Books-Economy: 2010年6月アーカイブ
「筆者は日本の独自性を否定するわけではない。むしろ日本の独自性は強みになる。ガラパゴス諸島に多くの観光客が集まるように、希少性は差別化要因になる。本書でガラパゴス化という場合には、過度の垂直統合ビジネスによるデメリットや閉鎖性を強調しているのであって、希少性、独自性を否定しているわけではない。ただ狭いガラパゴス諸島の中で独自進化していても仕方がない。世界に向けて、独自進化した種が生き延びていかないといけない。」
欧米のグローバル・スタンダードに合わせないと日本は没落してしまうぞという、私が嫌いな単純グローバリズム論ではなくて、日本は脱ガラパゴス化してグローバルのゲームのルールづくりに積極的に関わるべきだという内容の本。これは結構、納得だった。
米国もガラパゴス化しているが、日本と違って人口が増えており、どんどん拡大するガラパゴス諸島として繁栄できる。一方の日本は人口が多いからガラパゴスでやってきたが、これからは減少に向かう運命にある。必要な分野は脱ガラパゴス化や「出島」戦略で、状況の変化に対応しなければ生き残れない。
脱ガラパゴス化のキーワードとして以下の6つが挙げられている。
1 リーダーシップ
2 形式知化
3 ゲームのルールをつくる、ゲームのルールをかえる
4 水平分業、モジュール化
5 新興国における新しい生態系の構築
6 ハイブリッド化
産業界ではとりわけ3のルールづくりへの関与が重要なのだと思う。結局のところ、国際標準を決めているのは少数の権威者や専門家エリートたちの密室政治だ。日本の技術力は高いのに、政治に関与しないから、国際市場では取り残されてしまう。携帯、テレビ、医療、教育、会計などのガラパゴス化の経緯が紹介されている。
「国際政治学では、時にこのような人々のことを知識共同体(エピステミック・コミュニティ)という。そして、知識の「もっともらしさ」は、このエピステミック・コミュニティの了解事項として、生み出される場合が多いのである。日本における問題は、エピステミック・コミュニティに属する人々が、相対的に少なく、またこれらの人々が日本の政策決定と直接結びつく割合が少ないということである。」
一足飛びにそうした国際交渉のできる人材は育たないので、まずは日本初のインデックス(指標)やランキングを世界に発信してみてはどうかと著者は提言している。日本の得意分野であれば効果はあるのかもしれない。
で、なんにせよ英語力は必要である。
今年に入って楽天とユニクロは社内公用語を英語にすると発表している。極端だがこれはこれでベンチャーとしては英断なのではないかと思う。成功すればこの本で言う「出島」として機能するだろう。特に海外中心へ移行するユニクロは、社員のダイバシティも高めるらしいので(13年には社員の4分の3が外国人)相当本気だ。
・三木谷浩史・楽天会長兼社長――英語ができない役員は2年後にクビにします
http://www.toyokeizai.net/business/interview/detail/AC/810ee47297d49033c2a4b43a0a5216e0/page/1/
・<ユニクロ>新世界戦略 英語公用化...12年3月から
http://mainichi.jp/select/biz/news/20100624k0000m020123000c.html
競争原理ではなく協力原理こそ、現在の経済危機を乗り越える思想であるとする、新自由主義批判と再生ビジョンの提示。民主党に強い影響力を持つといわれる経済学者 神野直彦教授著。
「これまでの大量生産・大量消費に代わって知識社会では、知識によって「質」を追求する産業、より人間的な生活を送るために必要なものを知識の集約によって生み出していく産業、すなわち知識産業が求められる。それと同時に、人間が機械に働きかける工業よりも、サービス産業という人間が人間に働きかける産業も主軸を占めるようになる。」
農業社会から工業社会を経て知識社会の時代が来る。知識社会の創造の原理には「奪い合い」よりも「分かち合い」が有効であるという主張がある。創造的な場は、競争だけではつくれない。知識は共有することで深まる。日本は国際比較でみると、対人信頼感がかなり低い社会であり、情報や知識の流通がうまくいっていない。
「知識に所有者を設定して、市場で取引しても、知識による知識産業は効率化しない。真理を探究する知識人にとって、真理を探究することそれ自体が喜びであり、インセンティブとなる。知識は他者と共有し合うオープンな集合財と考えるほうがよい。知識へ支払われる報酬を目的として他者を蹴落とすような虚層が繰り広げられるような社会では、知識産業は活性化していくことはない。」
グーグルとかIDEOとかザッポスとか、知識を成長の源泉にしている会社の組織風土は、知識の共有と協力関係をベースにしている。そのうえで切磋琢磨の競争が遊ばれる。市場にまかせると経済は最適化されるが、人間関係は最適化できないということなのだろう。
「「市場の神話」では人間が他者と接触するのは、他者が自己の利益になる時だけであると信じ込ませようとする。市場における契約関係とは、まさに他者が自己の利益になると、双方が思った時に成立する。ところが、他者の利益は自己の利益であると人間が考えるようになると、「市場の神話」は成立しなくなってしまう。他者の利益が自己の利益だという原理は協力原理と言う「分かち合い」を支える論理である。協力原理は「仲間」の形成によって成立する。つまり、「私」の利益ではなく、「われわれ」の利益を求めるようになるからである。」
インターネットのことは触れられていないのだけれども、読めば読むほど、これはネット時代の知識創造原理であると思う。