Books-Economy: 2006年7月アーカイブ

・プロファイリング・ビジネス~米国「諜報産業」の最強戦略
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とても興味深い現実が書かれている。

9.11同時多発テロ以降の米国で、急成長している民間の「諜報」産業の実態に肉薄したレポート。主役はこんな企業たちである。企業ごとにひとつの章で語られており、新しいがグレーゾーンのニーズに目を付けた経営者のベンチャー物語としても面白く読める。

・Acxiom Corporation
http://www.acxiom.com/

・ChoicePoint
http://www.choicepoint.net/

・LexisNexis
http://www.lexisnexis.com/

・Seisint, Inc.
http://www2.seisint.com/

・Identix
http://www.visionics.com/

アクシオム、チョイスポイントなどの企業は、全米の2億人の個人情報をあらゆる手段で収集している。その巨大データベースを使えば、電話番号などの個人情報の一片を検索キーに、その人物の住所、氏名、年齢はおろか、家族構成、裁判記録、犯罪歴、クレジットカードの利用履歴、保有する車、最近の顔写真にいたるまで、あらゆる情報を引き出せるという。米国の政府や警察組織が大口の顧客リストに並ぶ。テロリストや凶悪犯の割り出しに、威力を発揮している。

強力な個人情報検索システムは、テロ対策の強力な武器になる一方で、個人のプライバシーを蝕む危険な存在でもある。間違った情報がプロフィールに登録され、飛行場などの個人情報照会の場で「テロリスト」「重大な犯罪者」扱いされてしまう事例が続出しているそうだ。一度、登録されると本人でも、容易には情報の変更ができない。政府や警察に濫用されれば、監視社会の道まっしぐらである。

指紋、顔、声紋、DNAなどの生体認証のデータやネット利用履歴と統合されることで、近年、ますますデータの集積規模の拡大と精度の向上が進んでいる。産業と社会のデジタル化、ネット化が進めば、個人情報のデータベース化は避けられそうにない。制度的な規制はもちろん重要だが、民間企業を完全に縛ることは難しいだろう。一般のISPや大手ECサイトにだって、誰が何を見たか、何を買ったかなどのログが残ってしまうのだから。

技術に対しては技術で戦うという道もあるのかもしれない。たとえば匿名認証の技術はもっと使われてもよさそうに思う。サービス利用資格を持つことは確認しつつ、誰なのかは特定できない暗号認証の仕組み。もちろんこれに加えて通信経路の暗号化も行う必要はあるだろうが、必要のない個人情報は集めないシステムは企業サイドにとっても使いたいケースが多いはず。

・Sensu Project
http://aatoken.aitea.net/
匿名認証技術の研究事例。

この本を読んで、セキュリティとプライバシーに対する企業や政府の取り組みと監視社会化が米国では日本の何倍も進んでいそうな現実に驚いた。うかうかクレジットカードも使えないのだなあと思った。

・ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
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若きエリート経済学教授と気鋭のジャーナリストが書いた全米100万部のベストセラー。
米国で「2005年度に最もブログで取り上げられた本」に選ばれた。オモシロ論点満載。

「もしあなたが銃を持っていて、裏庭にはプールがあるとする。プールがあるせいで子供が死ぬ可能性は銃のおよそ100倍である。」

これはニューヨークタイムズに著者の一人スティーブン・D・レヴィットが書いたコラムの一節。彼は、普通は関係がなさそうな二つの事象に相関と因果を発見する天才である。そして、その結論が「世間的によろしくない」=「ヤバい」ほど、嬉々として語るのが好きなのだ。だから大論争を巻き起こす。

たとえば90年代のアメリカで犯罪発生率が急激に下がったのはなぜか?。一般的には警察官の増員や治安政策の成功が理由だとされている。そこへ著者は実はそんなことは関係がなくて、70年代以降に、女性の中絶が合法化され、とても増えたからだと結論する。不遇な生い立ちの人が減ったから、犯罪率が減ったという事実を、まず従来の定説をデータで否定した上で、説得力のある証明をしてみせる。

中絶を増やせば犯罪発生率が減るという結論は、中絶反対論者からは当然、悪魔のように言われて攻撃される。しかし、その説明ロジックは正しそうに思えるから論争は果てしなく続く。

この本で扱われるテーマは、以下のような話題。

・日本の大相撲、7勝7敗の力士の8戦目の、異常に高い勝率の、本当の理由は?
・ヤクの売人がママと住んでいるのはなぜ?
・不動産広告の「環境良好」は周りの家はいい物件だがこの物件はイマイチという意味
・子供を有名大学に進ませる方法は?
・子供の名前でわかってしまう、親の教育水準が高さ、低さ

これらを経済学的な観点から統計分析し、ヤバい結論を導き出す。面白いのはどの論点も背景に、偏見や差別、貧富の差、人間の欲望の渦巻きなど社会学的要素があり、ポリティカリーインコレクトな要素が満載であること。そして、おもしろいだけの三面記事とは違って、著者の鋭い因果関係の分析が用意されていること。

データの相関だけだと「へー、そうかな」と思うだけだが、この著者らのように、さらに因果関係を、世の中の仕組み、人々の物語として語ってくれると「なるほどその通りだ」と思う。

経済学は、抽象化度の強い学問のように思えるが、スティーブン・D・レヴィットは人々の日常を具体的に説明するために、その優れた頭脳を使っている。もう一人の著者でジャーナリストのスティーブン・J・ダフナーは、その分析内容を一般読者向けに分かりやすく書き直している。経済社会学あるいは経済社会学の傑作。