2006年11月29日

孔子伝

・孔子伝
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先日96歳で他界された漢学研究の白川静著。

孔子とキリストには共通点がある。幼少時代が不明であること。中年になってから大成したこと。活躍した時間は短かったこと。弟子を率いて諸国を流浪したこと。世俗的な意味での成功とは無縁であったこと。本人の書いたものはほとんどなく、その教えは、弟子たちが後世に教典にまとめたもののみであること(「論語」と「聖書」)、など。

しかし、一般には、キリストが宗教者という印象が強いのに対して、孔子は思想家・哲学者の印象がある。著者は、孔子はシャーマンの出自を持ち、政治改革への参画をもくろみながら、ときには任侠者も巻き込んで、移動しながら好機を求めた反体制教団の長だったのではないかという仮説をこの本で打ち出している。

孔子の死後に編纂された論語は、教義としての側面が強いから、孔子の姿は徹底的に美化されている。だが、よく読むと孔子の行動には人間臭い部分もある。愛弟子の顔回への贔屓が目立つし、資金調達が得意な子貢には、経済的に支えられているはずなのに、性格的にそりがあわないのか、随分と冷たい態度をとっている。

孔子は遥か古代の伝説の王である周公を信奉して復古を説いているが、その割に古代の王国について正しい知識があったか怪しい。孔子は、仕えている主人が亡くなったら3年の喪に服せと説いたが、昔からそうしてきたものだからという。しかし、古代を調べてみると3年の服喪の規定は根拠が乏しい。孔子の古代知識は誤っていたのではないかと著者は検証してみせる。

そして、孔子のさまざまな言動の細部と矛盾を分析していくと、当時の巫術を司る集団に出自があるのではないかと指摘する。シャーマン出身で、ライバル陽虎の策略に抗いながら、現実的な力を持ったカルト教団を率い、諸国を移動する宗教改革者。隠棲の賢者というイメージが崩されていく。

・孔子
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002572.html

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2006年11月28日

新世代富裕層の「研究」―ネオ・リッチ攻略への戦略

・新世代富裕層の「研究」―ネオ・リッチ攻略への戦略
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金融資産1億円〜5億円の「富裕層」81万世帯のプロフィールと彼らの資産運用の考え方を徹底分析し、特に新興の「新世代富裕層」に対する金融サービスの戦略を考察した本。野村総合研究所アナリストの著。


極端にいえば、旧世代富裕層が金融機関と付き合う選択肢は「金融機関を信頼して『情緒的に依存する』」か「金融機関を信頼せずに、自分がわかる範囲のことしかしない」のどちらかである。

昔からのお金持ち層は保守的なのだ。これに対して少子高齢化による相続と団塊世代の大量退職によって誕生する新たな富裕層=新世代富裕層は、資産運用の知識と相談相手を持たない突然の金持ちである。この層を金融機関はどう取り込んでいくべきなのか。

情緒的な旧世代富裕層と比べて、新世代富裕層は能動的で合理的である。インターネットも駆使して自ら納得できる資産運用サービスを探す。実は富裕層のインターネット利用率は63%で、準富裕層(5000万円〜1億円)の37%、超富裕層(資産5億円以上)57%よりも高い。新世代富裕層にいたっては72%であるという。

しかし、情報収集能力に自信がある新世代富裕層には、単純に情報ページや「マイページ」機能を提供しても受け入れられない。ネットの裏に担当者や専門家が存在して相談に乗ってくれる「気の利いた執事」レベルが求められているという。

新世代富裕層への金融商品設計アプローチとして以下の4つの条件が提案されている。

1 フックをかける
  興味を持つきっかけをつくる
2 夢をわかちあう
  人生観の共有
3 質にこだわる
  すべてにおいて上質なサービス
4 ファミリーにアプローチをする
  家族・親族単位でアプローチ

新世代に特有の価値観とは「自分らしさ」、「自由」、そして「独創性」。これは他業種のサービス設計にも使えるキーワードだと述べられている。

この層には自らベンチャー事業を起こして財を成した人も多いので、何事にも、他人と同じであることを好まず、自分らしいやり方を探している人が多いようだ。老舗ブランドの信用や窓口担当者の誠意だけでは、選ばれるサービスにはならない、というわけだ。

