Books-Economy: 2008年12月アーカイブ

・人は意外に合理的 新しい経済学で日常生活を読み解く
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経済合理性という視点から世の中の仕組みを鮮やかに解明した名著。「ヤバイ経済学」級のおもしろさ。いきなり「アメリカでは、オーラル・セックスをする未成年の割合が10年間で2倍に増えたのはなぜか」から始まってびっくりするが至って真面目な本である。

合理性は人類の行動のあらゆる場面を支配している。たとえば、きまぐれに思える男女の出会いも案外、合理的だ。お見合いパーティを統計的に分析すると男女のマッチングに法則が見出されるという。

「たとえば男性は太りすぎていない女性を好む。そうだとするとある夜のスピードデートに太りすぎの女性がいつもの数の二倍参加したら、その夜はデートを申し込む男性が少なくなるはずだ。ところがそうはいかない。男性陣がデートを申し込む割合はまったく変わらないのである。そのため、太りすぎの女性が二倍居ると、デートに誘われる太りすぎの女性も二倍になる。」

相手を選べるときは好みがよりうるさくなり、相手を選べないときはそれほどうるさくなくなるということ。デートの成立は市場の状況への反応で9割以上が決まっていると結論されている。とりあえずモテたいならばレベルが高くないパーティに参加すべきということか。

出会いと並んで身近なところでは喫煙者の行動なんていう話題もある。煙草の価格を大きく引き上げるとヘビーユーザーから完全にやめていく傾向があるらしい。逆に思えるわけだが、これにはこんな理由がある。

「中毒性の物質は、価格の変化に対する感応度が中毒性のない物質に比べて高くなることがあり、中毒者は、接種頻度の低い使用者、いわゆるライトユーザーよりも価格に注意を払うと考えられる。つまり、ライトユーザーは値上がりすると摂取を減らす傾向があるが、ヘビーユーザーは摂取を完全にやめる道を選ぶかもかもしれないということだ。」

合理性は全知と同じではないから、みんなが合理的に行動した結果、不都合が生じることも多い。たとえば犯罪や差別はそれを行った場合の利益が不利益を上回る場合は「合理的な犯罪者」、「合理的な人種差別者」によって引き起こされる。なぜ人種差別や経済格差はなくならないのか、その理由が人々の偏見以上に根深い合理的判断の積み重ねにこそあることを著者は指摘する。

人類が産業革命以降になって技術革新を幾何級数的な速度で実現することができた理由も人口と経済の関係で合理的な説明をしている。

「卓越したアイデアが毎年人口十億人当たり一つ生み出されると仮定すると、紀元前三十万年にはホモ・エレクタスの総人口は三十万人だったため、そうしたすばらしいアイデアは1000年ごとに生み出されていたことになる。産業革命が幕を開ける1800年には、世界には10億人の人口がいたため、イノベーションの発現率は上昇し、驚くほどすばらしいアイデアが毎年一つ生まれており、1930年には、世界を一変させるアイデアは六ヶ月ごとに生まれていたということだ。現在、地球上には六十億の人口がいるため、二ヶ月ごとにこの種のアイデアが生み出されているはずである。そうしたアイデアには、複式簿記から輪作まで、あらゆるものが含まれうる。」

人口が増えたとき、市場経済を発達させた国から産業革命は進展した。この革命は科学の天才が生み出したものではなく、人々が単純な経済のインセンティブに合理的な反応をした結果であったというわけだ。

著者は男女関係、ギャンブル、中毒、犯罪、差別、能力給とパフォーマンス、企業経営、選挙、人類100万年の進化など、あらゆる現象の背後に隠れている合理性を明解な証拠とともに発見していく。

・予想どおりに不合理
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/12/post-891.html
同じ時期に出版されたこの本と非常によく似ている。

・ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004611.html
この本に影響されていると思う。

・Tim Harford
http://timharford.com/
著者のサイト

・人はなぜ形のない物を買うのか 仮想世界のビジネスモデル
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最近のオンラインゲームはアイテム課金が増えている。アイテム課金制のゲームでは月額などの定額課金制と違って誰でも無料でゲームを始められる。だが本格的に楽しもうと思ったら、着飾るための衣服や仲間と連絡する道具などのアイテムを購入する必要がでてくる。この戦略が収益面で成功しているようだ。

