Books-Culture: 2010年2月アーカイブ

・紙の本が亡びるとき?
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書籍の未来と文学の未来に関する論考集。

「紙の書籍が遠くない未来、これまで果たしてきた役割を終える」という前提で、出版業界と文学界に不可避に生じる変化を予測する。タイトルから期待するデジタル化のインパクトについての考察は全体の3分の1くらい。文学のおかれた環境と変化についてが3分の2を占める。

著者は書籍という媒体の特性を3つ挙げる。

1 文字情報の容器としての側面
2 主体が文字情報と接触するインターフェイスとしての側面
3 消費社会における商品としての側面

電子化による変化はすべてに大きな影響を与える。

「電子化されたデータの最大の強みは、それが、物理的・空間的な質量を有しないことである。かつて立会場で目視で取引されていた為替や株式の市場が、電子化されることでいっきに流動性を増したように、情報から質量を奪い去ることは、その効率性を飛躍的に高める。」

著者は1人が1000人の読者から1年に3000円を払ってもらえば12万人の作家を支えられるというモデルを提示している。個人ブログやメールマガジンのマネタイズ成功例(それで独立した、など)も増えているので、私も注目しているパターンだが、この計算年間に1人300万円に過ぎない。主旨は賛同だが、もうちょっと夢のある数字の方がいいんじゃないかという気もした。

文学というカタチは、電子化されることによって、読書スタイルの変化をもたらすだろう。検索とクリックが可能な電子テキストでは、これまでのように長い本をリニアに延々と読まなくなるかもしれない。

大江健三郎は「インターネットで本を読むといっても、それは本を解体することですね。一冊の本をバラバラにしていくだけ。しかしそれで終わるんだったら、人類は進化を続けなかったということです」と文学の新しい様式に懐疑的に語ったそうだが、ハイパーテキストやインタラクティブコンテンツを前提としたアートが大江健三郎的な旧態文学とせめぎあい、長い時間をかけて主流を乗っ取るということなのではないかなあと思う。

この本は、現代文学の文学部的な問題を語った章も多いので、「出版の未来」のみの本ではない。紙の小説が亡びるとき、の方が内容に近い。

・一〇〇年前の世界一周 ある青年の撮った日本と世界
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1905年、ベルリンの上流階級の青年が見聞を広めるために休職し世界一周旅行に旅立った。アメリカ、日本、朝鮮、中国、インドネシア、インド、スリランカなどを1年半かけて周遊し、各地の風景、風物をカメラで記録に残した。彩色が施されて疑似カラー化された写真はどれも傑作ぞろい。100年前の世界中にタイムスリップできる写真+紀行文のビジュアルブック(ナショナル・ジオグラフィック刊)。

シルクハットやロングスカートの人々が行きかうニューヨークや、カウボーイが馬車に乗り西部劇の舞台のようなアメリカの町、辮髪の男たちが闊歩する中国の道、など古い歴史物の映画を見ているような気分になるが、セットではなくすべてが本物。

4カ月滞在した日本の印象は特に素晴らしかったようで、「この上なく清潔で異国情緒にあふれ、細かい心遣いが行き届いた旅館」に感動し、「一気に体にまわり、華やいだ気分にさせる」燗酒に酔って、「エロチシズムを感じさせない女優や歌手のよう」な芸者たちと楽しく交流したことが記録されている。

「当時日本では、ビフテキはヨーロッパ人に対する最高級のもてなしだと信じられていた。直立不動の役人と通訳の脇で、私はこの巨大なビフテキを食べ始めた。幸い私はまだ若く、食欲は旺盛で胃も丈夫だったので、さほど苦労せずに食べることができた。この儀式に時間をかけては失礼にあたる、と同時に一口噛んでは会話を続ける必要に迫られ、それがさらに状況を複雑にした。」

30歳の時の世界旅行だったが、紀行文が書かれたのは実にその50年後、著者80歳の時だったそうだ。50年の間に著者は結婚し、子供をもうけた。世界大戦があり、ナチスを嫌った著者はドイツ国籍を捨てた。兄弟や友人の多くは亡くなっている。遠い日の思い出として自分の青春時代を回想してこれを書き下ろした。こんな走馬灯が見られる晩年ってうらやましい。若い時にいい旅をするってことは意味があるのだ。

写真が本当に素晴らしい。2時間ほど意識が時空を飛んだ。

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