2007年11月29日
武士道
「武士道はその表徴たる桜花と同じく、日本の土地に固有の花である。」。新渡戸稲造が明治32年(1899年)に、滞在中のアメリカでこの本を書いたとき、実践としての武士道は既にとっくに過去のものであった。
「それを生みかつ育てた社会状態は消え失せて既に久しい。しかし昔あって今はあらざる遠き星がなお我々の上にその光を投げているように、封建制度の子たる武士道の光はその母たる制度の死にし後にも生き残って、今なお我々の道徳の道を照らしている。」
日本では宗教なしでどうして道徳を教えるのですか?という外国人の問いに即答できなかった新渡戸は悔しくて、諸外国に日本人の精神的土壌を説明すべく、この本を書いた。結果として、ヨーロッパの騎士道やキリスト教やギリシア哲学における道徳との比較が頻繁に登場する。
たとえば、こんな風に。
「戦闘におけるフェア・プレイ!野蛮と小児らしさのこの原始的なるうちに、甚だ豊かなる道徳の萌芽が存している。これはあらゆる文武の徳の根本ではないか?」
「ブシドウは字義的には武士道、すなわち武士がその職業においてまた日常生活において守るべき道を意味する。一言にすれば「武士の掟」、すなわち武人階級の身分に伴う義務(ノーブレッス・オブリージュ)である。」
「武士道はアリストテレスおよび近世二、三の社会学者と同じく、国家は個人に先んじて存在し、個人は国家の部分および分子としてその中に生まれきたるものと考えたが故に、個人は国家のため、もしくはその正当なる権威の掌握者のために生きまた死ぬべきものとなした。」
「感情の動いた瞬間これを隠すために唇を閉じようと努むるのは、東洋人の心のひねくれでは全然ない。我が国民においては言語はしばしば、かのフランス人(タレラン)の定義したるごとく「思想を隠す技術」である。」
義理と義務、勇気、仁、礼、誠実、名誉、切腹自殺について、欧米や大陸の文化と比較して、共通と相異を詳しく述べている。欧米化した現代人にも、わかりやすい内容になっている。
一方で、この有名な「武士道」本の主張は、伝統的な武士道研究とはだいぶ違っていて、新渡戸稲造の独自の解釈も多いといわれる。「過去の日本は武士の賜である。彼らは国民の花たるのみではなく、またその根であった。あらゆる天の善き賜物は彼らを通して流れ出た。」などは過大評価であろう。武士道を桜にたとえて「しからばかく美しくて散りやすく、風のままに吹き去られ、一道の香気を放ちつつ永久に消え去るこの花、この花が大和魂の型であるのか。日本の魂はかくも脆く消えやすきものであるか」と嘆くような、大げさな文学的な表現も多い。
キリスト教と騎士道を背景に持つ欧米列強に対して、日本にも歴史のある立派な道徳があるのだと、日本代表として熱弁する新渡戸の姿勢が終始感じられる。国際的に理解を得たいという熱意のために、かなり強引に欧米のイディオムと対応関係を張ってしまった感がある。だが、結果として、数十カ国に翻訳されたこのベストセラー本のおかげで、よくもわるくも日本の「武士道」は世界に広く知られることになったのである。
・武士道 初版がデジタルで読める
http://kindai.ndl.go.jp/BIImgFrame.php?JP_NUM=40004040&VOL_NUM=00000&KOMA=1&ITYPE=0
2007年11月28日
多世界宇宙の探検 ほかの宇宙を探し求めて
「無からの宇宙創生」理論、「永久インフレーション」モデルの提唱者である物理学者アレックス・ビレンケンが書いた現代宇宙論。一般向けの本だが、ビッグバン、インフレーション理論、超ひも理論、人間原理、宇宙定数、暗黒物質など基礎的な事項は予備知識として知っていて、知識のアップデートを望む読者に特におすすめ。
「インフレーション理論では、内部的な視点から見ると島宇宙は無限に大きいので、それぞれの島宇宙はO領域を無限にたくさん含んでいます。また量子力学により、どんなO領域もそこで展開されるはずだという結論が避けようもなく出てきます。量子力学によれば、保存則によって厳密に禁止されないものはすべて、ゼロでない確率で起こります。そしてゼロでない確率を持っている歴史はすべて、無限個のO領域の中で起こるーあるいはもうすでに起こっているーのです。」(O領域は800億光年の巨大な球状の空間)
この多世界モデルは、条件分岐で世界が増殖していく平行世界モデルとは異なる。多世界モデルでは、あらゆる可能な世界が同じ大宇宙に実在している。観測可能なO領域としての世界同士が、あまりに遠いので互いにアクセスができないだけである。
まったく同じやほとんど同じ世界が二つあることもありえる。故に「永久インフレーションから導かれる世界観では、地球と私たちの文明は決して唯一無二のものではありません。そうではなく、無数の同一の文明が宇宙の無限の広がりの中に散在しているのです。人類の宇宙的な重要性といったものが微塵も認められなくなり、私たち人間の世界の中心からの退場は完了しました。」と、著者はなんだか嬉しそうに唯一性という価値を否定している。
つまり、人間はひとりではないどころか、あなたもひとりじゃないのである。
宇宙の観測データによる仮説の裏づけや量子力学寄りの新理論の登場によって、この10年という短い期間でも、宇宙論の論点や結論は変化していることがわかる。神話が宇宙を定義していた時代は何百年や何千年も不変だった宇宙論が、いまは世代ごとに科学の最前線としてコロコロと変わっているのだ。宇宙論は科学であると同時には哲学でもある。人間とは何なのか、私は誰なのかという存在論に、科学が常に揺さぶりをかけている時代だといえる。
そして宇宙論は科学であり、哲学であると同時に、フィクションの面白さがあるとこの本を読んで改めて思った。科学者たちは、それぞれが妄想したフィクションのリアリティを競い合っているようにも見える。宇宙論では最初は突飛で荒唐無稽と思われたアイデアが、古い仮説を覆してきた。
人間はまだ宇宙のほんの一部しか観測することができないので、宇宙論の仮説を検証し理論化するに当たっては、ローカルな宇宙で得られるデータから統計的に推論していくしかない。宇宙論には観測にもとづいた数値を代入する26もの定数があるため、純粋な理論からの演繹モデルはつくることができない。科学者たちが議論して、ローカル情報とすりあわせ、最もありがちな宇宙の姿として妥当ということに落ち着いた暫定モデルを更新していく。
理論的な矛盾がなく、いくら権威付けが行われても、今後の観測で、宇宙の果てにガムテープで補強の跡が見つかりましたなんてことにでもなれば、すべてのモデルは総崩れになる。ガムテープはないだろうが、ブラックホールやら暗黒物質など、ありそうにないものが実際に発見されてきた。この本のいう多世界モデルの、隣の世界がみつかっちゃいました、なんてこともあるかもしれない。
・ビッグバンの父の真実
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004784.html
・ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002797.html
・はじめての“超ひも理論”―宇宙・力・時間の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004230.html
・ホーキング、宇宙のすべてを語る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004047.html
・奇想、宇宙をゆく―最先端物理学12の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003562.html
・科学者は妄想する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003473.html
2007年11月27日
怖い絵
「ある種の「悪」が燦然たる魅力を放つように、恐怖にも抗いがたい吸引力があって、人は安全な場所から恐怖を垣間見たい、恐怖を楽しみたい、というどうしようもない欲求を持ってしまう。これは奇妙でも何でもなく、死の恐怖を感じるときほど生きる実感を得られる瞬間はない、という人間存在の皮肉な有りようからきている。」
