Books-Economy: 2007年6月アーカイブ
とにかく面白い視点が満載でいっきに読めた。
経済学を使って、世の中の仕組みをひもとく。副題の「お金がない人を助けるには」だけではなくさまざまな話題がある。
・16歳の時の身長が現在の賃金に影響している「身長プレミアム」の理由
・重役の美男美女度が高いほど企業の業績がよいのはなぜか
・「イイ男は結婚している」のか、「結婚してイイ男になる」のか
・プロスポーツチームは強ければ強いほど儲かるのか?
・野球の勝敗における監督の力ってどれほどあるのか?
などなど。
気になる俗説の真偽究明や、意外な事実の深追いという導入が多いので、興味を持って読みやすい。そして、ちゃんと最後は経済学的な説明をつけて読者を納得させる。
年功賃金と成果主義について真正面から考える部分が特に個人的には勉強になった。「年功賃金はなぜ存在するのか」について、著者は4つの仮説があるという。
1 人的資本理論
「勤続年数とともに技能が上がっていくため、それに応じて賃金もあがっていく」
2 インセンティブ理論
「若い時は生産性以下、年をとると生産性以上の賃金制度のもとで、労働者がまじめに働かなかった場合には解雇するという仕組みにして、労働者の規律を高める」
3 適職探し理論
「企業のなかで従業員は、自分の生産性を発揮できるような職を見つけていくのであり、その過程で生産性が上がっていく」
4 生計費理論
「生活費が年とともに上がっていくので、それに応じて賃金を支払う」
5 習慣形成理論
「人々は賃金の増加を喜ぶ」「生活習慣に慣れてしまって、その後生活水準を下げることがつらいことを知っているから、生活水準を徐々に上げていくことを選んでいる」
この年功賃金は実は世界共通の傾向でもあり、日本企業だけの制度ではない。労働者にアンケートを取ってみると、賃金がだんだん上がっていく年功賃金が好まれたという報告もある。総合的に考えると多くの職場で年功型賃金が与える満足度はとても大きなもので、年功賃金を単純に廃止すれば労働意欲を大きく損ねることになるという分析があった。
これに対して、成果主義が機能するケースとして、
1 どのような仕事のやり方をすれば成果があがるかについて企業がよくわからない場合2 従業員の仕事ぶりを評価することが難しいが成果の評価が正確にできる場合
の2つがあげられている。成果主義を見直す良い材料になるパート。
この本の面白さは「ヤバい経済学」に似ている。経済学だが、需要と供給の話はほとんどでてこなくて、インセンティブや人々の生活思考を研究の対象にしている。新書だが単行本なみに内容が詰まっている。
・ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004611.html