Books-Culture: 2012年12月アーカイブ

・芸術新潮 2012年 11月号
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芸術新潮という雑誌は特集テーマによって年に2,3回買うのだが、今年はやはりこの25年ぶりという縄文特集号が最高だった。土器、土偶の美しい写真でいっぱいの「縄文の歩き方」。

解説の小林達雄教授の解説がむちゃくちゃ面白い。どこまで史料的根拠があるのかよくわからないところもあるが、なぜ土偶はこんなへんな形に進化していったのか、とか縄文人の日常生活はこうだったとか、きわめてわかりやすい説明をする。

たとえば縄文時代は男はダラダラ、女はテキパキと暮らしていたのだという。男たちは狩りに出ても今日はどうする?とか話しているうちに日が暮れて「今日はもうダメだね」でだいたい帰ってきてしまう。女たちはテキパキ働いて植物性食糧を集めて食事を作っていたはずだと教授は言う。

「それでも肉を食べたいという圧力が強くなってくると、ちゃんと男も狩りに出かけます。狩りは危険も伴いますから、狩猟を担当する男というのは普段それなりに遊ばせてもらえるわけです。狩りがいつも成功するとは限らないが、獲物を獲り尽くさないで持続可能な狩りを続けていけるという利点となる。要はサボっているんだけど(笑)、それが上手い具合に全体のバランスを調整します。 いずれにせよ、しゃかりきに働きすぎることなく、冬場の何もしない余暇の存在が、縄文人の文化力を底上げしたのだと思います。」

頑張りすぎずテキトーに生きていると、環境と調和してよい感じになるよいう説。また土偶がなぜあんなヘンな顔になったかについては、初期は目には見えないナニモノカの気配を表現していただけのものだったが、顔をつけてしまったために人型に進化していったが、飽くまでもこれは人ではないので、人とは違うヘンな顔で進化していったという説。どちらも本当なのか?と思うが説得力のある文章。

MIHO MUSEUMの館長が「これこそ生の芸術。生命の力をひしひしと感じます。今の若い人が土偶に興味を持つのは、自分の中に絶滅危惧みたいなものあって、こういう血の騒ぐような力づよさを輸血しなきゃ、人間として危ないという飢餓感を覚えているからではないでしょうか」といっているが、ハイテクやデジタルなガジェットとは対極の存在感があっていい。

・サンダカン八番娼館
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有名な作品だがKindle版がでていたのを機に読んだ。1973年、大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。元モデルだったが暴漢に顔を切られてライターになったという過去を持つ子育て中のライターが、底辺女性史を書きたいと思って選んだテーマが"からゆきさん"。

戦前の日本では貧しい農家の娘たちが、東南アジアに売春婦として出稼ぎにいった。元"からゆきさん"を探し出し、女性ライターが単独で密着取材したドキュメンタリ。1970年頃の話なので、戦前のからゆきさんもすでに老婆であり過去のことは隠してひっそりと暮らしている。真正面からからゆきさんを取材したいといっても断られてしまう九州天草の土地で、偶然出会った老婆がそうなのではないかとあたりをつけた著者は、家に押しかけて共同生活を始めてしまう。

居候させてもらう老婆おサキさんに対して、著者は自分がライターでからゆきさん問題を取材しているとは明かさない。だが水道もトイレもない極貧の家に孤独に暮らすおサキさんは、人懐こく近づいてくる著者のことを、優しく受け入れ訪問の理由を一切問わない。近所には怪しまれないよう息子の嫁が泊まりに来ていると説明してくれる。

著者は毎晩のようにおサキさんからサンダカンの娼館で身を売っていた時代の話を聞き出そうとする。そして聞いたすべてを記憶して翌日、おサキさんが見ていないところで、便箋に内容を書き、自宅へ郵便で投函する。何もない部屋で取材ノートがみつかってしまうとまずいからだ。つねにある種の罪悪感と緊張感を保ち続ける。

こうして意図を隠して潜入取材して聞き取ったじゃぱゆきさんの波乱万丈の物語はそれ自体がとてもドラマチックで面白く、昭和史、女性史にとっても貴重な情報であるが、それ以上にこの本が面白いのは、騙して取材を続ける著者と、騙されながら話し続ける老婆の交流だ。いわば偽物の関係で始まるが、やがて二人の関係は、真摯に向き合うことで、本物になっていく。そのプロセスこそ感動的だ。

戦前の女性底辺史とその取材プロセス。ふたつのドキュメンタリが折り重なって、相乗効果を成している。

・さいごの色街 飛田
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/01/post-1579.html

この本はサンダカン八番娼館の現代版と言っていい傑作。

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