合理的に大金を動かす層が増えるというのは、ビジネスとして大変魅力的な市場が登場するということ。ベンチャー投資にここらへんの層の資金が回るようになるといいなと思う。なにか強烈な特徴がある投資ファンドなどがいいのかもしれない。

今後が注目される富裕層向けサービスについて重要なデータがたくさん入っている本だった。

・日本のお金持ち研究
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003412.html

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2006年11月27日

忘年会議2006 12月9日に開催します

2006年12月9日(土)に毎年恒例4年目の忘年会議を、これまた例年通り百式管理人と共同で開催します。そして今年はYahoo!検索チームさんが協賛してくださいます。日本の最大手検索エンジンに集まるデータから、トレンドを読み取るセッションがあります。

会議ですから全員参加です。

例年同様に参加者の皆さんには、「究極のサイト」をひとつ推薦していただきます。誰でも知っている有名サイトではなくて、知る人ぞ知るサイト、あなたが極私的に「これはスゴい」と思うサイトをこっそり教えて欲しいのです。

まさにロングテール大賞のような賞になる、予定です、なるといいな。

お申し込みは11月28日(火)、午前9時30分より下記ページにて行います。もうしばらくお待ちください。

・忘年会議2006への御誘い
http://www.100shiki.com/event200612/


プログラム

【第一部 発表!究極ランキング!】

みなさんの投稿から読み解く「究極のウェブ」ランキングを今年も行います。他のランキングで出てくるようなものではなくて、独断と偏見で「へぇ、そうなんだ」的なマイナーランキングを目指します。

【第二部 検索キーワードで読み解く2006年】

日本の検索シーンを支えるYahoo!検索チームから、サーファー部 関裕司部長に、検索キーワードから2006年を振り返ってもらいます。彼らの持つ検索データを披露していただき、来年に向けてのヒントをもらってしまいましょう。

【第三部 主催者2007】

主催者の二人は2006年に何を考え、2007年に向けて何にチャレンジするのか。主催者が考えるビジネスチャンス、ウェブのトレンドなどをちょこっとご紹介します。

【第四部 全体会議】

最後はもちろん全員参加の全体会議です。楽しく交流しながら来年のトレンドを議論しましょう!

開催概要
日時 2006年12月9日(土)
17:00〜20:00(忘年会議)
20:00〜(忘年会)
場所 都内近郊
(参加確定者には後日連絡します)
費用 忘年会議は無料。その後の忘年会は実費(3〜4千円程度)。
定員 先着80名
協賛
備考 全員参加の会議を実施します。筆記用具をお持ちください。

事前課題
忘年会議へのご参加には事前課題への投稿が必須となります。お申し込みの際には下記の質問にお答えください。

Q1. 2006年、あなたにとっての「究極のウェブサイト」のURLを教えてください(あまりみんなが知らないようなサイトだとうれしいです)。

Q2. そのサイトが究極である理由を具体的に教えてください。あなたの生活が変わった、ビジネスに役に立った、悲しい日に元気づけてくれた等々、具体的なエピソードを交えて回答してください。


お申し込みは11月28日(火)、午前9時30分より下記ページにて行います。もうしばらくお待ちください。

・忘年会議2006への御誘い
http://www.100shiki.com/event200612/

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2006年11月26日

情報処理学会セミナー Web2.0の現在と展望

情報処理学会セミナー Web2.0の現在と展望

Web2.0の現在と展望
http://www.ipsj.or.jp/10jigyo/shortseminar/2006/web2_0.html

情報処理学会機関紙「情報処理」11月号の特集企画の編集者及び執筆者として、
「Web2.0の現在と展望」をプロデュースしました。購読している方はぜひ読んで
ください。

それに関連して下記のイベントを行います。アカデミックな視点でWeb2.0を総括
するイベントです。

「Web2.0の現在と展望」

※会誌「情報処理」11月号特集企画

開催日時: 平成18年11月29日(水) 10:00-17:00

開催会場: 東京電機大学 神田キャンパス7号館1F 丹羽ホール(東京都千代田区神田錦町2-2)

