Books-Creativity: 2005年7月アーカイブ

・新しいものを次々と生み出す秘訣
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先日、お台場の科学未来館で動くASIMOを間近で見ることができた。これはそのとき撮影したデジタルビデオからキャプチャ。テレビでは何度も見ていたが、動く実物がそこまで迫ってくると思わず声をあげそうになった。二足歩行はぎこちないのだが、そのぎこちなさが人間っぽいのだ。

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その未来館のショップで購入したのがこの本。ホンダのロボット開発創始者で基礎研究所の所長、常務が引退後に書いた新しいものを次々と生み出す秘訣。

このぎこちなさの秘密も本に書いてある。こんな研究所でのやりとりがあったらしい。

「衝撃の大きさが問題なら、ゴムを入れて吸収したらどうでしょう。後は制御でなんとでもなります」

「ゴムなどいい加減なものを、制御系に入れたら、ますます不安定になってしまう」

ゴムの採用を提案した研究者は密かに”ヤミ研”を続ける。上司も黙認する。結果的にはゴムの利用で転倒が減った。

テレビの体操選手が着地してからバランスを崩し、一歩足を前に出す動作を観たことが、更なる改良につながる。「どうせ踏み出すなら転倒力に逆らわず、むしろその力を利用して踏み出したほうが姿勢の回復が早いし美しいんだ」

こうして、転ばせまい、転ばせまいとしていたロボット二足歩行の研究は、倒れそうになったときには積極的にその方向へ加速させ、それによって継続的な歩行を可能にするという発想が生まれた。20世紀中には無理と言われた二足歩行がこうして実現されていった。私が見たぎこちないけれど人間っぽいASIMOの動作は、転びそうな力を逆に利用して継続歩行する設計思想が関係しているのかもしれないと思った。

機器個体の機能を最適に制御しようとするインディビジュアル・インテリジェンスに対して、ネットワークでつながった機器が自律、協調、調和するネット・インテリジェンスの時代になると著者は技術の未来を語っている。ASIMOもまたネット・インテリジェンスのかたまりでもあるようだ。

こうした知恵が創出される自由でありながら理念を持った研究組織をどのように作り出したか、がこの本の主要テーマである。理念なき行動は凶器、行動なき理念は無価値というホンダ創業者のDNAを受け継ぎながら、一人一人が自由に活き活きとした活動ができる「ゆるやかな縛り」を大切にせよという。ASIMOを生んだ”ヤミ研”活動も、理想的動作を諦め転倒力を利用して自然な動きを実現したアイデアも、緩やかな縛りの中で生まれてきたものといえるのだろう。


「要するに君たちに鉄腕アトムを造ってほしい」と切り出すと、みんなすぐに理解してくれた。イメージや目標を共有したいとき、適切なメタファを見つけるやり方は、非常に効果的だ。

そして研究テーマは個人提案という形を取る。言いだしっぺにやらせる。ノッてるときは水を差すな。未来像からやるべきことを考えよ(フューチャー・プル)。そしてビジョンを持て。


「先が見えないからビジョンが描けない」というのがおかしい。ビジョンは先が見えるから描くというものではない。自分たちは将来こうありたい、という姿を描くのがビジョンですから、先が見える見えないは関係がない。むしろ見えないときこそ描かなければいけない

経験知として次の言葉も感銘した。

「先送りされた不都合は必ず未来に存在し、将来、何倍にもなって我々の前にたちはだかる」

開発でも経営でも、不都合の先送りは問題を解決しないどことか、将来の脅威を育ててしまうことが多いと思う。システムの開発でも、技術的な壁にぶつかったとき、難しいからという理由で安易な代替案に逃げていると、やがて大きなトラブルの種になってしまう。
最後に10の法則がまとめられている。

・新しいものを次々と生み出す10の法則

1 企業理念不易の法則 決してブレない
2 ビジョン=旗の法則 総力結集の秘策
3 本質認識の法則 点でなく線や面で見る
4 現状肯定の法則 未来は現在の中にある
5 現状否定の法則 従来の延長線上に未来なし
6 不都合是正の法則 先入観を打破する
7 フューチャー・プルの法則 発想は将来最適で
8 プレゼント・プッシュの法則 問題はさっさと片付ける
9 共創マネジメントの法則 異質な人を集める
10 TDCの法則 踏み出す勇気を持て

新しいものを一度生み出すのではなく、”次々に”生み出す現場のマネジメント論として面白く読めた。

・1分間でやる気が出る146のヒント
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著者はオレゴン大学で組織経営学を学び、博士号を取得した後、小学校、中学校、高校の教師と校長を30年間つとめた人物。世界の有名な偉人の名言やエピソード、著者自身の人生哲学が織り込まれている。ひとつのヒントは1ページにまとめられていて、読みやすい。

146あるヒントのうち、個人的に強く感銘したメッセージのベスト10を作成してみた。

1位 考えすぎて複雑にしない
「人間には、他人が思いついたアイデアをひねくり回して複雑なものにしてしまう習性がある。あなたはそのことに気づいているだろうか。この奇妙な習性のために、簡単で合理的で実行しやすい計画のはずが、悪夢のようにひどく複雑なものになってしまうのだ(以下略)」

どうも自分は、考えすぎてアイデアを台無しにすることが多いと常々思っていたのでこれが1位。自分でも他人でも、最初に直感するアイデアというのが、知識や経験をまっすぐ反映した意味のある発想であることが多い気がする。

2位 自分の能力を人のために使う
「人間は得ることで生計を立て、与えることで人生を築き上げる(チャーチルの言葉)」
深い。

3位 プレッシャーを歓迎する
「プレッシャーのない仕事はいい仕事ではない」

確かに能力的に余裕でこなせる”朝飯前”の仕事は、実際にやってみると完璧になるはずが、無難な結果にしか終わらないことが多いなと思う。

4位 「あなたには無理だ」と言われたことをやる

5位 お互いにほめ合って元気を出す
「私は一つの言葉で二ヶ月生きられる(マーク・トウェイン)」

6位 笑って健康を保つ
「ポジティブな感情は、体内におけるポジティブな化学変化と直接的な関係がある」

7位 人の重荷を軽くする
「他人の重荷を軽くできる人は、みな有能な人である」

8位 どんな思いつきでも人に話してみる

9位 わからないことは質問する

10位 つらいときこそ、上を向く
「私の親友が「あるオフィスの天井に面白いことを書いた貼り紙を見つけたよ」と言ってきた。それには「将来の見通しが暗いときには上を向こう」と書かれていたというのだ」」


ざっと私のベスト10を紹介してみたが、読む人によって、ベスト10はまったく変わったものになるだろう。オンラインで名言、格言の選ばせ、性格診断ができたら面白いサービスになりそうだと、ふと思いついたので、話してみた(第8位)。

関連?:

少し前のベストセラーでこれは面白いと思っていたのがこの本。書物占い。ランダムに開いたページに書いてあることがあなたへのお告げ。不思議と意味を感じてしまうのがうまいところか。

・魔法の杖―THE ORACLE BOOK
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「古来からの由緒正しい占い「ビブリオマンシー(書物占い)」を現代向けに再現。悩んだとき、迷ったとき、自分のたましいを見失いかけているとき…そんな時にあなたの心の奥底から浮かび上がってくる魔法のメッセージ」

たとえば、

・直感の光である月が第一印象を大事にするようにすすめています
・ペンタクルスのキングが出ました知識のある専門家に相談を
・サイキックの意見をききましょう!“いまこそ絶好のとき”
・十字紋は挑戦すべき課題を表すものさあ、立ち向かって

といった感じ。