Books-Brain: 2008年9月アーカイブ
「最初から百パーセント集中せよ」「相手の攻撃は最大のチャンス」「相手の長所を打ち砕け」「勝負の最中にリラックスするな」。北京オリンピック日本選手団に勝負の勝ち方を講義した有名な脳外科医によるベストセラー。
著者は「意識」「心」「記憶」は連動しているという「モジュレータ理論」を提唱している。脳内のドーパミン系神経群がその三者の連動させていると考えており、それを最適化することで、人間は潜在的な能力を開発できるという。
具体的には「サイコサイバネティックス」と呼ばれる行動理論を応用する。
1 目的と目標を明確にする
2 目標達成の具体的な方法を明らかにする
3 目的を達成するまで、その実行を中止しない
目的よりも目標を心掛けることが勝利の秘訣になる。オリンピックなどで優勝選手が「気がついたら一位になっていた」「結果は気にせずよいプレーを心がけた」というコメントをする選手がそうした原理で成功した人たちだ。精神論で猛練習ではなくて、楽しみながら集中しているうちに上達するということらしい。チクセントミハイのフロー理論にも似ている。
「モジュレータ理論」とともに「イメージ記憶」というキーワードも興味深い。野球のピッチャーが時速150キロ以上のボールを投げるとき、ホームベースに達する時間は0.45秒以下になる。一方、脳がボールを見て身体にスイングを命令し振り切るまでは合計で0.5秒になる。理論的にはバッターは150キロのボールを「よく見て」打つことはできない。見ていたら振り遅れてしまう。
「そのためバッターは、ピッチャーを投球動作をしている段階から、ボールが手元にくるまでの軌道をイメージ記憶をもとに予測して、バットを振るのです。だから、時速150キロ以上の豪速球でも打つことが可能になるのです。 経験を積めば積むほど、ボールの軌道の記憶はたくさん蓄積されていきます。バッティングの達人とは、過去に成功したときのイメージ記憶を膨大に蓄え、それをあらゆるボールに対して当てはめることができる人のことです。」
こうした能力を引き出すには、「意識」「心」「記憶」を適切にコントロールしなければならない。かなり心の持ち方が重要になる。練習では普通でも、大きな試合に出ると神業を繰り出す選手はそうした調整がうまい。勝負脳について著者は、三者を統合するモジュレータを最高に機能させる考え方を中心に教える。頭を使って運動能力と運動神経を鍛える「運動知能」論は科学的な精神論なのであった。