Books-Culture: 2012年9月アーカイブ

・〈身売り〉の日本史: 人身売買から年季奉公へ
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人間が人間を保有する、売り買いするとはどういうことかを日本の歴史(主に中世以降)にみる本。

日本には中世からつい最近(2005年)まで人身売買罪というものがなかったそうだ。人が人を所有し、売りとばすことは長い間リーガルだったのだ。中世では、飢饉になったとき、飢えて苦しむものがいたら余裕のあるものが買い取って使用人として使うことを認めていた。人道的な理由で奴隷を認めていたわけだ。

「厄介者」という言葉もそうした慣習からでたものらしい。

「子どもだけでなく、一家全員で親類や縁者の家に転がり込むという方法もあった。厄介とも呼ばれる。食べさせてもらい住まわしてもわう代わりに、一家総出で厄介先の仕事を手伝うことになる。「親類境界」の養助というのがこの厄介に相当する。ただし、地のつながった血縁親族、あるいは厄介先で主の家族として扱われるのではなく、主の指令のままに仕事をせざるをえない隷属関係に置かれることになる。」

現場ではどんなコミュニケーションや情緒があったのか、知りたいところではあるが、ともかく、生きるために人間が自分自身をを売るという行為を社会が納得するための装置として身売りがあった。

「みてきたように、禁止された「人売り買い」は一貫してかどわかりと不法な人商い業であった。当然、元禄十一年以降も禁止され続けた「人売り買い」の対象も基本的にはその二つであり、親子兄弟札における「人売り買い」の対象もその二つである。中世~近世を通じて、主人が譜代下人を、親が子女を売買することを禁止したことはない。」

近代化に従って身売りは正規の雇用契約へと立法化されていった。社会に組み込まれた制度の一部になった。

そして江戸社会以降は売春目的の「身売り」までも制度化されて隠蔽された。これを「養女・飯盛女への身売りが雇用労働契約として位置づけられ、寄って集って人身売買ではないように装い飾り立てた結果である。」と著者は指摘しているが、合法化することで非人道的な売春がまかりとおることにもなった。合法な売春制度こそなくなったが、巧妙に売春が隠蔽されているのは現代でも同じだが。

「身売り」と雇用契約のあいだを考える資料として非常に面白い本だった。

地獄の本

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・地獄の本
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仏教の説く地獄のカタログ。等活地獄、黒縄地獄、衆合地獄、叫喚地獄、大叫喚地獄、焦熱地獄、大焦熱地獄、阿鼻地獄が八大地獄。さらに大地獄にはそれぞれ4つの門があって十六の小地獄に続いている。罪状によって地獄も細分化されているのだ。

キリスト教でも天使や悪魔、天国と地獄の階層構造は細かいところまで設定されているわけだが、仏教でも8つの大地獄、128種類の小地獄を考えた僧侶がいたわけだ。死後の世界への想像力は果てしない。

ちなみに普通の人間は地獄へ行ってしまう。自分は人を殺していないから、盗みはしていないから、不倫はしなかったから大丈夫だ、なんてのは甘い考えだ。仏教は厳しい。相当の聖人君子で一生を生きない限り、該当する罪状と専用の地獄が用意されている。大酒を飲んだ者、おべっかを使った者、食事中に手をなめた者、口を使って性行為をした者、などなど簡単に地獄行きになる。この説明を読んでいると、え、それまずいの?先に言ってよ、いうこと続出だ。

有名な地獄絵の写真をたっぷり使って地獄を徹底解説する。地獄の攻略本みたいな内容。
いまプチ地獄ブームである。きっかけは地獄の絵本がよく売れたこと。

絵本地獄―千葉県安房郡三芳村延命寺所蔵
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地獄の続きとして極楽の本も出ている。

絵本 極楽
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・ニコニコ学会βを研究してみた
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2011年12月に開催された「野生の研究者」たちによる第1回ニコニコ学会βシンポジウムの記録。

野生の研究者とは「これは職業としての研究者ではない人を意味する。しかしもともと研究者とは、職業というよりも生き方であり、常に探究心を忘れずにいる人を意味する言葉であるはずだ。そこで、プロ・アマという区分を無視し、生き方としての研究者を選んでいる人を「野生の研究者と呼ぶことにした。」という意味。学会に所属したり、論文を書いたりしなくても、趣味や仕事で実験や研究をしている人なら誰でも参加できるのがニコニコ学会。

職業研究者というのは、学会が設立されている既存分野において、先行研究をすべて調べた上で、まだ誰もやっていない部分を補完する人たちだ。人気分野ではまだ誰もやっていないことというのはそうそうないから、研究内容も自然と、隙間を埋めるような面白みがないものになりがちだ(そうして隙間が埋まっていくことが通常の科学では重要なのであるが)。そこへいくと既存の枠組みを取っ払って自分たちのやりたいことを無邪気に研究しまくる野生の研究者たちの仕事は面白いものばかり。

5人の研究者が20件ずつ(1研究1分)で発表する「研究100連発」や公募25人による3分間発表「研究してみたマッドネス」という形でたくさんの研究が紹介されている。食べると音が変化するフォーク型楽器「食べテルミン」、ネコの視点でライフログ「CAT@Log」、クリスマスをキャンセルするクリスマスキャンセラー、書道のN次創作を可能にする「サンプリング書道」、エラーやタイプミスを好意的に解釈するプログラミング言語など、出てくるのはどこまで本気かわからないが、身を乗り出して聞きたくなるプレゼンの連発。シンポジウムで大賞をとったのは人型ロボットのための統合操縦ソフト「V-Sido」だった。


なお、これはイベントの記録というだけではなくリーダーの江渡浩一郎さんをはじめ、ドワンゴの川上さん、チームラボの猪子さん、日本技芸の濱野さん、クリプトンの伊藤さん、東大の歴本さん、SF作家の野尻さん、メディアアーチストの八谷さん、ARGの岡本さんなど、キーマンたちののインタビューや寄稿も収録されている。本としての価値も十分。

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