Books-Economy: 2009年12月アーカイブ
ワイアード編集長で「ロングテール」概念の提唱者のクリス・アンダーソンが、ネットビジネスの「フリー」戦略を分析した。
「そして二十一世紀はじめにいる私たちは、新しい形のフリーを開発しつつあり、それが今世紀を定義づけるだろう。新しいフリーは、ポケットのお金を別のポケットに移しかえるようなトリックではなく、モノやサービスのコストをほとんどゼロになるまで下げるという、驚くべき新たな力によっている。二十世紀にフリーは強力なマーケティング手法になったが、二十一世紀にはフリーがまったく新しい経済モデルになるのだ。」
実体のあるモノをフリーにするのは限界があったが、デジタルコピーは何百万本でも無料で配ることができる。しかも現実世界の流通と違って、何百万人に配布してもたいしたコストにならない。少数の有料顧客や、ビジネスの受益者が支払うコストによって、大勢に無料で商品やサービスを提供することが可能になった。
著者はフリー戦略を経済学でいう相互補助(他の収益でカバーする)の概念で説明している。フリーではあってもコストは誰かが負担しているのだ。そして相互補助概念による4つのフリー分類と、それらを利用した50のビジネスモデルの具体例をおく。
4つのフリーとはこうだ。
1 直接的内部相互補助
DVDを一枚買えば、二枚目はタダ
フリーで消費者の気を引いてほかのものを買わせる
2 三者間市場
広告などある顧客グループが別の顧客グループの費用を補う。
3 フリーミアム
無料版と有料版など一部の有料顧客が他の顧客の無料分を負担する。
4 非貨幣市場
対価を期待しない活動。ウィキペディアや不正コピーなどいろいろ
そしてフリーはネットビジネスの必然の帰結である。
「競争市場では、価格は限界費用まで落ちる。インターネットは史上もっとも競争の激しい市場であり、それを動かしているテクノロジー(情報処理能力、記憶容量、通信帯域幅)の限界費用は年々ゼロに近づいている。フリーは選択肢のひとつではなく必然であり、ビットは無料になることを望んでいる。」
だが相互補助である以上は誰かがコストを支払う必要があるはずだ。
「まず経済面での答えはイエスだ。最終的に、すべてのコストは支払われる必要がある。。ただそこには変化が起きている。それらのコストが「隠されたもの」(ランチのときに、ビールを頼まなければならないといった小さなこと)から、「分散されたもの」(誰かが払うが、たぶん皆さんではない。コストはとてもこまかく分散されているので、個人は、まったく気づかない。)に変わりつつあるのだ。」
少数の有料会員がたくさんの無料会員のコストを負担していたり、無数のユーザーのアクセスが広告運営を可能にしていたり、今は無料で会員を増やし将来の有料化で回収したり、さまざまなフリーのモデルは巧妙に、無料の理由をわかりにくくする。
ネットビジネスではしばしば「ビジネスモデル」が議論されるが、多くの場合、このフリーのバリエーションが、ビジネスを複雑化しているからなのだと思う。フリーを深く理解しておくことが、ネットビジネスの深い理解につながるはずである。
この本には無料のルールが10個紹介されている。9個目は、
「9 フリーは別のものの価値を高める
潤沢さは新たな稀少さを生みだす。100年前には娯楽は稀少で、時間が潤沢だったが、今はその逆だ。あるモノやサービスが無料になると、価値はひとつ高次のレイヤーに移動する。そこに行こう。」
というわけで、とりあえず、これを読んでそこへ行こう。