16世紀から20世紀の有名な絵画の中から、見た目の印象があからさまに怖いもの、描かれた経緯を知ると怖いものを20点集めて解説している。興味本位、怖いもの見たさで読み進めるうちに、歴史的背景や画家の位置づけなど名画の見方が自然にわかる面白い本だ。
ダヴィッドの「マリー・アントワネット最後の肖像」は、フランス革命の4年後に、市内引き回しでギロチン台へ連行されていく元王妃を、画家が見物人の一人としてスケッチしたものだ。新体制側の画家は、王妃の欠点を誇張して堕ちた偶像を描いたはずが、「心は何ものにも屈せざる大した女性」に仕上がってしまったと著者は説明する。そういう背景を知ると、各章の最初にあるカラーの複写ページに戻ってじいっと絵に見入ってしまう。絵画への味覚が倍増するのがわかる。
個人的に本物を見て見たいと思った怖い絵は、
ゴヤ 「我が子を喰らうサトゥルヌス」
ルドン 「キュクプロス」
クノップフ 「見捨てられた街」
の3つ。前の2つは見るからに正常を逸脱した感性を持つ芸術家でなければ、描けない異様さがある。
この本のタイトル「怖い絵」を調べていて、こうした怖い絵の多くは検索するとWebでほとんど見ることができることがわかった。さらに芸術作品や心霊写真などネット上には怖い絵がいっぱいアップされていて、そうした情報が2ちゃんねるなどで交換されていることもわかった。
怖い絵を動画にまとめてYouTubeにもアップしている人までいる。
・怖い絵画リンク
http://tigerbutter.jugem.cc/?eid=524
・[2ch]これは怖い!と思った絵ってある
http://www.youtube.com/watch?v=5d_DTLUt0Vo
・「世界で最も怖ろしい」絵
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/993681.html
・美について
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005145.html
・形の美とは何か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005144.html
2007年11月26日
〈性〉と日本語―ことばがつくる女と男
ジェンダーと言葉のみだれという切り口から、とてもユニークな日本語論を展開している。分析するテクストも、スパムメールや翻訳文、漫画のスラムダンクやクレヨンしんちゃんなど、幅広い。そうした周縁的なテクストに見られる「ずれた言語行為」にこそ言語の創造性の本質を見出す。
英語と違って、日本語には一人称の幅広いバリエーションがある。私、俺、僕、わし、おいら、あたしなどがあって性別も意識される。語尾にも変化として女ことば、男ことばがあり発話しているのが男か女かを区別できる。
「話し手を<女>と<男>に明確に区別する言語資源を持っている日本語は、「人間は女か男のどちらかである」という社会的信念を日常的な会話において再生産することで異性愛規範を支え続ける強力な言語的装置としての側面を持っているのである。」と著者は指摘する。
日本語は、男は「無徴・標準・中心」で女は「有徴・例外・周縁」という支配原理を内在させているのだという。たとえば、女社長、女医、女流作家、女子社員とは言うが、男社長、男医、男流作家、男子社員とは、まず言わない。
こうした言語のなかの男らしさ、女らしさに反発して、僕や俺という言葉遣いをする少女がいる。上下関係を嫌って敬語を使わない若者がいる。だが、そうした現象に日本語が乱れていると嘆くのは間違いであるというのが著者の意見である。
「日本語のみだれ」を指摘する背景には、「年長者は優れた日本語の使用者である」という考え方があり、さらにその背景には、「大日本語」の如き「正しい日本語の伝統」があるかのような言語イデオロギーがあるという。
「しかし、正しい日本語」ばかりを求める風潮は、じつは現代に生きる私たちも日本語を創造的に使っており、これらの「ずれた言語行為」が少しずつ日本語を変化させているという側面を見えにくくさせている」
ずれた言語行為をあぶりだすために多方面のテクストが分析される。口調の援助交際系スパムメールだとか、ハーレクインロマンスの翻訳文章だとか、漫画スラムダンクに見られる「〜〜っス」という新しい敬体(上下よりも親疎を尊重する敬語として)、ときめきメモリアルの美少女のセリフなど、周縁的で先端的なケースが多く取り上げられている。
そうした「ずれ」こそ言語イデオロギーを乗り越えていくための、創造的実践なのだとして、肯定的に日本語の「みだれ」をとらえなおしている。
2007年11月25日
右クリック2回でデスクトップ操作を28通りにパワーアップするツール集 ArtTips
・ArtTips
http://www2s.biglobe.ne.jp/~sahmaro/ArtTips.html
”右クリックを2回”で、どこからでも呼び出せるメニューに、28種類もの便利な機能が満載されているデスクトップのパワーアップツール。一度使うと手放せなくなる。
主な機能は、パスワード入力支援、ソフトランチャー、任意のフォルダ呼び出し、クリップボード200回分記録、引用符 付加・削除、画面キャプチャ、選択文字列でWeb検索、タスク切り替え、リネーム支援、付箋紙など。スタートアップに登録して常駐させておけば、デスクトップでもアプリやブラウザの上でもグローバルに、呼び出すことができる。
さらにタスクトレイのアイコンをクリックすることで詳細なメニューを表示させることができる。
インタフェースはポップアップメニューのみでわかりやすい。これはまさにデスクトップの万能ナイフというかんじ。とりあえず入れておくとよいと思う。
2007年11月24日
自分好みの音声アラート付きタイマーを作成できるTalkingTimer
・TalkingTimer
http://hp.vector.co.jp/authors/VA040286/#talkingtimer
音と人口音声で経過時間や残り時間を読み上げるタイマーソフト。
とても細かく読み上げ形式を設定できる。たとえば、30秒間隔で音が鳴って最後の10秒は毎秒音がする3分形をつくるには以下のように設定する。
「
【設定例・3分計】
(1) 残り時間チェックボックスをオンにします。
(2) 終了で「START押下時+」を撰び、「180」秒(または「3」分)と入力します。
(3) 「10」秒から1秒刻み、「180」秒から30秒刻みと入力し、それぞれの「音」チェックボックスをオンにします。
(4) 「開始/終了音」チェックボックスをオンにします。
(5) 最上部の設定コンボボックスに「3分計」と入力します。
(6) 「更新して閉じる」ボタンを押して設定ダイアログを終了します。
」
設定は設定画面上で選択する。上のサンプル画面は、私が自分のために作成した原稿を30分で書くとき用のタイマー。最初は10分刻み、残り10分から1分刻み、最後の1分間は秒刻みで残り時間が読み上げられる。
タイマーは画面の隅に小さく表示させることもできるので、デスクトップ作業の邪魔にならない。だらだらしたくない会議で使っても便利そうである。
2007年11月23日
選択した文字時列でURLを開くWorm
・Worm
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/net/se437960.html
MSIEで選択した文字列をURLとして新規ウィンドウで開くユーティリティ。2ちゃんねるなどでよく ttp://www.yahoo.com/ などというURL紹介が見られるが、そうした文字列からすぐにWebへ飛ぶことができる。「Kakaku.comを見ればわかるよ」のように文章内にドメイン名だけの文字列として登場した場合にも使える。
使い方はいたって簡単で、インストールすると、MSIEの右クリックメニューに「URLを開く」が追加される。個人的にはかなり便利であるが、使わない人はさっぱり意味がわからないだろう。いいのだ無理して使わなくて。
