Books-Culture: 2007年10月アーカイブ
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19世紀後半のナダール、20世紀前半のザンダー、二十世紀後半のアヴェドンの3人の写真家の、代表的な肖像写真の差異を分析することで、顔の意味の歴史を考察する本。
「ナダールは自分の好みの人物たちを選び、彼らをできるだけ自由な状態に置きたいという応対をしながら相手を見ていた。ザンダーは、ピンからキリまでの人間のだれにも共感を抱きながら見ていた。アヴェドンは決して冷淡ではないが、善人に対しても悪人に対しても、権力者にも犠牲者にも、できるだけ冷やかで空虚な視線を投げかけた。」
肖像写真の出発点がナダールである。
・Nadar
http://en.wikipedia.org/wiki/Nadar_%28photographer%29
ナダールの肖像写真の作品が多数掲載されている。
「いずれにせよナダールが撮ったのは、貴族でもなく、もともとの金持ちでもなく、自らの知的な能力を磨き、活動させることによって、たんなる知識人ではなく有名人になっていく人びとであった。ナダールによって写真に撮られるとともに、ボードレールによって評価されていく人々でもあった。」
「ひとつの時代を共有する群れのなかから、このような歴史的な意義をもった人びとを差異化し、「同時代のびと」たらしめることこそ、ブルジョワ社会の特質であった。<中略>ナダールの肖像写真が明らかにしたのは、こうした歴史的なブルジョワジーの特徴であった。このエリート主義の社会だからこそナダールは浮かび上がれたのだ。」
まだ写真が珍しい時代では、ナダールに肖像写真を撮られるということは、特別な知識人として列聖されることなのであった。そして、それらの肖像写真を見る者には、その人物が誰で何をした人なのかという前提知識があった。
時代が下るにつれて、ザンダーはさまざまな職業、階層の人々を撮影して分類していった。多様な社会関係にある、有名無名の顔をたくさん集めることで時代を群像として写しだそうとした。
・August Sander
http://www.masters-of-fine-art-photography.com/02/artphotogallery/photographers/august_sander_01.html
多様な職業の人々の肖像作品集が掲載されている。
そして、20世紀のアヴェドンは「20世紀最後の奴隷」や「殺人者」の肖像写真を撮ることで、それが歴史的真実であることを伝えるパフォーマンスを行った。
・Richard Avedon Foundation
http://www.richardavedon.com/
後半の総括部分では、「仮面」と「観相術」というキーワードを使った分析が、肖像写真の被写体、写真家、観客の3者の関係性の変化をうまくとらえていてわかりやすかった。
・Portraits
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005048.html
ユニークな写真集を2冊。
世界遺産とは無縁でそこらへんにありそうだが、よく見ると職人の技が光る価値のある古い建築物を247件も、大きな写真と記事で紹介する。著者はそうした地味だが味のある建築に「世間遺産」という名前を与えた。30年の研究の成果。
「さて「世界遺産」や「近代化遺産」が脚光を浴びる中、社会からはなかなか見向きもされない、これら「世間遺産」たちとの出合いは、筆者自身に強い印象を与えるものばかりでした。長く人の生業やくらしとともにあった、「用の結果の美」としての建築や道具。または庶民の饒舌、世間アートとでも呼びたくなるような不思議な造形の数々...」
著者の狙いは、世界遺産の相対化にあるのだろう。それはかなり成功している。
田舎の田圃の片隅に打ち捨てられた農具小屋や、小川に架けられた名もない石橋、明治の頃に長者が建てた村一番の蔵。どの村や町にもありそうな、ありふれた遺産なのだけれど、TBS世界遺産風、ナショナルジオグラフィック風の撮り方の写真に、著者が調べた由来の解説が付けられると、不思議と風格を帯びて見えるのである。
奇想遺産は、世界の奇妙な外観の建築を集めた写真集。朝日新聞の連載の書籍化。まず表紙の「ル・ピュイ・アン・ブレ」をみて驚く。フランスの奇観というとモンサンミッシェルが有名だが、町はずれの野原に85メートルの岩があって、その上に教会がたてられている様は圧巻だ。
奇想遺産にはシドニーオペラハウス、大阪の通天閣、首里城正殿など、有名な建築も紹介されているが、建築にまつわるエピソード紹介を読むと、知らなかった事実がでてきて驚かされる。この本があると、旅行の計画をたてるときに、ちょっとユニークな味付けができそうである。
こういう世間遺産、奇想遺産って探すと身近に結構ある。たとえば市谷の奇妙なパイプ?橋と釣り堀の景観って、東京の世間遺産として残すべきものだよなあと思う。いつもあの釣り堀を見るとほっとする。