Books-Economy: 2010年2月アーカイブ

・金融危機後の世界
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ジャック・アタリが「21世紀の歴史」で示したビジョンから、金融危機後の世界を予測する。金融危機を2007年2月から時系列で追ったドキュメント「世界金融危機」と、近い将来に発生しうる最悪の事態の描写、それを避けるための提言からなる。

「危機へと導いた一連の出来事は、アメリカをはじめとする、すべての先進国における社会的不平等の拡大からスタートした。すなわち、社会的格差の拡大こそが、需要にブレーキをかけたのだ。こうした事態が進行したのは、アメリカが、自国の金融システムを「公正なる」所得分配制度として採用することについて、社会から暗黙の了解を取り付けたからである。 さらにはアメリカの金融システムの潜在能力により、監視(規制)されることのない新たな金融商品が開発された。これらの金融商品により、アメリカの金融システムは、儲けまくると同時に借金を膨らませることができた。こうして自らが抱える諸問題は隠ぺいされ、問題を、ロンドン市場・ウォール街・オフショア金融市場などを経由して、他に移し変え、また輸出することができた。」

アタリは現代の金融危機とはアメリカと金融業界の節操のなさが原因であり、結果として「若年層の相対的な減少と所得の偏りによる危機」を招いたと要約している。このまま社会的不平等の拡大と無軌道な金融商品の開発が続くならば、ハイパーインフレや世界大戦という最悪の事態が訪れるぞと警鐘を鳴らす。

今、各国政府は民間機関の債務を政府(納税者)の債務につけかえることで、問題を先送りしているが、それではカタストロフは避けれれない。じゃあ、どうするというところで、

「世界的危機を回避するためには、グローバル化した市場を政治化することが必要であり、地球規模の法整備が求められる。また、経済の主役の座から金融を降板させる必要がある。」

というのがアタリの考え方だ。そのための改革プログラムが後半ではいくつも提案されている。国際金融システムへの規制と、世界統治システムの構築、地球規模の大型公共事業...。フランス大統領顧問だけに政策提言のスケールは大きい。

アタリは前著「未来の歴史」に詳しいが世界を動かす根本原理に、自由に向かう人類の普遍的な性質をおいている。"アメリカ"も金融市場も、自由を求める欲望がつくりだしたものだ。意思も持たない目的ももたない「ゴーレム」としての市場原理や民主主義が暴走した場合、誰がそれを止めるのか?という難問とアタリは格闘している。

感想としては、道徳でそれを制するというのは、かなり難しいことなのではないだろうかと思った。欲望を欲望で制するような、したたかなプラン、欲望経済のオルタナティブな(しかもエコな)収束点を未来ビジョンとして提示してみせること、それができるリーダーの登場が必要なのだと思う。オバマではまだ足りない。

・21世紀の歴史――未来の人類から見た世界
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/02/21-1.html
名著

・図説「愛」の歴史
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/post-1104.html
これもアタリ