Books-Culture: 2008年9月アーカイブ
日本人の男女の声に変化があるそうだ。
女性 男性
1950~60年代 600ヘルツ 310ヘルツ
1970年代 520ヘルツ 350ヘルツ
1980~90年代 500ヘルツ 420ヘルツ
50年代から90年代までに女性は100ヘルツ低くなり、男性は100ヘルツ高くなった。半音以上違うということだ。この本によると原因はこの半世紀で男性は身長が高くなり、女性は社会に進出し高い声が特徴の女言葉を使わなくなったことなどにあるらしい。
もともと日本人は欧米人に比べて声が高い民族であるらしい。理由はひとつには背が低いからだ。背の高さと声の高さの関係には、ある係数を加えて反比例する「ファントの法則」がある。体が小さいと声帯などの発声器官のサイズも小さくなり、楽器と同様に小さいほど高い音を出すようになるのだ。聴く方の器官も同じだ。
「そのようにすべての部位が小さい人同士がコミュニケーションを交わす場合には、相手からの声は高いほうが聞き取りやすいし、聞き取りやすい声を出すためにも高くなるといった傾向が強くなる。この相互作用が繰り返されることによって、いたちごっこのように声は高いほう、高いほうへとエスカレートしていったと考えられる。」
もうひとつの理由は生活環境や文化にあった。広い草原や山岳地帯、木造建築に暮らすのに高い声が必要だったから、声は高くなったという。身体特徴や生活環境によって声は変わっていく。だから「声は民族を象徴する」と著者は結論している。
声の質には使用言語も影響している。欧米人は腹式呼吸で深い声を出すが、日本人は喉で出す声が多い。日本語が肺からのあまり空気圧を必要としない言語体系であるから、発声法が喉の筋肉を使った発声に最適化されているのだ。
日本人でも腹式呼吸はプロの歌手は当たり前のように使う。ボイストレーニングの基本は腹式呼吸の練習である。調査ではプロの歌手は腹筋80に対して、のどの筋肉を20使う。素人はその割合が逆になるという。体格が大きくて腹式発声の言語を使う欧米人とはちがって、日本人の深い声は意図的につくる必要があるわけだ。
発声の仕組みから、言語と声、民族によって好まれる声の違い、日本人が好む声(f分の1ゆらぎ)など、声に関する研究が広く取り上げられ、わかりやすく整理されている。日本人の、と題されているが日本に限らず、人間の声の魅力とは何かを考えるのに大変参考になる本だ。
・声のふしぎ百科 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2005/12/post-322.html
・7秒のイメージ・マジックであなたの声はもっとよくなる―相手を説得する、声の印象が変わる、気持ちが伝わる
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003015.html
平家物語は登場人物や戦いの数が多くてわかりにくい。それを手品のようにわかりやすい構造に整理してしまうのがこの新書である。平家物語の読み解きに悩んでいる人にとって救世主。素晴らしい。
第一部はあらすじ暗記、第二部は内容の図式化という目次だ。
著者は、平家の栄華時代に三つの反乱(鹿ヶ谷の変、高倉宮御謀反、頼朝の旗揚げ)があり、「都落」を境にして平家の没落時代が始まり、三つの戦い(一ノ谷の戦い、屋島の戦い、壇ノ浦の戦い)があって終わる構造として理解すると良いと教えている。
平家の栄華時代:三つの反乱(鹿ヶ谷の変、高倉宮御謀反、頼朝の旗揚げ)
──────都落ち──────
平家の没落時代:三つの戦い(一ノ谷の戦い、屋島の戦い、壇ノ浦の戦い)
また人物については「前半では、清盛が悪で、重盛が善(正義、良心)。後半では、宗盛が愚かで、知盛が賢い。」と覚えてしまうとよいと教える。
正しい、良識の重盛 <> 誤った、横暴な清盛
──────都落ち──────
正しい、賢明な知盛 <> 誤った、愚鈍な宗盛
確かにこの2つの単純化された構図を使うと、複雑な物語がぐっとわかりやすくなってくる。わかるだけでなく、この見方をすると登場人物たちの魅力がきわだってきて味わい深くなってくる。なぜかといえば、この解釈が平家物語の作者らの創作意図を汲み取る読み方であるからなのである、と著者は説明する。
「あえて言うなら、『平家物語』の中に登場する清盛は、現実の清盛とはまったく別人と割り切るべきだ。そして『平家物語』が創り上げた清盛という人物を作品に即して生のままで味わうのが一番おいしい、と私は感じている。」
平家物語については史実研究に基づく新解釈や、後世の作家の独創的な解釈が溢れる中で、著者は敢えて原作者の意図を汲み取ることにこだわる。著者の提示する軸で見たとき、主要登場人物たちの役割が明確に規定されていることや、無数のサブストーリーを縦に貫く普遍的な法則の存在に驚かされる。
たとえば、重盛や知盛の進言は正しいが実行されないというパターンだとか、夜討ち、不意打ち、強行突破は常に戦闘の成功の秘訣で、負けるのはそれをしなかったからである、とか、平家にとっては家庭としての戦場、源氏にとっては職場としての戦場という戦場観があることなど、いくつもの終始一貫したパターンや法則が発見される。
こうした予備知識があると、複雑な物語の先をかなりの精度で予想することができ、深く味わうことができる。平家物語はわかりやすい伏線を織り込んだサービス精神旺盛なフィクションであることがわかってくる。
この解説本を手にしたのは画家で絵本作家 安野光雅の「繪本 平家物語」がきっかけだった。平家物語の名場面を絵画にした画集である。各場面には平家物語(覚一本)からの文章の抜粋がつけられている。7年かけて描いた大作だ。安野光雅の画風の淡々としたところが、栄枯盛衰・諸行無常の平家物語と相性が良くて味わい深い傑作になっている。
・1歳5ヶ月の息子が選ぶ2004年 ベスト絵本
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002776.html
安野光雅について触れました。
・安徳天皇漂海記
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/09/post-445.html
平家物語のバリエーション。