朝日新聞社のアサヒコムは、記事中でなぜか全角文字列・非ハイパーリンクでURLを紹介することが多いのだが、それにも対応してもらえるとさらに助かりそう。
2007年11月22日
神鳥―イビス
「夭逝した明治の日本画家・河野珠枝の「朱鷺飛来図」。死の直前に描かれたこの幻想画の、妖しい魅力に魅せられた女性イラストレーターとバイオレンス作家の男女コンビ。画に隠された謎を探りだそうと珠枝の足跡を追って佐渡から奥多摩へ。そして、ふたりが山中で遭遇したのは時空を超えた異形の恐怖世界だった。異色のホラー長編小説。」
直木賞作家 篠田 節子の93年の作品。
登場人物のキャラクターが俗っぽいため、シリアスな民俗ホラーには向かないんじゃないかと思いきや、後半の臨場感は半端ではなくて、コミカル要素はほどよい中和剤として作用している。ホラーとして傑作である。
呪われた日本画をめぐる怪奇がテーマだ。強烈な映像を見ると焼き付いてしまい、しつこくイメージが記憶から立ちあがってくるという体験はだれしもあるのではないか。視覚を通して何かに取り憑かれる、見たものに捉われて狂っていく恐怖はそんな普通の体験の延長線上にあるように思えてリアリティを感じた。
ところで「神鳥」と書いて「イビス」と読ませる根拠を調べていたら、もともとはイビスは太陽神を導く朱鷺の頭をしたエジプトの神だということがわかった。朱鷺というと絶滅寸前の保護動物という印象があるが、実物の写真を見てみると、何を考えているのかわからない顔がかなり怖いことに気がついた。
Wikipediaより画像引用
2007年11月21日
みんな、気持ちよかった!―人類10万年のセックス史
「身体という観点からみれば、オルガスムは男女いずれの性にとっても、パンツのなかでの一瞬の快感にすぎない。男女を平均したその長さは一回に十秒ほど。週一〜二回という性交の平均回数からして、大半の人は週にわずか二十秒、月にして一分かそこら、年に合計十二分のオルガスムを体験していることになる。性交可能とされる年数を限りなく楽観的にみて五十年とすると、われわれはそのあいだにおよそ十時間、マスターベーションにとりわけ熱心な人であればおそらく二十〜三十時間、オルガスムを楽しめると考えていい。」
かりに人生を70年とすると時間にして6000時間程度である。そのうちの、たった20〜30時間の快楽を追求して、人間は膨大な労力を投じる。誰とするかという性選択の積み重ねによって、人類は淘汰されて種として進化する。意識的にせよ無意識にせよ、性衝動に影響された人々の判断が歴史を動かしていく。
この本はひたすらセックスの話題によって、人類の10万年の歴史を物語る。セックスの普遍性とバリエーションの豊かさに驚かされる。古今東西のあらゆるところにセックスの話題が見つかる。
・孔子は五日に一度のセックスを推奨した
・342年、アナルセックスとオーラルセックスは非合法化された
・性欲を断つため、指を焼き落とした神学者たち
・エジプトのファラオは川に向かって自慰をした
・ポンペイの壁画に似こる生々しい3Pシーン
・帽子に女の陰毛を飾るロンドンのメンズファッション
・マリーアントワネットはあそこの「道が狭すぎた」
・宇宙空間で試された二十の体位
第二部の各章では古代から現代までを時代別に、歴史学、生物学、人類学、心理学、社会学的な観点での特徴がまとめられている。各時代のセックスに対する道徳的な位置づけや、性生活の実情、流行の技巧、性をめぐる事件など、トリビア的なトピックが大量に時系列で語られる。時代や社会によって変わるものと変わらないものがある。
たとえば「火はたちまち燃え上がるが、水によってたちまち消える。水は火にかけて温まるのに時間がかかるが、冷めるのもゆっくりだ」と紀元前11世紀の易経には書かれている。男=火、女=水として両性ののオルガスムの違いについて述べた部分だが、同様の分析が古代ギリシアにもあった。セックスが気持ちよいということと、気持ちよさの内容は古今東西を通じて不変であるようだ。
今の世界があるのは、男と女がオルガスムを追求して、ヤり続けたからであって、それ以外の原因ではないのだとも言える。セックスは、歴史を一本の線で結ぶことができるほとんど唯一の要素である。そう考えてみると、このセックス史というのは案外、正統な歴史の記述形なのだ。
2007年11月20日
針の上で天使は何人踊れるか―幻想と理性の中世・ルネサンス
中世の人々は現代人には信じがたい考えを平気で受け入れていた。
15世紀の教会裁判所は、作物を荒らした害虫に対して「この付近の人間の食物を浪費し、壊滅させたカブトムシよ、今からここを立ち退き、誰にも害を与えない土地に行くことを、汝に命ず」という裁きを大真面目にくだした。そして殺人罪で豚を絞首刑にした。リンゴに悪霊が取り憑いて不気味な音を鳴らすと信じた。魔女は空を飛び交い、悪魔は死者を蘇らせると恐れ、異端者を残酷なやり方で処刑した。
そうした行いの理由は、人々に知識や推論能力が不足していたからではなくて、そこには現代と異なる「常識」が前提としてあったからである。この本は歴史の中の奇妙な妄想を10章に渡って取り上げて、なぜ当時の人々はそれを真剣に信じたのかを分析する。
「毎日駆使している「一般常識」は実は多くの前提に支えられた複雑な事柄だった。そして、その前提は概ね私たちが生まれる前から存在していた通念から生じ、他の者から伝えられるのである。」
思考の土台、物の考え方である常識は、同時代の人間にとって常に所与のものとしてあらわれる。著者はこれを相対化して客観的に眺めるために有効な手法として、こうした迷信や妄想を信じた過去を振り返る。
「「奇妙な歴史」を学ぶことでも、この新鮮な視点が得られる。昔の理性的な人々が悪霊に取り憑かれたリンゴや、豚の死刑や、魔女や異端を信じていたのなら、現代の理性的な私たちの考えにも「奇妙さ」が潜んでいる可能性を考えるべきだろう。」
この奇妙さは同時代でも宗教や慣習が異なる社会の間で生じる問題だろう。たとえばアフリカで現在も数百万人に対して行われていると言われる女子割礼、インドの名誉殺人、そしてイスラムの神の名による宗教戦争。どれも日本人にとっては奇妙であるし、道徳的に認めがたいが、逆の立場では私たちの考えこそ奇妙にみえるのだろう。
「常識的な」判断は特定の社会に浸透している思考を反映するものであり、しばしば社会によって変わるものなのだ。社会に浸透している認識と一致していれば、その考え方は合理的だとみなされる。ある文化───たとえば、私たち自身の文化───において支配的な考え方が馴じみのあるものなら、その考え方に従った行動は、まず間違いなく道理にかなっていると見なされるだろう。逆に他の社会の思考についての理解が十分ではない場合、その思考に従って普通に行われた行為の多くは、馬鹿げていると思われやすいのだ。」
奇妙な迷信と妄想の歴史的な研究は、現行の常識や理性の普遍性を疑い相対化していく。中世ヨーロッパにおいて、キリスト教と人々の常識がどのように相互作用して形成されていったかがよくわかる。そしてそれは現代にも外挿できる理論であることに気がつかされる。とてもスリリングな、常識の解体新書。
2007年11月19日
二千日回峰行 新装改訂版―大阿闍梨酒井雄哉の世界
迫力のある写真集。
比叡山の千日回峰行は、比叡の山を毎日30キロから40キロ巡って礼拝する行である。期間は延べ1000日(7年間)に渡る。回峰700日目では9日間の断食、断眠、不臥で祈り続ける「堂入り」という医学的には生存が危うい難行もある。晴れて千日回峰を達成した行者は「大阿闍梨」と呼ばれ、生き仏として崇められる。
千日回峰行には厳しい掟がある。もしも途中で修行が続けられなくなったら死なねばならない。そのために行者は短刀を持ち歩いている。7年間の間に怪我や病気で歩けなくなったらそれを使って自害する覚悟なのである。
酒井雄哉大阿闍梨は、驚くべきことに昭和の終わりに連続2回もこの千日回峰行を達成している。千日回峰はこの400年間で46人が満行しているが、二千日満行はたったの3人しかいないのである。
この本は千日回峰中の大阿闍梨を数年間に渡って撮影した写真集。