協賛:社団法人 情報サービス産業協会 / 社団法人 日本情報システム・ユーザ協会 /
    社団法人 電子情報技術産業協会 / 独立行政法人 情報処理推進機構(予定)

当会では、今年度の会誌11月号(11月15日発行)特集企画「Web 2.0の現在と展望」
をテーマに、特集企画での各執筆者を講師に迎えてセミナーを開催致します。皆
様どうぞ奮ってお申込ください。

【セミナー概要】
「Web 2.0」は単なる流行語を超え、社会現象として認知されつつある。依然とし
てその定義については議論があるが、Webにおけるさまざまな技術、そしてそれ
を受け入れるユーザの態度は確実に変化しており、こういった潮流が今後の情報
環境に与える影響を検討することは有益であると思われる。
本セミナーでは、Web 2.0に関する技術解説のみならず、それらが社会やビジネス
にどのような影響を与えるかについて、さまざまな視点から報告を行い、今後の
展望について議論する。

10:00-10:10 オープニング 
10:10-11:00 セッション1 「Web 2.0とは何か」
橋本 大也 (データセクション(株)代表取締役)
【講演概要】準備中
photo 【略歴】準備中
11:10-12:00 セッション2 「Web 2.0時代の情報アーキテクチャ」
川崎 有亮 ((株)リクルート)
【講演概要】Web 2.0の持つ概念やそれを実現する技術は,ある日突然生まれた
ものではない.90年代後半から脈々と積み重ねられた技術要素に裏打ちされた背
景が無視できない.本講演では情報アーキテクチャとしての側面から,Web 2.0
の主な技術トピックを概説する.Ajaxによって実現される直感的なユーザインター
フェースや,マッシュアップなどの最新動向を踏まえつつ,昨今のβ版ソフトウェ
アの氾濫やWeb 2.0的なウェブアプリケーションの品質,開発とテストに対する
概念の変化について議論する.世界中で何億人という利用者が実際に使っている
生のサービスやその技術の裏側を探る.

【略歴】1977年東京生まれ.千葉大学大学院修士課程修了.モバイル・Ajaxな
どWeb技術研究とともに,Webコミュニケーションをテーマとして活動する.(株)
かっぺ取締役副社長を経て,現在は(株)リクルート事業開発室に所属.技術評論
社「Ajax/実装のための基礎テクニック」(共著)をはじめ,雑誌記事の執筆も多
数.http://www.kawa.net/

13:00-13:50 セッション3 「Webマーケティングとロングテール」
水野 誠 (筑波大学 大学院システム情報工学研究科 講師)
【講演概要】Web2.0の要素の一つとしてロングテールという現象が注目されてい
る.それは,従来のビジネスで重要であったパレートの法則を否定し,新しいビ
ジネスモデルの原理を説くものだと期待される一方で,実証的根拠に乏しい,ま
たは事実が誇張されているという批判も受けている.また,ロングテールのビジ
ネスモデルは,零細企業や個人にパワーをシフトさせる民主的な流れであるとい
う前向きの評価がある一方で,特定の企業へのパワーの集中をもたらし,結果的
に好ましくない状態を招くという懸念も表明されている.本講演では,このよう
な錯綜した議論を解きほぐすために,ロングテールの主唱者アンダーソンの主張
とそれに対する批判,アカデミックな立場での様々な理論的・実証的研究を概括
し,問題点を整理する.それを通じて,ロングテール論から何を学ぶことができ
るか,今後のマーケティングの研究あるいは実務にとってどのような課題が残さ
れているかを議論したい.

