Books-Culture: 2005年10月アーカイブ

・共視論―母子像の心理学
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蛍、シャボン玉、花火、傘の穴などを共に眺める母子。この共に眺める行為を「共視」と名づけて、日本文化の中に、その独特の意味を見出そうとする共同研究プロジェクトの8本の論文集。

著者らは浮世絵の母子像数百枚を調査し、その構図によって「密着」「接触・共視」「分離・共視」「対面」「平行・支持」「無関係」「その他」に分類した。すると共視の出現率が3割以上、平行・支持を含めると半数を超える母子像に「共に眺める」要素が含まれていることが判明する。この率が5%の西洋画に比べてとても高い。

発達心理学では二人が肩を並べてひとつの対象を眺めることをジョイント・アテンション(共同注視、共同注意)と呼び、幼児が他者の意図や心的状態を読み取り始める発達上の一大ターニングポイントとみなしている。「子は母の視線を追い、母の見ている対象を共に見ながら母の発語を聞く。逆に母もこの視線を追い、子の見ているモノを共に眺める。このような共同の前言語的行為のなかで得られた形や関係性が言語活動へ展開するのである。」。

心理学では共同注意は、他者が考えていることを想像する過程「心の理論」の一部としてとらえられている。私とモノの二項関係から、社会的に共有される象徴を介した三項関係への発展である。指している指ではなく、指している先の対象に気がつくことは、人間以外の動物には稀で、それには相手も自分と同じような心を持っていることを認識する必要があるとされる。

日本人は特に、共視という構図が伝統的に好きなようだ。二者が同じものを眺める構図は大衆のニードにこたえて浮世絵に多数作られてきた。この母子の在り方は単なる絵の構図ではなく、日本人の親子関係、養育関係、コミュニケーションの特徴をあらわしているのではないかと著者らは多様な分析と仮説を提示している。

たとえば指さしの行為は子が指差したモノのラベル(名前)を親が教える語彙獲得という側面とは別に、子が「アー」といえば親も「アー」と返す感情共有のコミュニケーションという側面が大切に考えられていること。

タテ社会における特徴的な視線としての「共視」を分析した研究者もいる。共に視るパートナーは多くがウチの人間である。ヨソの人間ではない。共視の関係は、タテ社会における”同じものをみたら同じように考える”と言う集団の幻想があってはじめて成り立つ。自己は他者や周りの物事とのつながりの中で存在するという日本流の「相互協調(依存)的価値観」と共視には深い関係があるという。

母子像が共に視るモノは蛍、シャボン玉、花火、傘の穴などのはかないモノが多いという分析も興味深かった。親と子の蜜月関係がいまだけのものであり、いずれは子は育って独立した存在になる。親もいつまでも同じ役割関係だけでは生きられない。

そして、浮世絵の母子像のほとんどの子は男の子である。絵師たちは、江戸時代に春画が禁止されたため、男女の絡みを直接的には描けなくなった。そこで男性の代役として男の子を魅惑的な若い母親の女性に抱かせることで、浮世絵を見る男性たちの欲求を満足させようとした側面があるらしい。男女関係もまた、移ろいやすくはかないものである。

共視する母子像の美しさはそうした愛の一瞬の美しさを切り取ったものだから、そうしたうつろう存在が好きな日本人に長く愛されてきたものであるようだ。絵にあらわれる視線を分析することで、これだけたくさんの意味を見出せるというのが面白かった。美術館で絵を鑑賞するときの参考にもなる。

・日本トンデモ祭―珍祭・奇祭きてれつガイド
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興味があれば強くオススメできる一冊。

日本には1日に1000個、1年に30万個の祭りがあるといわれている。

著者が実際に取材した奇祭が約50個も写真と体験談入りで紹介されている。開催場所や日時も記載されているので、実際に見に行く際のガイドとしても参考になる。

とにかくユニークな凄い内容で圧倒される。

・ひょっとこが巨大な男根で踊りまくる祭り
・男が女をつねり放題、たたき放題の祭り
・男根に女の子を乗せてゆっさゆさの祭り
・暗闇の中でお尻を触る祭り
・天狗とお多福がセックスショウをする祭り
・ひげを撫でながら酒を飲む祭り
・神輿を破壊するバイオレンスな祭り
・幽霊がズンドコ節を踊る祭り

性の祭り、笑の祭り、暴の祭り、変の祭り、獣の祭りの5つに分類されている。特に充実しているのが性の祭りである。祭りというのは現代の普通の祭りでも、なにかエロティックな要素があるが、ここに取り上げられるのは性を濃密に圧縮してしまった祭りばかり。きわどい。

たとえばかなまら祭り。

・かなまら祭り - Google イメージ検索
http://images.google.co.jp/images?sourceid=navclient-menuext&ie=UTF-8&q=%E3%81%8B%E3%81%AA%E3%81%BE%E3%82%89%E7%A5%AD%E3%82%8A&sa=N&tab=wi

画像検索しただけでもかなりユニークであることがわかる。

日本の古い寺社の御神体には男性器や女性器の形のものが多いと言われる。祭りの多くが古い形では乱交を伴ったと言われる。「明治時代、日本政府は「盆踊り禁止令」というのを出している。これは、当時は盆踊りというのは要するに「乱交」を意味し、それがあまりに目に余ったので、明治政府が風紀を引き締めるために禁止にまわったのだ。」と著者。

まあ、とにかく、トンデモなく面白い一冊なので、民俗好き、祭り好きなら買って損はない。著者のサイトも情報が充実している。

・杉岡幸徳のページ〜奇祭評論家・エッセイスト
http://www.sugikoto.com/index.htm

ちなみに私が所属する地元町内会の祭りも結構変である。ギネス認定の世界一大きい金魚すくいを売り物にしている。毎年、これを見るのが楽しみなのだが、この著者は取材に来てくれないかな。

・藤沢銀座土曜会どっと混む〜世界一大きい金魚すくい
http://www.doyokai.com/event/2005/
2002年 100.8メートル(2003年7月ギネス認定)
金魚:60,000匹/メダカ:15,000匹/水槽内水量:15トン

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