「昔流の言葉で言えば、行はわしの人生の最後の砦だからね。勉強してもだめ。仕事やってもだめ。何をやっても人間失格で、最後にたどりついたのが、お山での行だから。その砦を守れるかどうかは、自分が捨て身になって、全力投球しなくちゃならんということやね。」
大阿闍梨の言葉や千日回峰行の解説もあるが、いくら読んでも言葉だけでは理解できない部分がある。なぜ死を覚悟で厳しい修行に臨むのか。日々何を思いながら続けていたのか。独り山を歩き、仏に祈る大阿闍梨の写真は、それを理屈でなくわかったような気にさせてくれる迫力がある。
・酒井雄哉のホームページ
http://www.sakai-yusai.com/
そして公式ホームページがあるというのもすごい。
2007年11月18日
クリップボードの画像を自動で保存するKoClip
・KoClip
http://members2.tsukaeru.net/tikomo/
たまに知らない人がいるので書いておくと、Windowsのキーボードで"PrintScreen"を押すと画面全体がキャプチャされてクリップボードに入る。"Alt+PrintScreen"を押すとアクティブになっているウィンドウがキャプチャされる。Paintなどの画像編集ソフトを開いて「貼り付け」で中身を確認できる。
こうしてクリップボードに画像が入力されると自動的にファイルとして保存する常駐ユーティリティ。指定したディレクトリへ、指定したファイル形式と命名規則でファイル名をつけて、次々に保存していく。Webで気になった画像を右クリックからコピーしたり、PrintScreenでデスクトップを記録できる。
プレゼン用にサイトのキャプチャをいっぱい作りたい、あとから、どれを使うかは選びたいなんていう場合には、このソフトで大量に画面キャプチャを保存しておいて、写真アルバムソフトなどで一覧選択すると、作業が便利になる。
特徴
・保存形式をJpeg、Bitmap、Pngから選択できます。
・確認のため画像保存時ビープ、wavファイルを鳴らします。
・保存ファイル名、保存先ディレクトリを指定できます。
・その都度保存ファイル名を指定して保存することも出来ます。
2007年11月17日
卓上液晶タイやヒラメの舞踊り PRIVATE OCEAN
・PRIVATE OCEAN
アマゾンに映像がある。
予約していたのが届いた。PRIVATE OCEANは卓上における液晶ミニ水族館。
320×240ドットの液晶の中に海洋が広がっていて、100種類の魚が泳ぎまわっている。この世界には海上、海中×3、深層×3の合計7つのエリアがあって、方向ボタンを押すと表示領域を移動させることができる。自動巡回モードになっていれば、ゆっくりとスクロールで巡回が行われる。
上部の決定ボタンをおすと現在時刻が表示される。
・時計表示機能
width="280" height="280" border="0" />
時間帯によって海上は夕焼けになったり、水中では泳ぐ魚の種類が変化する。泳ぎ回る海洋生物は、3Dレンダリングモデルのモーションデータをシルエットで再現している。波の音、泡の音、クジラの鳴き声などのサウンドも流れる。前面のセンサーバーを押すと魚を驚かせることができる。
・時間帯に応じて変化する魚種、光の色
width="280" height="280" border="0" />
そして、MP3プレイヤーなどの音源を音声入力ケーブルで接続すると、楽曲にあわせてタイやヒラメやその他大勢の舞い踊りが見られる。曲調に応じて魚種やダンスのスタイルが変わる。
夜中に電気を消して、音楽を流しながら、魚の踊りを鑑賞する。魚種が100種類もあり、小型から大型、深海魚やリュウグウノツカイのような珍しい魚まで、長時間観賞していても飽きないのが特徴。スピーカーの質はあまりよくないのが残念だが、最近、毎晩のように家族で電気を消して鑑賞中。
・Private Ocean 自宅で眺めるプライベートリゾート
http://www.segatoys.co.jp/private_ocean/index.html
セガトイズのオフィシャルサイト
2007年11月16日
テキストで使われている文字を分析する文章見直し支援ソフト TextChecker
・TextChecker
http://hp.vector.co.jp/authors/VA040286/textchecker/
TextCheckerはユニークな”文章見直し”支援ソフト。原文タブにテキストを入力すると、誤字脱字の校正をしてくれるのではなくて、以下のような統計的な分析を行ってくれる。
・文字種別 … 文章内で使用されている文字の種別(ひらがな、漢字等)毎の数
・登録語句 … あらかじめ登録した語句の出現数
・文章1 … 文や段落数、連続した文字の数
・文章2 … 文章1を地文と台詞文別にしたもの
・文頭文末音 … 文頭、文末に使用されているひらがな音の統計
・文頭文末統計 … 文頭、文末語句統計
このほかにも、ひらがな、かたかな、漢字の比率や、段落別の文字数、文字種ごとに連続数の最大最小平均、文頭音、文末音など多数の数値がわかる。自分が普段書いている文章と文豪の文章を比較したりすると、面白い文体研究ができそうである。
検索、置換、印刷など一般的なテキストエディタの機能のほかに原稿用紙に表示したり音声読み上げをする機能もある。
2007年11月15日
Flickrの写真を時系列で走馬灯のようにスライドショー x-TimeLine
・Flickrの写真を時系列で走馬灯のようにスライドショー x-TimeLine
http://www.jp.sonystyle.com/Special/Softwarestyle/
x-TimeLineはFlickrにある写真を撮影日時順で表示するソフトウェア。縮尺自在の年表画面上に、指定したユーザー、タグ、キーワードに該当する写真が表示されて次々に撮影日時順の写真が左から右へ流れていく。あまり写真を撮らなかった時期は自動的に早送りになるので、大量の写真を効率的に見ることができる。いつ撮影した写真なのかが一目瞭然であり、前後関係もわかる。
複数のユーザーやキーワードの写真を上下に分割していくつも並べて表示させることができるのが素晴らしい。この機能を使うと、たとえば同じイベントに参加したユーザー同士が、同じ時刻にどんな写真を撮影していたかを見ることができる。立体的に思い出を再生している感じがする。
Flickrの写真だけではなく、パソコンのハードディスク内の写真データももちろん表示させることができる。Flickrを使っていない人も、撮影地やイベント名をキーワードにしてFlickrユーザーの写真と自分の写真を並べて楽しむことができる。
ソニー製品に搭載される機能のデモンストレーション。
2007年11月14日
ヨーロッパをさすらう異形の物語 上・下―中世の幻想・神話・伝説
・ヨーロッパをさすらう異形の物語 上―中世の幻想・神話・伝説
・ヨーロッパをさすらう異形の物語 下―中世の幻想・神話・伝説
伝説・神話好きにはたまらない内容。
中世ヨーロッパの伝説が解説つきで24編が収録されている。一部が童話として変形して伝わった以外は、日本ではあまり知られていない話が多いように思う。海外の人が、桃太郎や金太郎、一寸法師や海幸山幸のような昔話をよく知らないのと一緒だろう。知っていれば、異文化の文学や創作を深く味わうことにつながる。
上巻:
さまよえるユダヤ人―永遠という罰の重み
プレスター・ジョン―朗報かそれとも悪い報せか
占い棒(ダウジング)―なんでも見つけ出す魔法の棒
エペソスの眠れる七聖人―復活する死者
ウィリアム・テル―本当はいなかった弓の名手
忠犬ゲラート―命の恩人は動物だった
尻尾の生えた人間―「よけいなもの」か「必要なもの」か
反キリストと女教皇ヨハンナ―悪しき者たちへの恐怖と期待
月のなかの男―いまもそこにいる理由
ヴィーナスの山―戻ってきた者はひとりしかいない
聖パトリックの煉獄―足を踏み入れた者たちの証言
地上の楽園―それはどこにあるのか
聖ゲオルギオス―残酷な拷問とドラゴン退治
下巻:
聖ウルスラと一万一千の乙女―偽りだらけのくだらなくて愚かな物語
聖十字架伝説―けたはずれの創造力
シャミル―虫や石に宿る謎めいた力
ハーメルンの笛吹き男―誰もが知っている伝説の正体は?