【略歴】1957年大阪生まれ.1980年筑波大学社会学類卒業,1985年同大学大学院
経営・政策科学研究科修了,経済学修士.2003年,東京大学大学院経済学研究科
修了,博士(経済学).1980年に株式会社博報堂に入社し,マーケティング・プ
ラニング及び研究開発業務に従事.2003年より筑波大学に移り,現在,同大学院
システム情報工学研究科講師.所属団体:日本マーケティング・サイエンス学会,
日本消費者行動研究学会,経営情報学会,行動計量学会,進化経済学会,
INFORMS, American Marketing Association等.
14:00-14:50 セッション4 「Web 2.0と集合知」

大向 一輝 (国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 助手)

【講演概要】Web2.0の潮流の中でとくに特徴的なのは,ブログやSNSで見られる
ような,参加者自身によるコンテンツの作成・公開である.コンテンツに対する
参加者の関わりは,コミュニケーション,質疑応答,投票,予測など多岐に渡り,
その結果が新たなコンテンツとして共有される.また,直接的,間接的を問わな
い参加者間の共同作業によって,ボトムアップ型の知識体系の構築が試みられて
いる.Web2.0が注目されるなか,このようなコンテンツや知識は「集合知
(Collective Intelligence)」と呼ばれ,専門家が持つ知識とは異なった価値
を持つものであるとの主張がなされている.本講演では,Webにおける集合知の
事例やそれを支えるコミュニティのあり方について概説し,今後の可能性につい
て述べる.
【略歴】1977年京都生まれ.2000年同志社大学工学部知識工学科卒業.2002年
同大学院工学研究科知識工学専攻博士前期課程修了.2005年総合研究大学院大学
複合科学研究科博士後期課程修了.博士(情報学).2005年4月より国立情報学
研究所助手.2006年4月より総合研究大学院大学助手(併任).現在に至る.
2003年度情報処理振興機構未踏ソフトウェア創造事業スーパークリエータ.セマ
ンティックWeb,パーソナルネットワークを用いた知識共有の研究に従事.人工
知能学会,電子情報通信学会各会員.

15:00-15:50 セッション5 「Web 2.0時代の個人とコラボレーション」
松尾 豊 (産業技術総合研究所 情報技術研究部門)
【講演概要】Web2.0 は,個人の活動の集積として価値あるコンテンツが生成さ
れるという思想が前提となっている.これらの環境の中で,個々のユーザはどの
ように振る舞い,他者との関係性を構築しているのだろうか?
本稿では,ユーザの関係性とネットワークという視点から,Web2.0 の代表的な
例であるblog やSNS,ソーシャルブックマークにおけるユーザのネットワークに
関する研究動向を述べる.特に,米国を中心として,国際的にどのような学術研
究が行われているかに焦点を当てる.

【略歴】1975年香川生まれ.1997年 東京大学工学部電子情報工学科卒業.200
2年 同大学院博士課程修了.博士(工学).同年より,産業技術総合研究所 情
報技術研究部門 勤務,2005年10月よりスタンフォード大学客員研究員.Webマイ
ニング,ソーシャルネットワークの研究を行っている.人工知能学会,情報処理
学会,AAAIの各会員.

16:00-16:50 セッション6 「パネルディスカッション:Web 2.0の展望」
司   会:橋本 大也 (データセクション(株)代表取締役)
パネリスト:川崎 有亮 ((株)リクルート)
       水野  誠 (筑波大学 大学院システム情報工学研究科 講師)
       大向 一輝 (国立情報学研究所 コンテンツ科学研究系 助手)
       松尾  豊 (産業技術総合研究所 情報技術研究部門)
【討論概要】準備中
16:50-17:00 エンディング 

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2006年11月25日

「続ける」技術

・「続ける」技術
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英会話、試験勉強、日記、手帳術、禁煙、ダイエットなどの習慣を続けるための方法論。

「物事が長続きすることやすぐに挫折してしまうこととあなたの「意志」とは、何の関係もありません。」

ポイントは、

「1 ある行動を増やす 2 ある行動を減らす」

にあるという。根性精神論ではなく行動科学で継続を達成するノウハウである。

継続したい行動(ターゲット行動)が起きやすく、その行動を阻害するライバル行動を起きにくくすることで、自然に継続できる、ということだ。行動のヘルプ(補助)を作る、動機づけ条件を作る、行動のハードルを低くするなど、具体的なケース例が多数提示されており、どうこのメソッドを生活に取り入れるべきかに詳しい。