この本によると日本のオンラインゲーム市場では定額課金制とアイテム課金制の平均単価は

     定額課金(平均)アイテム課金(平均)
2005年 1338円         4483円
2006年 866円          4385円

という状況であるという。アイテム課金の方が4倍も儲かるという結果になった。無料版と有料P版を分けるというのではなくてゲーム内のアイテムを有料化する。このアイデアはゲーム以外のWebサービスでも使えるアイデアかもしれない。

著者はオンラインゲームを中心に仮想世界における消費者行動を広く分析している。ゲームの娯楽性よりも、コミュニティがユーザーが長く遊ぶ動機になること、居場所の提供が大切な概念であることなど、現実のゲームユーザーの実態調査から次々に興味深い事実が明らかになる。

消費行動に関連して、仮想世界内での新しいオピニオンリーダー像についての考察が個人的には大変勉強になった。ちょっと長いが引用させてもらうと、

「オピニオンリーダーの特性については、Rogers(1962)が、次のような条件を挙げている。第一に、コミュニティ外部にある先端的な情報にアクセスできるだけの、能力・知識・地位をもっていることである。第二に、コミュニティ内部で、他のメンバーに新しい情報を伝えるだけの、社交性と社会的地位があることを挙げている。ここでいうコミュニティとは、職場や地域社会という現実世界での人間関係を想定している。 当時、新しい情報にアクセスできるのは教養や社会的地位のある人に限られていた。オピニオンリーダーは地域社会のリーダーと想定されていたのである。しかし、インターネットの登場で、誰もがクリック一つで世界中の情報にアクセスできるようになる。情報が希少な時代から情報が氾濫する時代へと、状況は大きく変わったのである。あうると希少な情報を持っているというオピニオンリーダーの条件がそぐわなくなっている。今日ではむしろ、膨大な情報の中から適切なものを選び、他人に説得するプレゼンテーション能力が重要なのではないかと思われる。例えば、人気ブログの魅力は、その人の視点で情報が整理され意味付けられストーリーとして語られることにあるのではないか。さらには、近年の情報ベースから活動ベースへのコミュニティの変化は、オピニオンリーダー像をさらに変容させている。情報発信型のリーダーから、「実際に客をひっぱってくる」という活動面でリーダーシップを発揮するユーザーが登場する。」

ネットでは全人格的なリーダーシップではなく、プレゼンのうまさ、視点の斬新さ、客引きのうまさなど、分業化階層化された、複数の特殊なリーダーシップによって仮想世界コミュニティの社会や経済は動いていくようである。

仮想世界コミュニティの実態に深く分け入った秀逸な研究書だった。ネットビジネス全般のビジネスモデル考察の参考にもなる。

・予想どおりに不合理
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面白い。

人間は伝統的な経済学の理論ほど合理的な決断をしていない。だがその不合理な行動は十分に系統だって予想可能なものである。それが「予想どおりに不合理」というタイトルの意味である。消費者行動を操る心理学。

値の張るアントレをメニューに載せると、それを注文する人がいなくても、レストラン全体の収入が増える。5000円と3000円のコースが2つだけしかなければ安い3000円が売れるが、8000円のコースを加えると5000円を選ぶ人が増えるからである。メニューの作り方だけで消費者行動を操る実例がいくつも示されている。

たとえば25ドルのペンを買うときには7ドル安い店が近くにあれば移動してそちらで買う。しかし2000ドルのスーツを買うときには1993ドルの店が近くにあっても、今いる店で買うだろう。大きな買い物をするときは端数部分の金額の大きさが気にならなくなってしまう。

社会規範と市場規範という話も興味深い。弁護士の集団に1時間あたり30ドルで困窮している退職者の相談に乗る仕事をお願いするとほとんどの弁護士に断られた。しかし無報酬ならば話に乗る弁護士が多数現れたという。彼らの通常の報酬はかなり高いので市場規範で見れば30ドルでは安すぎる。だが、困っている人を助けるという社会規範で訴えかけられれば、タダでも動くのだ。

価格が支払った金額が高い薬ほどよく効くという実験も人間の身体に経済心理学が組み込まれていることの証で興味深い話だ。これからは風邪薬や目薬を買うときは一番高いのを買うことにしよう。

