Books-Creativity: 2012年3月アーカイブ
芥川賞をはじめ文学賞とりまくりの小説家 村田喜代子による文章術。
自分にしか書けないことを、だれが読んでもわかるように書く。それがこの本の良しとする文章だ。そして「散文とは誠実に言葉数を費やして、自分の前にある事象に迫るものだ」といい、「豊満な体。熟れた若い女の肉体」などという語彙のみをもって最小限の言葉数で語る不誠実な文章を書くなという。かっこをつけた名文は不要、文章は口から。書くときにはモグモグいいながら、自分の言葉で語りなさいという。
何かの拍子にさらっといい一行が書けることがあって、それをベースに文章を仕上げていくということはよくあるが、その一行が名文だと勘違いしてはいけないという指摘に、私はうなった。推敲では鬼にならねばならない。
「削除には多大な勇気がいる。名文なんか惜しみなく捨ててしまおう。ここであらためて名文の定義をすると、真の名文とは、用途に合った表現の文章をさすのである。テーマに沿って効果的な働きをしている文章のみが名文というに値する。 たった一行のいかにも気の利いた文章や、格好の良い表現を名文と思い込んで、愛憎のあまり削ることができず、苦しんでいる人がいる。一行や一句の名文なんてあるはずがない。文章は前後と連結してこそ機能を果たすもので、そこだけ独立しているのではない。」
前半は文章術の基本と応用編。テーマや構成のつくりかた。導入部の書き出し方、地の文のかき分け、描写、セリフ、タイトル、推敲などについてノウハウがまとめられている。後半は質問編、独習編、鑑賞編。インパクトのある文章の書き方やですます調の使い方など、物書きが一度は突き当たる具体的な疑問点に、作家がわかりやすく答える。
ところどころにどきっとすることがある。たとえばこんなことはなかなか教えてもらえない。
「まず作者の意識の問題としては、自分のことを書く際は少し貶めるというのも、常識でわかることだ。」
これは私が原稿を書く際によく気になっていたことだ。最初に読者との距離や上下関係が決まると書き出せることは多い。次書き出しで困ったら、このアドバイスを思い出そう。メモメモ。
著者が考える、書くに値する文章、読むに値する文章とは、
1 誰もが心に思っている事柄を、再認識させ共感させる
2 誰もが知りながら心で見過ごしている事柄を、あらためて再認識し実感させる
3 人に知られていない事柄を書き直して、そこに意味を発見し光を当てる
というもの。書いた文章にあてはめてどれにも該当しないものは価値がないということ。名文とは何かに実践的に迫る、学びの多い本。
村田喜代子のおすすめ作品
・蕨野行
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/05/post-1437.html
・龍秘御天歌
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/04/post-1426.html