ハットー司教―ネズミに食い尽くされた強欲の司教
メリュジーヌ―裏切りは別れを招く
幸福の島―聖なる場所は西にある
白鳥乙女―詩人に愛された美しい鳥
白鳥の騎士―素性をたずねてはならない
サングリアル(聖杯)―聖なる器の伝説
テオフィロス―悪魔と契約した司祭
聖プレスター・ジョンは大学受験の世界史で先生が、試験にはでないかもしれないが、と前置きして話してくれたのを覚えている。
中世ヨーロッパの十字軍は、イスラム教徒との戦いが苦戦する中で、ひとつの伝説を信じていた。東方に聖ヨハネの血をひく君主プレスター・ジョンが統治するキリスト教国家があるという「聖プレスター・ジョン」の伝説である。この偉大な君主が、この戦いに強力な援軍にさしむけてくれることを願った。ローマ教皇はプレスター・ジョンあての手紙を使者に持たせて派遣した。マルコポーロもこの伝説を信じて東方へ渡ったし、大航海時代のきっかけのひとつになったともいわれる。伝説が歴史を動かしてしまったわけだ。
ネオアトラスという名作ゲームを思い出した。実は最近PS3でもネットワーク経由でダウンロード販売されているので、懐かしくて、買ってしまった。まだ未探査の世界の噂を集めて、どの噂を信じるかで世界地図が変わっていくという仕組み。
何を信じるかで世界が変わるというのは、人間の同時代史において、案外、本質なのではあるまいか。荒唐無稽に思えるこれらの伝説が真実味を帯びていた世界を想像しながら読むと、もうひとつの世界史が見えてくるような気がする。
2007年11月13日
過去16年間の天気を確認できるビジュアルお天気メモリ
・過去16年間の天気を確認できるビジュアルお天気メモリ
http://www.vector.co.jp/soft/win95/edu/se275660.html
過去16年間の全国各地の気象情報を検索できるデータベースアプリケーション。
作者の開発動機が説明テキストにあった。
「 私がこのソフトを開発しようと思いたったのは、それは町内会の子供会の会長(育成部長)を2期にわたり引き受けたことがきっかけでした。子供会の行事は1年間を通して数が多く、廃品回収年4回、七夕・花火大会、秋の子供神輿等々があり、それは戸外でのお天気にかかわる行事なので、天気は重要な要素でした。そして、その行事すべてを4月中に日程を決めておく必要がありました。そのような訳で、季節の移り変わりのような大まかな傾向でも把握したいというのが、このソフト開発の動機でした。」
普通の天気予報は1週間や2週間先くらいまでであるし、その先になれば確度はかなり低くなる。数週間以上の未来の天気を知りたい場合には、過去の同じ時期に統計的にはどんな天気だったかを調べた方が賢い。上のサンプル画面は過去の元日の天気である。
このソフトは日付を入れるだけで過去の同日の天気を詳しく調べることができる。過去16年間を表示するモードや、その日の前後4日間を表示するモード、3地点を比較するモードなどが用意されている。エルニーニョ、ラニーニャ現象も確認できる。
印刷機能もあるので、企画会議の資料作成にも使えそうである。趣味に、仕事に活用できそう。
機能は下記のとおり。
・過去16年間の、天気概況、最高・最低気温の確認機能
・3地点比較モード (設定した地域を記憶する機能搭載)
・4日連続表示モード(一度に11年間分を表示)
・20年間表示モード(一度に16年間分を表示)
・自動表示モード
・日照時間表示モード
・日照時間・降水・降雪・積雪表示モード
・日照時間・降水・降雪・積雪(詳細表示)
・ミニ画面表示機能
・エルニーニョ、ラニーニャ期間のビジュアル表示機能
・地図表示機能
・欠測データの確認一覧機能
・スタートアップ時表示地域の任意設定機能
・各種画面印刷機能
・自動表示モード時の、間隔時間設定
・ランタイム機能によるデータベース接続
2007年11月12日
反転―闇社会の守護神と呼ばれて
苦学して成った特捜の検事から、政財界と裏社会の守護神弁護士への転身、自家用ヘリ(7億円)で故郷へ凱旋し湯水のごとくカネをばらまいたバブル時代の華麗な生活、そして裏社会との濃すぎるつながりは古巣の特捜部ににらまれ、逮捕と実刑判決をくらう。著者の体験した劇的な反転人生を語った自伝。
古巣の体制の腐敗を暴露し日本社会の闇を暴く内容として、佐藤優の名著「国家の罠」に匹敵する大傑作である。
依頼人や交友関係として出てくる人物の名前が凄い。許永中、中岡信栄、末野謙一、卓見勝、阿部新太郎、佐川清、伊藤寿永光、竹下登、阿部新太郎、高橋治則、小谷光浩、渡辺芳則、山口敏夫.......。あの筋、この筋よくここまでつながったものだと関心するが著者いわく「この国は、エスタブリッシュメントとアウトローの双方が見えない部分で絡み合い、動いている」から、こうなったそうである。
権力ににらまれて詐欺罪で立件されての転落は、ポリシーをもって仕事をしてきた結果であると一貫して主張している。弁護士は犯罪者の弁護をすることが仕事であり、自身にやましい部分はないといって現在も上告中である。かつて佐藤優は自分の逮捕は国策捜査だと反論したが、検事出身の著者はこう達観している。
「最近、「国策捜査」という検察批判がよくなされるが、そもそも基本的に検察の捜査方針はすべて国策によるものである。換言すれば、現体制との混乱を避け、ときの権力構造を維持するための捜査ともいえる。だから平和相銀事件や三菱重工CB事件のような中途半端な結末に終わることが多い。本格的に捜査に突入すれば、自民党政権や中曽根派が崩壊したり、日本のトップ企業である三菱重工が傷を負う恐れのあるような事件は、極端に嫌う」。
そこで表も裏もないパワーゲームの世界では中途半端な悪はつぶされるが、勝ち組権力と結びついた巨悪は栄えるという現実を見ることになる。著者はこのゲームに負けた敗軍の将という立場で読者に語りかけている。
検察エリート街道の華々しさ、闇に暗躍したフィクサーたちの素顔、バブル紳士たちの豪遊ぶり、裏社会のトップたちの壮絶な生き様など、まず普通の人生を歩んでいる限りでは、知ることがない世界を生々しい記述で読むことができるのが魅力である。文章もうまいので文字通り私にとって徹夜本になってしまった。
「国家の罠」のファンには特におすすめである。
・国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004269.html
2007年11月11日
写真を指定色だけを残して白黒化するTint Photo Editor
・Tint Photo Editor
http://www.indii.org/software/tint/download
