Books-Economy: 2005年11月アーカイブ
起業が失敗した成れの果てを起業地獄と著者は名づけた。
「
ある会社は、会社をたたんで自己破産、夜逃げ、一家離散と奈落の底に転がり堕ちる。ある人間はタガが外れて銀行強盗、コンビニ強盗、放火、殺人、幼児誘拐に突っ走る。また、ある人間は、すべての負債を一身に背負い自殺に追い込まれ無残な最期を遂げる。父親の借金のカタに、風俗に堕ちる娘だって少なからずいる。
」
地獄を見た体験者の実例が多数、取材されて収録されている。著者自身が倒産の修羅場をくぐった実践者でもある。
・起業バカ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003465.html
のパート2。
続編の方が面白くなっていると珍しい例だと思う。
紹介される実例の中で一番魅力的だったのが、1980年代にウィークリーマンションで大富豪となるも、バブル崩壊時に1000億円の負債を負い、しかし、諦めずに新事業で復活を果たした川又三智彦社長の章。
・川又三智彦公式ホームページ
http://www.222.co.jp/president/
このホームページは面白い。
1000億円の負債の話は、
・毎日連載!1000億円失って:バックナンバー
http://www.222.co.jp/president/daily/
で詳細が読める。
「社長になっちゃいけないヤツがなったから失敗する」というのが川又社長の結論で、とにかく、気が遠くなるほど諦めない人間以外は社長は向いていないということになる。
ところで前作で起業詐欺の例としてナマナマしい実態が書かれていて面白かったのだが、案の定、著者は、書いた先から訴訟を起こされているらしい。今回もそれ書いちゃって大丈夫ですか?と心配になる体験談がいくつか書かれている。
ブームに乗った安易な起業に、強烈な警鐘を鳴らす本であるが、起業家にとっての試金石みたいな本であるとも思う。この本の裏テーマが、実は起業のススメであることは間違いないようにも感じる。
とりあえず、この本を読んで少しでも怖いと感じた人は起業は諦めた方が賢明だろう。そもそもこの本を読むような人間は起業に向いていないからやめておきなさいと書いてあったりもする。やる人は読む前にやってしまっているはずだからという。こういう警告の本はもっとあってもいいと思った。
・逆風野郎 ダイソン成功物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003886.html
・成功前夜 21の起業ストーリー
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003020.html
・ 起業人 成功するには理由がある
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000712.html
・図解 株式市場とM&A
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003975.html
『イノベーションのジレンマ』『イノベーションへの解』に続く破壊的イノベーション論の集大成。「ハイテクのマーケティングを理論的にやりましょう」という内容で、情報通信業界では教科書の如く引用されるようになった。ケース満載。
マーケットリーダー企業は、要求の厳しい顧客の声に耳を傾けて、自社の製品・サービスを進化させる。その「生き残りのイノベーション」企業は、より利益率の高い金持ちマーケットに積極的に進出していく。一方で、新興企業は彼らが狙わないローエンドで新たなマーケットの創出を狙う。その武器が破壊的なイノベーションである。
・イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002943.html
詳しくは前作の書評を参照。
破壊的なイノベーションは、
・非消費に挑み全く新しいマーケットの確立を目指す
・ローエンドにおける攻撃(非金持ちマーケット)
という特徴を持つ。
本作でも、破壊的イノベーションに関わるたくさんの企業ケースが丁寧に解説されている。そこから抽出された、以下のような教訓が掲げられている。
1 破壊はあるプロセスであって、結果ではない
