Books-Economy: 2003年10月アーカイブ

・ザ・プロフィット 利益はどのようにして生まれるのか
4478374228.09.MZZZZZZZ.jpg

私はビジネスで黄色いリーガルパッドを好んでよく使う。会議では人が話すことや自分の次に話すことをメモしたりする。いろいろ試したが、ケンブリッジのレポート用紙タイプが好きだ。色合いと紙質がいい。

・ケンブリッジリーガルパッド
70シート・カナリーシート
ミシン目付・レポート用紙タイプ
http://www.maruzen.co.jp/home/bungu/mead_e/mead_e.html

そもそも、リーガルパッドを使うようになったのはこの本がきっかけだった。

これは企業活動にとって最も重要な利益についての本だ。

ベストセラービジネス小説。場所はマンハッタンのダウンタウン。大企業デルモアで働く若者スティーブが毎週土曜日、ビジネスの賢者チャオに企業の利益について教えを請う。繰り返される問答の中、現代のビジネスを網羅する23の利益モデルが語られていく。ひとつひとつの利益モデルをチャオは、リーガルパッドに図として書きなぐって、スティーブに渡す。

ITビジネスの利益モデルも含まれる。例えば、「デファクトスタンダード利益モデル」。かつてのミニコンのように互換性と標準のない世界ではユーザは高いコストを支払わざるを得ない。これはインストールベース利益モデルの世界。ベンダーは自社固有のシステムで顧客を縛り、しばらく利益を挙げる。ユーザは支払う高いコストだけでなく、次のモデルはどうなるの?とイライラを募らせる。実は高いコストではなく、このイライラによって、このモデルは破綻するもしれない。ユーザはこうした状況では、業界標準モデルを欲するようになる。こうしてデファクトスタンダードが登場する。

デファクトスタンダードを確立した上で、マイクロソフトならウィンドウズ3.1、95、98、2000、ME、XP、データベースのオラクルなら5.0、6.0、7.0、7.1、7.2、7.3と、バージョンアップを続けていくことで、これらの会社が莫大な利益を確保できる理由をチャオはスティーブに問う。

答えは、予測可能性、アップグレード、アプリケーション、マーケティングコストの大幅削減
事実上の標準の上でならばベンダーもユーザも未来を予想しやすくなり、予期しない出来事に対応するコストを軽減できる。ベンダーは、アップグレードにより定期的で予想可能な利益を継続して確保し、さらには標準上で動くアプリケーションを販売してさらに利益をあげる。ほおっておいても顧客がマーケティングを肩代わりしてくれるので、販売及びマーケティングコストを大幅に圧縮する。

こういった利益モデルに関する、質問と回答が23回繰り返される。チャオの質問のくだりで、毎回しばし読むのをやめて、スティーブになった気持ちで回答を考えてみると、この本は2倍楽しめる。こうすると、チャオの答えの深さ、教育的配慮、優しさが見えて、こんなビジネスの師から23枚のリーガルパッドを手渡してもらえたらなあ、と思った。

考えながら読める工夫が秀逸。著者は「デジタルビジネスデザイン戦略」を書いたエイドリアン・スライウォッキー。20代後半から30台前半くらいのビジネスマンなら特に必読と思った。利益モデルごとに章が分かれた、小説だから、忙しいビジネスマンでも読みやすい。

評価:★★★☆☆

・デジタル・ビジネスデザイン戦略―最強の「バリュー・プロポジション」実現のために
4478373728.09.MZZZZZZZ.jpg

ITを導入して画期的に変わる企業、変わらない企業、その違いはどこにあるのかを、デジタルビジネスデザイン戦略(DBD)により成功している企業事例をベースに研究した本。デジタルイノベーターとしてケース分析されるのは、デルコンピュータ、セメックス、チャールズシュワブ、シスコシステムズ、DBDを推進する巨大企業としてGEとIBM。

デジタルビジネスデザインのマトリクス

A ドットコム企業(高いデジタル化、劣ったビジネスデザイン)
B ビジネスデザインの貧弱な企業(低いデジタル化、劣ったビジネスデザイン)
C デジタルビジネスデザイン企業(高いデジタル化、優れたビジネスデザイン)
D ビジネスデザインのリインベンター企業(低いデジタル化、優れたビジネスデザイン)

著者によると、いかなる組織も上記のマトリクスのどこかに位置づけられる。大半の企業がBに分類されるが、現代の華々しい実績を誇るごく少数の企業はCのDBD企業のエリアにある。

成功したDBD企業は、デジタル化したビジネスによって、効率を上げ、顧客にユニークな価値の提案(バリュープロポジション)を達成しているのだという。

たとえば、今では当たり前になってきたが、デルが最初に顧客に提供した、PCのカスタムオーダーWebサイトが事例として挙げられる。この「チョイスボード」システムは顧客に便利を与えただけではない。デルはこの仕組みによって、リアルタイムに販売や流通の状況と、顧客の求める商品機能が分かる。在庫を余分に持たず、既知のデータに基づく正確な予想で生産を最適化し、吸い上げたニーズを短期間に商品開発に活かせるようになった。従来のリテール方式では、販売後何ヶ月もまたなければ販売数や顧客の声が分からなかったのに。チョイスボードはデルのビジネスデザインの根本的な仕組みとなった。

DBD戦略企業は単にPCやネットワークやデータベースを導入しただけの企業とは違うのだ。チョイスボードに続いて幾つもの、デジタルビジネスデザインのキーコンセプトが紹介されていく。後半のGEやIBMでは巨大企業が、改革の痛みを乗り越え、この組織の根本的なビジネスのデジタル化をどう推進しているかが語られる。

著者はDBD企業の特徴をFAME=迅速(FAST)、正確(ACCURATE)、可変(MORPHABLE)、外的(EXTERNAL)な、4つの性質を帯びていることと結論している。これを実現するには一社だけでなく、サプライチェーン全体がデジタル化を危機的な命題として取り組む必要がある。

当たり前だが、本業が冴えないからWebで販売を始めてみようか、ERPを導入してみようか、といった小手先のIT導入では成果は期待できない。そういう話を、実例ベースの、強い説得力で整理してくれる名著である。

評価:★★★☆☆