白黒の背景に一色だけ鮮やかなカラーの個所があって強い印象を残す視覚効果をつくりだす画像加工ソフト。画像を読み込ませると自動的に色の分析が行われて、色別のレイヤーに分割される。いくつの色に分けたいかなどはユーザが指定することが可能。
上の写真の加工結果はこんな感じになる。もともと色数は少なそうだったので2つのレイヤーに分割して、ピンクだけを残してみた。
俺たちのガンダム・ビジネス
ガンダムのプラモデルはいかにして生まれたのか。
30代から40代でガンプラファンならば、懐かしいエピソードとカラー写真も満載でページをめくるのが本当に楽しい本である。バンダイ模型の元社員で、ガンプラブームの仕掛け人と設計者の二人が、ガンプラ絶頂の栄光の日々を振り返る。
以前にも書いたが、私も小学校時代にかなりのガンプラ・ファンだった。
・ガンダム・モデル進化論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003091.html
この本はデータブックとしてもよかった。
・機動戦士ガンダム THE ORIGIN、MGアッガイ、ターゲット イン サイト
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004854.html
そして今年の正月にはアッガイをつくった。
テレビ放送の「機動戦士ガンダム」は当初は不人気だったことはよく知られている。しかし、実際の番組を見てヒットの可能性を予感した二人は、当時は競合他社がおさえていた版権の獲得に乗り出し成功する。半信半疑の設計開発。そして視聴率低迷で番組打ち切りになった半年後にガンプラの第1弾が発売された。当時キャラクターものとして異例の144分の1、100分の1という統一スケールを採用した。
「万人向け」にとらわれず、投書や電話をしてくるマニアの意見を丁寧に聞いて、短期間で製品にフィードバックする。たとえば足首が動かなかったザクを出荷分のモデルでは動くようにする。当初はなかったビームサーベルのおまけをつけるなど、マイナーチェンジにもこだわった。
ファンの熱い支持により、それまでの業界の常識では考えられないほどの大ヒットとなり、現在までにシリーズは900点に及ぶモデルを発売してきた。世界的に見てもプラモデルのここまでのヒットは例がないようである。
「好きな仕事をしているからヒット商品が生まれるのではない。その仕事を好きになるほど熱中しているからこそヒット商品は生まれるのである。」その後のビジネスで経営者として成功を収めた著者の二人は、当時を振り返って、そう成功哲学を総括している。
2007年11月10日
Flickrのコミュニティ活動を支援するgratepic
・Flickrのコミュニティ活動を支援するgratepic
http://gratepic.sourceforge.net/
写真共有サイトのFlickrには無数のコミュニティがある。私も今回、数えてみたら167ものコミュニティに参加していた。毎月何十枚かをコミュニティに投稿している。そういうアクティブにコミュニティ活動をしているユーザにおすすめなのがこの支援ツール。Flickrでの投稿、コメント、レイティングを便利にする。
たとえばコミュニティ別に専用のコメント定型文を登録しておける。グループのルールで決められたinvite用のHTMLコードなどを登録しておけば、コメントに集中できる。1グループあたり5種類まで登録が可能。inviteが楽になれば、1Post,3Comments式のルールのグループでも積極的に参加できる。
参加中のグループをキーワードで整理する機能もある。たとえば花の写真に関心があるなら「Pink Flowers」「Blue Flowers」「yellow Flowers」「Flower-Power」などの同系列コミュニティに同時参加しているものである。同系列の写真を連続してみたり、テーマが合う複数グループにクロスポストしようと思ったときに、このキーワード整理機能が役に立つ。Post時にキーワードで選択した複数グループに一括投稿ができる。
写真のビューアソフトとしても一覧性が高く、Webと比べたら軽快に動作するので、ただ見て回るときにも十分に便利である。Recent Activityも並列表示させられるので”お礼回り”をしたいときにも効率的に回れる。
2007年11月09日
アルファブロガー・アワード2007 投票開始と私の推薦ブログ
・アルファブロガー・アワード
http://alphabloggers.com/
4年目をむかえたブログの人気投票 アルファブロガー・アワードが今年も開催されます。最初の2004年版アワードでこのブログも、読者の皆さんからの支持によって、アルファブロガーに選んでいただきました。このアワードリストに入ると、日本の代表的で典型的なブロガーとしてメディアに取材、紹介される機会が増えます。これまで随分いろいろなチャンスをいただきました。
・開催趣旨
http://alphabloggers.com/about/授賞式パーティのイベント参加受付もあります。私も申し込みました。
今年もたくさんの候補サイトがリストに挙がっています。
皆さんの愛読サイトが見つかったらぜひ投票をしてください。
今年は新たなブログを発掘するために、以前の受賞者たちがノミネートサイトを提案してほしいと主催者から言われました。そこで私は以下の3つのサイトを推薦サイトにあげました。どれもとてもおすすめです。
・安藤日記
http://alphabloggers.com/nominee_2007/gadget/yukioandoh.html
デジタルで新しくて面白いものがみつかるブログ。雑誌Software Designの連載「デジタルガジェット」の著者である安藤幸央氏の日記。
・f/x [エフエックス] ITメディア・タンク
http://alphabloggers.com/nominee_2007/media_ad/fxit.html
IT系出版業界の最新事情、裏事情がまるわかり。創刊、休刊、廃刊、リニューアル情報など。業界への愛情が感じられるのもよいと思う理由。
・ダカフェ日記
http://alphabloggers.com/nominee_2007/life_style/dacafe.html
家族のスナップ写真に短いコメントをつけて公開。ありふれた日常の中にも、こんなに絵になる瞬間が隠されているのだなあと日々、感心、感動。
・アルファブロガー 11人の人気ブロガーが語る成功するウェブログの秘訣とインターネットのこれから
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003916.html
2007年11月08日
そろそろ本気で継続力をモノにする!