周囲に継続を宣言し、日々ほめてもらう環境を作るというアイデアはかなり使えそうだ。特に家事労働などのシャドウワークは、ビジネスとしての仕事と違って褒める人がいないのでこの方法論が使えそうだ。

最近、家事や料理の内容をミクシイに頻繁に写真でアップしている主婦をみかけるが、友人知人の主婦が相互にコメントしている。継続のための環境としてネットコミュニティは使えそう。

米国のサービスの43 Thingsは、目標(10キロ痩せたい、恋人を作りたい、早起きしたいなど)を宣言した上でブログを書くコミュニティだ。みんなの目標がタグクラウドで表示されている。同じ目標を持つ人が多いと大きな文字で表示される。同志を簡単に発見して励ましあいながら、ブログを書くことができる。

・43 Things
http://www.43things.com/

仕組みづくりが重要という、この本のシンプルな方法論には共感した。毎日○○したい人におすすめ。

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2006年11月24日

雷の季節の終わりに

・雷の季節の終わりに
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やってしまった。

電車乗り過ごしである。

終電だったので3つ先の駅からタクシーで帰るはめになった。

寝過ごしたわけではない。年に一回あるかどうかの本に熱中しての読み過ごし。

すべてはこの本のせいだ。

デビュー作「夜市」で見せた才能の片鱗が、この初長編でさらに開花している。恒川 光太郎の作品は今後全部買う作家リストに入れることにした。代替不可能な魅力がある。

「異世界の小さな町、穏(おん)で暮らす少年・賢也。「風わいわい」という物の怪に取り憑かれている彼は、ある秘密を知ってしまったために町を追われる羽目になる。風わいわいと共に穏を出た賢也を待ち受けていたものは-?」

Web2.0はWebのあちら側とこちら側の話だが、これは世界2.0、こちら側世界とあちら側の異界の話である。それは天上にあるわけでも、地の底にあるわけでもなく、隠れた出入り口を通じてこの世界と連続している。

異界モノはいろいろあるが、世界観への入りやすさがポイントだと思う。ミネラルウォーターの硬さみたいなもので、硬水は身体になじみにくい。軟水では物足りない。この作品は、最初の口当たりが軟水でごくごく飲んでいるうちに、いつのまにかどっぷり硬水に身体がなじんでしまっている自分に気がつく、そんな感じだ。

日本人の原風景をモチーフにした親しみやすい情景描写とともに、長編ならではの構成の工夫もあって、最後まで飽きさせない。今年書評した同系統では「安徳天皇漂海記」と並ぶクラスの傑作だと思う。

・夜市
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004796.html

・龍宮
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004759.html

・安徳天皇漂海記
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004720.html

・異国の迷路
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004529.html

・悪霊論―異界からのメッセージ
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004773.html

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2006年11月23日

「書ける人」になるブログ文章教室

・「書ける人」になるブログ文章教室
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ブログの書籍化に取り組むアメーバブックスの取締役編集長で小説家の山川健一著。

ブログはしょせん日記だけれども日本の文学史は土佐日記や徒然草、枕草子などの日記、随筆に母胎を持つという分析からこの本は始まる。近代になって知識人が大衆に教え諭す上位下達式の難解な文学が流行ったこともあったが、今はその近代文学が力を失い、再び「女子供が平仮名でだらだら書く日記。オヤジのグチ。身辺雑記」の伝統に戻りつつある、ブログの爆発的広がりはその表れなのだと著者はいう。

ブログは高飛車に書くと炎上するし、謙虚すぎても嫌味になる。普通の人間である書き手が、どういう態度でのぞむべきか、作者のアドバイスがいい。

「大切なのは、自分の立ち位置をはっきり決め、優越感と劣等感の両方から自由になり、「普通の人間」として心を込めて文章を書くことではないだろうか」。

私もブログを日々書いていて大切と思うのは自意識をどうコントロールするかである。自意識を前面に出した文章は反発を買いやすいし、しばらくして自分が読み返して恥ずかしいものだ。逆に自意識を殺しすぎると、温かみがなく、懐の深さが感じられない文章になってしまう。著者は「暖かな無意識」という言葉を使っているが、書き手の人柄が、故意に押し出されるのではなく、自然とにじみ出るような自意識のバランス調整が重要なのだと思う。

