Books-Culture: 2013年8月アーカイブ
「「日本人の一般的な感性として、亡くなった人をムチ打つようなことは、言ってはいけないのかもしれません。でも、そのときばかりは、激しい怒りがこみ上げ、「あなたが私を排除したのは、こんなことが目的だったのですか」と、叔父の霊に問うてみたいと、切実に思いました。」」
円谷プロ創業者の円谷英二の孫で、6代目社長をつとめた円谷英明氏の悔恨の書。なぜ創業者一族は追放されたのか。キャラクターブームの終焉や著作権をめぐる訴訟もあったが、度重なるお家騒動が大きな原因であり、かなり赤裸々に内情が暴露されている部分もある。著者はワンマン経営の失敗と言っているが、同族経営の失敗の典型的な事例集になっている。
「我々円谷一族の末裔は、祖父が作った円谷プロの経営を全うすることができませんでした。現存する円谷プロとは、役員はおろか、資本(株式)も含め、いっさいの関わりを断たれています。 これから約半世紀にわたる円谷プロの歩み、真実の歴史を明かそうと思います。その中には、今もウルトラマンを愛してくださる皆さんにとって、あまり知りたくないエピソードも含まれているかもしれません。」
円谷プロにはビジョナリーもマネジメントもいなかった。東宝に実質支配されていた間はマネジメント部分はまだましだったが、創業家が株式を買い戻してからはやりたい放題ができるようになり、かなり怪しい経営内容だったらしい。何度も倒産の危機が来るが、腐っても鯛なウルトラマンの権利に救われて円谷プロは21世紀まで生き延びてきたことがわかる。
現在の円谷プロは玩具産業(バンダイ)とパチンコ産業(フィールズ)に買収されており、創業家は追放されている。これを読む限りでは、追い出されるのも当然というか、新経営陣の賢明な判断だったように思われる。元社長の著者は今は会社を離れて「ブライダル会社の衣装を運ぶ仕事」に就いているという。
適切に管理しないとキャラクタービジネスは価値が損なわれてしまうものなのだなあと思うと同時に、ここまでボロボロでありながらも、みんなに愛されているウルトラマンってのは偉大なヒーローだと妙なところに感心する一冊。