2 破壊は相対的な現象だ。ある企業にとっては破壊的なことが、他の企業にとっては生き残りに役立つということもあるだろう。
3 今までとは違っているテクノロジー、あるいは過激なテクノロジーが、そのまま破壊的だということはない
4 破壊のイノベーションがハイテクのマーケットに限定されているわけではない。破壊はどんな製品やサービスのマーケットでも起こりえるし、国家経済間の競争を説明するのにも役立つはずだ。
破壊的イノベーションが市場を席巻するまでには
1 変化のシグナル
2 競争のための戦い
3 戦略的な判断
という3つのプロセスがある。
大企業のマネージャーにとっては、ベンチャー企業の話題の新製品をまめにチェックし、自社の品質基準で比較したときに見くびらないこと、それが異なる評価軸で新しい顧客を開拓しているかもしれないと疑ってみること、が大切な心構えになる。ベンチャー企業にとっては、大企業同士がハイエンド向けの開発中心の生き残りフェイズに入った市場を発見したら、ローエンド対象に、まったく違う需要を満たす低価格帯製品の開発にアイデアを絞っていけということになる。
時代は動いている。常に眼を光らせて、破壊的イノベーションで勝利する側にまわれ、そのためには、この本を読んで理論を勉強せよ、という本である。一冊目から順に読んだほうがわかりやすいのだが、これは集大成本なので、巻末の資料も読めば、この本一冊でも著者の理論の全体像を理解できるようにまとめられている。
縁があって、著者の保田さんと私は毎週顔を合わせて一緒に仕事をしている関係なのだが、この本を偶然みつけて読み終わるまで、実のところ、よく知らなかった。読み終わって一気に尊敬モードに以降。来週の会議からは先生と呼ばせていただきます。いや本当に。
・ちょーちょーちょーいい感じ
http://chou.seesaa.net/
保田さんのブログも発見。最新の株式市場に対する解説記事が参考になる。
身内だからほめているので決してなくて、アマゾンで第三者がたくさん絶賛してもいます。「株式・社債の部」1位にもなったそうです。投資銀行時代の経験と自身の起業体験を活かして、株式市場とM&Aについてやさしく書かれています。
私も学生時代に起業してから10社ほどのベンチャー企業の創業や役員就任を経験しています。株価、株主、出資、議決権、増資、ストックオプション、M&A、配当、デューデリジェンス、上場(これはやったことないけど)は、一通り経験したり、身近でみてきました。この本のキーワードで知らなかった単語はありません。
しかし、この本のおかげで、知っていること同士の関係が、1段階上のレベルでわかった気がしました。創業者の視点で体験する順序で、各キーワードの意味が説明されているのが、わかりやすさの秘密でしょう。
内容は、一人の若者が友人らの出資を受けてカフェを創業し、複数店舗展開した末、株式を公開、他のカフェの買収や、逆に敵対的買収(TOB)を仕掛けられるまでになるという、青春熱血起業物語です。小説形式なのが教科書と違います。
ドラマとしても演出が効いていて、最後のエピソードでは本当に目頭が熱くなりました。ベンチャーに対する見方が、投資銀行業務出身なのに、暖かでさわやかです。カネのためだけではなくて、自分の夢、みんなの夢のために会社を作る、育てることの楽しさと苦労がよく伝わってきます。
もちろん、実際の起業では、こんなにキレイに物事が進んだり、判断要素がクリアなことはないのですが、経営の基本知識の適切な要約になっています。突っ込んだ細かい事柄はばっさり省略されていますが、社長自身が知っておくべき事柄はこれで十分だと思いました。細かいことは、現場で著者のような専門家に聞けば良いわけですからね。
この本、著者は身内ですが、内緒で自腹で買いました。その価値がある本だと思いました。起業を考えている人、創業以来突っ走ってきたけれどもここらへんで知識を整理したい現役経営者にうってつけの良書。
大型店とまちづくりの日米比較。
1990年に大型店は全国に2358店舗あり、2003年には4111店舗に増えた。この間に店舗数は1.7倍に拡大した計算になる。特徴としては大型スーパーが増えており、逆に百貨店はやや減っている。そして大型店は増えたにもかかわらず、その全体の売上高は1997年から2003年の期間で7%以上も減っている。店舗が増えたのに全体の売り上げが減っているのだから、一店舗あたりで計算すると27%の売り上げ減という深刻な状況にある。
