、葬式をする。孫の誕生を祝い、関帝廟で商売繁盛を祈る。祭りがあり、獅子が舞う。」
中華街では廟や祭りの数が年々増えている。日本の地方で減っているのとは対照的だ。中華街の特殊性も大きいので、町づくり、町おこしの方法論として、よそでそのまま使えるというわけではないと思うが、パワフルなリーダーのもとに位置から伝統をつくりだすケースとして興味深いケースだった。
横浜開港から中華街成立と発展の歴史も詳しく解説されていて勉強になる。