Books-Culture: 2006年2月アーカイブ
2002年2月の冬季オリンピックで「ソルトレイク・ゲート事件」は起きた。花形競技のフィギュアスケート・ペアで、採点に不正があったというもの。本命のロシアのベレズナヤ・シハルリゼ組と、対抗馬のカナダのサレー・ペルティア組の演技で、ロシアはフリーで少し乱れた。一方のカナダはミスがなく完璧な演技をみせた。
ミスはあったもののロシアは芸術点と技術点で極めて高い印象があったので金メダルを獲得した。カナダ組は銀メダルに終わった。ところが、この採点の裏側で、ロシアに高い点数をつけたフランス人審査員とロシア側に密約があったことが判明し、メディアを巻き込む大騒ぎになる。慌てたIOCはカナダ組にも金メダルを授与して事態をおさめようとしたが、次々に関係者から談合の事実が暴露され、世紀の大誤審の一例になってしまった。
この審査制度を改革するため、その後、方式が変更されている。審査員の人数を7人から最大12人に増やし、採点後にランダムに9人の点数がピックアップされる。さらに最高点と最低点はカットされ、7人分の得点が採用されることになった。
事前に演技内容を選手が申告し、要素の最高点がわかる透明性も確立された。演技評価を細分化し、”印象”ではない加点方式を採用した。相対評価から絶対評価に変わったのも大きな特徴。以前の採点方式では、最初の競技者に満点を与えると、最後の競技者が優れていた場合、差をつけにくいので、前半の競技者に高い点がつきにくい傾向があった。
こうしてスタートした新制度だが、人間が運用する以上、完璧ではありえない。オリンピックは世界中から審査員を集めるため、レベルの低い審査員が競技の盛んでない国から集まったり、発展途上国の審査員は経済格差があるので買収されやすい、といった危険はまだ残っているそうだ。
競技者の人生をも左右しかねないオリンピックの誤審はなんとしても防ぐ必要がある。一方で、おおらかに誤審が何十年も受け入れられている分野もあるようだ。アメリカのプロスポーツにおける「ホームコート・ディシジョン」である。米国バスケットのNBAにおけるファウル数を著者はデータ解析している。明らかにホームチームが有利なバイアスがかかっている。
アメリカの観客にとって、ベースボールやバスケットボールは映画と同じようにエンタテイメントであり、せっかく足を運んだからには楽しみたい。ホームチームが劣勢のときに、ホームに有利なジャッジがあることは、多くの人間が肯定的に考えるので「認められた誤審」といっていいのではないかと著者は述べている。
この本の題材になるのは、近年のソルトレイクオリンピック、ミュンヘンオリンピック、、シドニーオリンピック、日韓ワールドカップ、日本のセ・パ両リーグ野球、米国のNBAバスケットボール、米国のベースボールなど。誤審の例を紹介するだけでなく、誤審がうまれる構造を暴き出そうとしている。
第1章 末続慎吾はなぜスタートで注意されたのか?
第2章 シドニーで篠原信一が銀に終わった本当の理由
第3章 日韓共催W杯が遺したもの
第4章 ソルトレイクの密約
第5章 ヤンキース王朝は誤審から始まった
第6章 ミュンヘン、男子バスケットボール大逆転の謎
第7章 マイノリティの悲哀―ラグビーにおける誤審
第8章 日本の誤審は偏見から生まれるのか?
第9章 誤審の傾向と対策
・テレビブログ トリノオリンピック 人間ドラマ
http://www.tvblog.jp/torino/
編集長生活もあとわずか。