小売の全国の売り場面積に占める大型店の面積比率は2002年に44%。売上高比率では32.4%に達するという。地域社会の生活や経済に多大な影響力を持っている。特に最近の出店は郊外、ロードサイドに集中している。
大型店は売り上げが落ちた店舗は即刻閉店し、閉店数を上回る数の新規出店を続けることで収益を確保しようとする(スクラップアンドビルド)。大型店が郊外、ロードサイドに開店すれば地方都市の中心市街地の商店街は客を奪われ大打撃を受ける。
地方都市郊外や周縁部、そして中心地でも大型店が閉店したまま建物が放置されている「グレーフィールド」が増えている。私も関東と関西でいくつか事例を知っている。建物を壊した空き地のままの数も入れると閉店店舗例の40%を超えるらしい。
売り上げが落ちると閉店し、別の場所へ出店する大型店の「焼畑商業」が街のイメージダウンや失業者の増加、治安の悪化、経済の落ち込みの大きな原因になっている。スプロール開発(低密度土地利用による土地浪費型、かつクルマ依存の郊外開発)も、地域社会にとってマイナスになる。
大型店を誘致する地方自治体には「雇用機会の増加」「買い物機会の拡大」「市税の増収」の3つの期待があるとされる。しかし、実際には郊外出店により中心地の商業の壊滅による地価の下落、固定資産税の減収につながってしまう例が続出。閉店によって失業者増加、利益は域外の本部に吸い上げられ地元経済には落ちないなどの見込み違いが起きる。
米国のシンクタンク、シビックエコノミクスの調査によれば、域外商店に比べて地元商店のほうがはるかに地域経済に貢献することがあきらかにされている。試算では地元商店で1ドルの消費があると、平均73セントの地域経済効果がある。これに対して域外商店で消費があっても平均43セントの効果しか得られない。
そこで米国では「小さな町」コンパクトシティの計画が積極的に各地で展開され、一定の成功をおさめはじめている。米国の多くの街はロードサイドに同じような大型店舗が並び、均質的な街並みが多いが、さすがにそれでは
米国の地域自立研究所による「我々の小売店」論は、大型店に変わる3つのモデルを提唱している。
・食料品を中心にした消費者共同組合
・地元起業家によるコミュニティ・ビジネス
・州民を対象に株を発行し、プロが経営する店舗
そして、ウォルマートのような低所得者層、失業者、年金暮らしの高齢者の多い地域に大型店を出店し、低賃金で住民を雇用することで、低所得のままにしておき、納入先にも無理な低コストを要求するひどい仕組み「毛沢東理論のウォルマート版」だと強く批判したジャーナリストもいる。
この本の最後では、日本における大型店の規制条例の制定や、街づくりをみなおして地域の活性化で成功し始めた自治体の事例がいくつも紹介されている。経済的費用だけではなく、社会的費用まで考えると、トータルでは大型店よりも、地元商店を活性化させたほうが住民にとって恩恵が大きいということを考えさせられる本であった。
理屈ではわかるのだが、地方都市に住んでいる一消費者としては、地元商店街を応援したい気持ちもありつつ、魅力的な店舗が少ない現実があるなと思う。イトーヨーカドー、ダイエー、トイザラス、郊外のショッピングモールなどは、品揃えや集積メリットなどを総合すると便利であり、やはり足がそちらへ向いてしまう。
昨年、気になった地元の活性化企画にこんなビジネス発想コンテストがあった。藤沢市は全国的に見れば悪くない方だと思われるが、「商店街にある休眠中の店を、斬新な発想と感性で再生させる新ショップ開発の部」という項目があり、グレーフィールド問題は身近でも問題であるようだ。
・湘南藤沢商店街活性化・アイディア大募集!ビジネスコンテスト 結果発表!!
http://www.cityfujisawa.ne.jp/~shouren/busicon/
実は私も一夜で書いたおもいつきを応募していたのだが入選はならずであった。結果発表を見ると、古着のリメイクショップが入選。私の案はちょっとひねりすぎていたらしい。今年もあったらわかりやすいアイデアでまたチャレンジする予定。
こうした発想の取り組みの中からこの本にでてきた「我々の小売店」の魅力の具体例が示されれば、大型店とまちづくり問題の解決につながっていくのかもしれない。