ジョギング、早起き、筋トレ、ダイエット、貯金、ブログ、試験勉強、楽器、英会話など習慣を長く続ける秘訣を、仕事術の研究家でブログ「シゴタノ!」著者の大橋悦夫氏が本にまとめた。脱3日坊主のしかけ満載。
人が習慣化したい物事には、
1 続ける系 早起き、ジョギング、歯磨きなど
2 ためる系 家計簿、ダイエット、ブログなど
3 マスター系 英会話、資格試験、楽器など
の3タイプがあると分類し、それぞれ「例外魔人」「不安小僧」「スランプ仙人」という大敵がいるという。各タイプに応じた傾向と対策が解説されている。要は「やる気の問題」は「しくみの問題」だということである。
私は飽きっぽい性格なので毎日同じことを継続するのが苦手だ。だから、このブログが4年以上も毎日続いているのは自分でも意外である。これに関しては、がんばっている意識はなくて、ただ楽しく続いている。あらゆる物事がこんな風に継続できたらいいのにと思う。
この本で付箋を貼った箇所に、
「毎日必ずする行動に付属させる」
「毎日必ず触れるものを利用する」
「アクションをルーチンに落とし込む」
という太文字箇所があった。とても共感した。
このブログの習慣が続いているのは、
1 通勤電車に乗ったら読書をする
2 寝る前にブログを書く
3 駅近くで時間があったら本屋に行く
という毎日の日課と連動しているからだ。
「毎日必ず触れるもの」として付箋がある。付箋は常に100枚以上をスーツのポケットかカバンにいれて携帯している。読書時に少しでも気になる箇所があれば貼る。付箋を貼った本を机の上に積んでおくと、ブログ執筆に着手しやすい。
この調子でやりたいこと全部を習慣化できればよいのだが、新規のしくみづくりは大変なわけである。この本のタイプ別のノウハウと多数のツールリストは、継続のしくみ設計の部品として大いに参考になりそうであった。
たとえば、ツールのひとつとして紹介されていた朝時間.JPは素晴らしいと思った。
・朝時間.jp
http://www.asajikan.jp/community/sengen/asa.cgi/pickup.html
1 朝、今日一日をどう過ごしたいかを、”ひとこと宣言”として入力する
2 翌朝「どうだった?」がメールで届く
3 ふりかえり日記を舞いページでつける
4 繰り返すと毎日がいきいき
というサービスで、他のユーザの宣言や達成度も見ることができる。朝という時間帯もポジティブで継続の力になりそうだ。
2007年11月07日
ステータス症候群―社会格差という病
これは抜群に面白い社会学研究。
世界中で社会格差と人々の健康には明らかな相関があることがデータで示されている。貧しい階層よりもお金持ちの階層のほうが病気をせずに長生きする。両極の中間層では階層があがるにつれて確実に健康状態がよくなっていく勾配が見られる。さらに学歴や社会的地位や身長で人々を比べてもほぼ同様の結果になる。高いほど健康なのだ。これがステータス症候群である。
なぜ社会格差は健康格差につながるのかがこの本のテーマである。
所得と健康の関係は一見、当たり前のようにみえる。健康ならば働けるので高所得になりやすい。お金があればよい生活ができて医者にもかかれるから、なおさら健康になる。逆に不健康ならば働くことができず、一層貧しくなる。医者にもかかれないから健康は悪化する。そういうことなのではないか?。実は問題はそう簡単ではなかった。
著者は長年にわたってステータス症候群を研究してきた第一人者。20年に及ぶ英国公務員を対象とする「ホワイトホール研究」などの実績で知られる英国政府のアドバイザ。公務員はヒエラルキーが明確なので分析しやすい対象なのだ。そこで明らかにされた健康格差はシビアなものだった。40-64歳の男性では、職場の階層構造の底辺にいる人は、同じ階層のトップにいる人の4倍も死亡率が高かった。
だがこれは英国の公務員だけの話ではないのだ。私たちの社会の、おどろくほど広範にわたって、階層が上の人と下の人では死亡率がちがうことを示す事例が多数紹介されている。階層が上の人ほど明らかに長生きでき、下の人は癌や心臓病で死にやすいという、厳しい現実が隠れていた。
国際比較をしてみると米国の平均寿命はイスラエル、ギリシア、マルタ、ニュージーランドよりも短い。平均所得では米国はそれらの国よりもずっと上にあるにもかかわらずだ。よく考えてみると、普通の生活ができる以上の所得増が、必ずしも健康改善に直結するとは思えない。すべての階層でまっすぐ上昇する健康度の勾配の原因は、所得の絶対額が問題ではないことがわかる。
著者は科学的な調査の結果、社会階層における相対的地位が健康にとって最も重要な要素であるという事実を発見する。相対的な社会的地位は、自尊心や幸福感に強く影響し、ストレスの量も左右する。「自分自身の人生全般をコントロールできるという意味での自律性があることと、有意義な社会参加への機会があること」が、健康に顕著な影響を与えていると結論する。その改善に必要な施策も提言している。
めずらしく意味のある格差を扱った本と出会った。読み応えたっぷりの内容。
2007年11月06日
日本語の源流を求めて
日本語タミル語起源説の大野晋が研究の集大成を一般人向けに平易にまとめた新書。
「北九州の縄文人はタミルから到来した水田耕作・鉄・機織の三大文明に直面し、それを受け入れると共に、タミル語の単語と文法とを学びとっていった。その結果、タミル語と対応する単語を多く含むヤマトコトバが生じたのである。」
日本語とタミル語は文法も単語も共通点が非常に多い。物の名前が同じというだけならば、そういうこともあるかなというレベルなのだが、「やさしい」「たのしい」「かわいい」「にこにこ」「やさしい」「さびしい」「かなしい」などの感情を表す言葉までほぼ同じなのである。
さらには日本的情緒の代表格「あはれ」までタミル語に同義でみつかるのだ。五七五七七の韻律を持つ詩もタミル語にある。日本固有と感じられるものが実は南インドからの伝来のものであったというのは衝撃である。
たんぼ、あぜ、うね、はたけ、あは、こめ、ぬか、かゆなどの水田耕作に関係する設備や労働の呼び方も共通している。著者の現地調査によれば、似ているのは言葉だけでなく風俗習慣もまたそうであった。タミルには注連縄や門松まである。
7000キロ離れた南インドから、紀元前1000年頃、タミル語は日本に海路で上陸し、それまでの縄文の言語と融合したという。「タミルと日本とその二つの言語が接触し、文明の力の差によってヤマト民族が文明的に強かったタミル語の単語五〇〇(私の調べた限り)を自己流の発音で覚え、さらに文法も覚え、五七五七七の歌の韻律や係り結びなどまで取り込んだ。」
遠く離れた二つの言語で偶然ここまで単語や文法、背景の文化が一致するとは考えにくい。日本語研究において、タミル語起源説は比較的新しい学説のひとつに過ぎないが、この本にでてくる多数の共通点の例示を見ると、かなり確度の高い説なのではないかと思えてくる。
著者は今年で御年88歳。「私は日本語の過去を振り返り、文献以前の日本語を求めようと努めたが、それにはおよそ一生を要した」と最後に書いている。この本は学者が生涯をかけた研究の最終章ダイジェストなのである。
・日本人の神
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003868.html
2007年11月05日
吾輩は天皇なり―熊沢天皇事件
戦後の混乱で天皇の地位が一瞬揺らいだとき、「南朝の末裔である我こそが真の天皇である」などと主張する、なんちゃって「テンノウ」たちが乱立した。その中で最も有名な人物、熊沢天皇こと熊沢寛道の奇矯な半生を追う。この自称天皇は昭和天皇をニセモノとして裁判所に訴え、皇位の返還せよという勧告状を送り、北朝の天皇と同じように地方を「巡幸」してみせた。マスメディアもネタとして取り上げることが多かった、「時の人」であった。
