Books-Culture: 2011年2月アーカイブ

・偽書「東日流外三郡誌」事件
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読み応えあり。

東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)は、青森県五所川原市の和田喜八郎氏が自宅の屋根裏からでてきたといって1950年ごろから発表をはじめた古文書群。そこには古代の津軽に大和政権に匹敵するような王朝が栄えていたという歴史が記録されていた。考古学的に矛盾も多く、当初から偽書の疑いもあったが、村が『市浦村史 資料編』として70年代に公式刊行物として出版してしまったことで、お墨付きをえた形となった。さらに中央の学会では無視されていたが、歴史学の古田武彦教授ら有力な擁護派が幾人も登場して本物として紹介して知名度は全国区となった。地元住民も出自の怪しい和田氏に対して、半信半疑でありながら、村興しのネタとして積極的に活用していった。

地元紙「東奥日報」の記者だった著者は、この資料をめぐる小さな訴訟事件の記事を書いたことをきっかけにして、これが偽書ではないかと疑問を持つ。取材を重ねるとすぐに疑念は確信に変わった。東日流外三郡誌は、偽書としてはひどく杜撰なつくりだったのだ。明らかに和田氏の書いた筆跡(しかも筆ペン)や、現代人しか持ちえない知識や福沢諭吉の引用(天は人の上に人を作らず)など、矛盾に満ちていた。実物は「いずれ公開する」といって、写本しか公開されていないという不可解な事実もあった。

和田氏周辺を調べると、半世紀に及ぶ資料捏造の実態が明らかになった。和田氏の捏造に乗っかったり、乗せらてたりして、自治体や住民たちは、神社を建立し、ご神体を祀り、新たな祭りまで創設した。中央権力に対して、まつろわぬ祖先がいたという東日流外三郡誌の物語は、かつて蝦夷地と呼ばれた東北の人々のロマンをかきたてたのだ。

沸き立つブームに対して地元紙の記者が異を唱える。これは著者の十数年間にわたる和田氏や擁護派との戦いの記録である。偽書の証拠は次々に出てくるが、擁護派もしたたかに反論してくるから、なかなか決着がつかない。擁護派のメディアでは、この記者が名指しで悪者扱いされたりもした。

90年代の三内丸山遺跡というホンモノの発見などがあって、地域振興を怪しい古文書にたよる必要もなくなったということもあるらしいが、著者の頑張りが効いて、現在では「東日流外三郡誌」は完全に偽書として確定している。

真偽を白黒はっきりさせたのは良いのだが、和田氏は死去し、擁護派の教授は引退し、関係者らは口をつぐんでいる。結局、この偽書騒動に対して責任をとった人はいないという部分が、なんだかなあと少しフラストレーションが残る結末なのではあった。

一人で千巻もの古文書を偽造した和田氏の実態がイタくて面白い。いくら知識がないからと言って、ちょっと考えれば偽物だとわかるだろ、それ、というレベルの捏造物なのに、和田氏と擁護はがつくる妙な空気に巻き込まれていく人々。事実は小説よりも奇なりである。ドキュメンタリとして非常に面白い。

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