他にも、無料は単なる値引き以上の効果があること、性的興奮時は選択オプションに大胆になる、所有意識(所有者の売り手は買い手よりも高く評価してしまう)も価値であること、現金の代わりにもの(引き換え券など)を報酬にした実験は不正が多くなることなど、セールスや経営を考える人に参考になる話題が満載。

・「信用偏差値」―あなたを格付けする
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大変面白かったです。

今年後半でよく使うようになった電子マネーのnanaco。自宅と会社近所のセブンイレブンでほぼ毎日使う。いま確認してみたらポイントが(利用料金の約1%与えられる)が900円を超えている。いつのまにか10万円近く使っていることに気がついた。これにSUICA、家電量販店等のポイントを加えると年間に数十万円も、私はいわゆる電子マネーを利用しているのだった。

この本によるとクレジットカードショッピング取扱高は毎年10%程度の割合で伸びている。2006年時点での総額が34兆円。発行枚数は2.9億枚で国民一人当たり二枚以上は持っている。これに対して電子マネーは2007年度に8444億円、2008年度に1兆3783億円、2012年には3兆2695億円に拡大すると見込まれている。クレジットカードと比較すると規模はまだ小さいがクレジットカードは月2.5件、電子マネーは月10件で4倍も使われている。日常生活に密着する点では電子マネーが強い。ここ数年、日銀券発行が減少に向かっている理由が電子マネーの普及でもあるらしい。メジャーだけでも10種類ある電子マネーの特徴や普及の状況、マイルのバブル崩壊の解説なども詳しい。

クレジットカードと電子マネーが融合していく傾向もあるのだが、統合が進むと、あらゆる決済が信用情報機関に集積されていくと怖ろしい面もある。日本でも米国と同様にこれまで別々だった銀行や保険やノンバンク、クレジットなどの信用情報を統合する方向に金融業界は動いている。この本の主題はその個人の信用格付け(クレジットスコア)が日本経済や社会にどのような影響を与えるかの未来予想である。

米国の個人のクレジットスコア評価基準というのが公開されている。

1 返済履歴(35%)
2 与信総額に対する利用総額の比率(30%)
3 クレジット履歴(期間)の長さ(15%)
4 ローン利用の実態(10%)
5 新しいクレジットカードを作ったか(新しい取引を始めたか)(10%)

年収や勤続年数、持ち家を高く評価する日本とかなりこの評価基準は異なる。

「日本では、五百万円借りている人と一千万円借りている人を比べると一千万円借りている人の方がリスクが高いとみなされ、警戒される。ところが、米国では一千万円、二千万円借り入れていても、その人が返済しているのなら、信用があると、前向きに判断される。返済ができているのは、それだけ収入があるからだと、考えているためだ。」

米国では、このスコアが住宅ローンや車のローン、転職などの人生のあらゆる局面で照会される。そして支払うべき金利や受けられるサービスが決定されてしまう。スコアが高い人はよいサービスを安く受けられるが、米国ではスコアの悪い人は良い人に比べて生涯で3000万円も多く支払わなければならないという。

「米国では、クレジットスコアを導入したことで、結果的に、サブプライムローンを発生させ、世界強行突入の元凶となった。さらに、この偏差値が一人歩きを始めており、金利だけでなく就職から転居、携帯電話加入まで、ことごとく格差を拡大する方向に働いている。富裕な人は金融から就職まで高いクレジットスコアの裏打ちがあって、プラスに働いてくれるが、信用力の低いサブプライムな人たちは、家を失ったり、就職試験に落ちたり、様々な不便を被っているのだ。」

信用情報機関は日本では銀行など金融業者のために設立されたが、米国では名簿業者から始まったため、マーケティングへの反映に制限が少なかったようだ。そして日本でも、万人に対する一定の金利の時代から、個人のスコアに応じた金利の時代への以降が今まさに始まっているという。

じゃあ、そういう時代にどうすれば賢いのか?という疑問へのアドバイスが明示されていて参考になった。ライフスタイルに応じた持つべきクレジットカード2種類のリコメンドや、スコアを高めるために注意するポイントなども詳しい。

電子マネーとクレジットカードに現状について裏も表もよくわかる良い本だと思う。非常に知識が増えた、勉強になった。