山師、詐欺師の跳梁跋扈する時代であったが、この熊沢天皇は根っからの詐欺師というわけではなかったようだ。本気で自身の正統性を信じていたらしい。取り巻きはそれを利用した。熊沢寛道が本当に南朝の末裔なのかどうかは実際にはよくわからない。そもそも血がつながっているかどうか、と天皇としての正統性は関係がないという意見もある。
裁判所は熊沢の抗告をこう言って却下した。
「天皇であることが、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴なのであるから、現に皇室典範の定めるところにより、皇位にある天皇が、他のいかなる理由かにおいてその象徴たる適格がないかどうか、というようなことを云々する余地は全くないものといわなければならない」
当時の新聞に熊沢天皇問題について大宅壮一は次のように述べた。
「血のつながりをたどっていけば、すべての日本人がどこかで皇室につながっていることになる。”1億総天皇家”ともいえよう。問題は、血のつながりを世間が承認しているかどうか、というよりも、それにふさわしい地位権力を保持してきたか、今もつながっているかどうかということにかかっている」
つまり、天皇であることはその資格があるか云々の話ではなく、現に天皇であるから天皇であるということなのだ。熊沢天皇の滑稽さは、相手方が決めたルールで自身の正統性を訴えるしかなかったこと、そのルールさえ近代になって作られた神話に過ぎなかったことにある。
「寛道もまた、天皇を万世一系の現人神とし、その現人神である天皇をトップにいただいて臣民が一家をなすのが神代以来の日本の国柄であり国体だとする。明治以来の巧妙な洗脳教育が生んだ”作品”のひとつにほかならなかった。」
「寛道らの運動を成り立たせているもの、それは明治以降の政府がつくりだした「万世一系」という虚構にほかならない。彼らは後南朝というフィクションにとりこまれたのではなく、実は万世一系の現人神天皇という、権力者側がつくりだした虚妄の神話にとりこまれ、その妄想世界を、戦後になっても、ただひたすらさまよいつづけたのである。」
現代日本でも、つい最近、女系天皇の可否を議論する際に万世一系が重要時として取り上げられてきた。万世一系はそれほどまでに強力に国民に浸透した神話であり、その土壌のなかから色物としての熊沢天皇らが生まれてきた。しかし、この神話を本当に巧妙に利用してきたのは、この国を動かす権力者たちであったということを、著者は指摘する。
熊沢天皇という戦後の仇花の奇人伝に終わらず、今も続く天皇の権威の正体に迫る濃い内容に驚いた。新書だが相当読み応えがある。
2007年11月04日
ヤフオクで同時に複数の取引をする人を支援する 落札ナビゲータ
ヤフーオークションの落札を管理するツール。
ヤフオクで同時にいくつもの商品を落札していると、各取引が、
1 住所を連絡する
2 支払いをする
3 商品を受取る
4 評価をする
のどのプロセスにあるかを把握できなくなってしまうことがある。基本的にはヤフオク内の「取引ナビ」で管理するわけだが、出品者とのやり取りは自分でマニュアル管理しなければならない。うっかり入金ミスをすると、悪い評価がついてしまうかもしれないので、重要な作業である。
落札ナビゲータは、ヤフオクのIDとパスワードを登録することで、自動的に落札一覧と取引ナビの内容をソフトウェアに取り込み、一覧表示する。ユーザは現在の取引の進み具合をフラグとしてマークする。
取引ナビでは住所連絡や支払完了しました、受取ました連絡などの定型文を登録しておき、返信することもできる。これで記入漏れが防げそうである。
2007年11月03日
CSVデータを罫線文字の表に変換する CSV2Table
・CSV2Table
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/util/se438375.html
取扱製品リストや部門ごとの営業成績、都道府県別の状況など、ちょっとした表をメールの中で使いたいことがある。しかし、罫線文字(┏ ━ ┓)を使って表を描くのは結構面倒な作業である。それを自動化するツールがCSV2Tableである。
たとえば
「
1月 正月 酒が飲めぞ
2月 豆まき 酒が飲めるぞ
3月 ひな祭り 酒が飲めるぞ
4月 花見 酒が飲めるぞ
5月 子供の日 酒が飲めるぞ
6月 田植え 酒が飲めるぞ
7月 七夕 酒が飲めるぞ
8月 暑いから 酒が飲めるぞ
9月 台風 酒が飲めるぞ
10月 運動会 酒がめるぞ
11月 何でもないけど 酒が飲めるぞ
12月 ドサクサ 酒が飲めるぞ
」
というようなタブ区切りのファイル(カンマ区切りでも可)を読みこませると、上のサンプル画面のように文字による罫線つきの表に変換してくれる。
表のタイプも以下のように選択できる。
2007年11月02日
”あ!”な感じの劇的効果を画像に加える集中線メーカープレーン味
・集中線メーカープレーン味
http://www.vector.co.jp/soft/winnt/art/se400876.html
集中線メーカーは、その名の通り、集中線を描くためのアプリケーションである。空の状態で集中線だけを描くこともできるが、面白いのは既存の画像の上に中心線を合成する使い方である。bmp、jpg、gif、mag形式の画像を読み込むことができ、保存はbmp形式のみ対応している。
好きな画像を読み込んだら集中線の中心点にしたい場所をマウスでクリックする。線のデザインは、線の数、線の太さ、内円の半径、外円の半径、長さバラつき、線の色、背景の色を数値でカスタマイズすることができる。
いろいろ試してみたが簡単に”あ!”な感じの効果を与えることができる。
集中線がこんなに面白い効果をうむとは発見である。
特に人物に注目させるときに劇的効果をうむことがわかった。作例をふたつ。
・あ!
・結婚おめでとう!(内輪ネタです。)
2007年11月01日
カフカ短篇集
カフカの「掟の門」は、ほんの数ページの作品なのに、強烈に印象に残り、何度も反芻しながら、意味を考えさせられる。読書会でも開いたら何時間でも討論できそうである。
「掟の門」。男がいる。彼は「掟の門」の前で、大男の番人に阻まれ入ることができずにいる。「いまはだめだ」と言われ続けて、男は長い年月、門番が入ることを許してくれるのを待ち続けた。そして年をとって命が尽きはてようとしている。
「「この永い年月のあいだ、どうして私以外の誰ひとり、中に入れてくれといって来なかったのです?」いのちの火が消えかけていた。うすれていく意識を呼びもどすかのように門番がどなった。「ほかの誰ひとり、ここには入れない。この門は、おまえひとりのためのものだった。さあ、もうおれは行く。ここを閉めるぞ」」
そこから人生の教訓のような普遍的なものを読み取ることができるし、カフカの時代の社会や政治背景と紐づけて何かを読むこともできる。フロイト流の精神分析論を展開することもできる。カフカは生前にほとんどの作品を公開することなく逝った作家なので、何が著者の意図だったのかは確定できない。この多義性と不確定性がカフカの不条理の面白さなのだなあと改めて思った。
この短編集の収録作品では「掟の門」「橋」がおそらく一般的な人気作品だと思うが、私が一番好きなのは「こま」だ。たった2ページ、1シーンだけの超短編だ。ある哲学者が子供たちの回すこまをじっとみている。回っているこまをつかもうとする。
「つまり彼は信じていたのだ。たとえば、回転しているこまのようなささやかなものを認識すれば、大いなるものを認識したのと同じである。彼は大問題とはかかわらなかった。不経済に思えたからである。ほんのちょっとしたささやかなものでも、それを確実に認識すれば、すべてを認識したにひとしい。」
ここを読んでいて、電車をひと駅乗り過ごしてしまった。
超短編が多いので、移動や休み時間に読みやすい。
「火夫」は珍しくドラマチックな展開をする。「万里の長城」は政治や経営の哲学考察として読める。
【収録作品】
掟の門
判決
田舎医者
雑種
流刑地にて
父の気がかり
狩人グラフス
火夫
夢
バケツの騎士
夜に
中年のひとり者ブルームフェルト
こま
橋
町の紋章
禿鷹
人魚の沈黙
プロメテウス
喩えについて
万里の長城