このブログが長く続いているのは書籍やソフトウェアという他者の著作にコメントする形式だからだと思う。もし今日個人的に考えたことや政治経済や社会について時事評論を書くというテーマのブログだったら続いていなかったのではないかと思う。主観的過ぎるものも、客観的過ぎるものも、自意識の自己崩壊がおきやすいと思うからだ。

それでも個性の手触りこそ表現の核である。

「もっとも個別的なものこそが普遍にたどり着く。それこそが表現が持つ錬金術の秘密なのである。」

読者が1万人になっても特定のターゲット層10人や100人に向けたスタンスで書くのがよいと著者はアドバイスしている。

プロの小説家として文章術も語っている。接続語や語尾のバリエーションを豊かにし、改行や文章のリズムを工夫せよ、など。だが、この本の中心テーマは、小手先の文章術ではない。うまい文章を書くよりも、面白い内容を書き続けるための考え方が主体となる。

そして、編集者の視点でブログを書籍化するためのアドバイスが最後にある。プロフィールをできるだけ公開せよ、ブログ全体レベルに起承転結的な構造を意識せよ、より大きな作品のためのノートとしてブログを位置づけよ、など。

編集者の目からどう見えているか、が重要なのである。私はちょうどブログの書籍化という目標を達成したばかり。3年半かかってしまったが、この本のアドバイスを知っていたら、もうちょっと早かったかもしれない。

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2006年11月22日

劇画古事記-神々の物語

・劇画古事記-神々の物語
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古事記の劇画化。

スサノオ、オオクニヌシ、アマテラスなど日本神話の物語が漫画で読める。

原典に忠実に描こうとしているので、原典を知らないとストーリーとしてはわかりにくいかもしれないが、愛好者にとっては満足度が高そう。古事記の前半は、八百万といわれるほど多数の神々が誕生する。名前しか記録にない神が多いので、特徴を持った絵にするのは苦労が多いはずだが、かなり丁寧に一柱一柱の姿を描いている。

今年読んでいる現代語訳は河出書房版。昨年読んでいた三浦 佑之の口語訳版よりも、アレンジ要素が少なく、かなり平易に原典に忠実に訳されている。

・現代語訳 古事記
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・古事記講義
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003755.html

何度かここで書いているが、古事記の漫画として最高峰は安彦良和の「ナムジ」「神武」だと思う。「劇画古事記-神々の物語」は叙事詩風だが、「ナムジ」、「神武」はそれを原作に情熱的な人間ドラマに翻案しているのが見事だ。7年前にこの作品を何度も読んで以来、記紀ファンになってしまった。

私の場合は最初に神武、続けてナムジを読んだ。物語の順序としては逆なのだが、先代の活躍を後から読むというのもなんだか味わい深いものがあったので、結構おすすめな読み方である。

・ナムジ―大国主 (1)
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おすすめ。

・神武―古事記巻之二 (1)
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おすすめ。

・私の好きな漫画家たち
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/000741.html

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2006年11月21日

ホワイトハウスの職人たち

・ホワイトハウスの職人たち
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普段あまり語られることのないホワイトハウスの裏方スタッフの職人にスポットライトをあてた本。登場するのはホワイトハウスお抱えの菓子職人、学芸員、理髪師、料理人、仕立て屋、フローリストの6人。彼らへの取材を通して大統領一家やVIPの華やかな私生活も垣間見える。

「ホワイトハウスの菓子職人にならないか、と誘われたのです。世界最高の権力を持つリーダーのためにペーストリーを作ることに魅力を感じた私はすぐさまイエスと答えました。」

どうやってホワイトハウスに職を得たのか、日常気をつけていること、大統領一家とのエピソードなど話題はことかかない。歴代大統領が愛1した料理やデザート、家具調度品、スーツ、フラワーアレンジメントなど、固有名詞も紹介されているのでモノ好きにも参考になる内容である。


ホワイトハウスの総料理長と主席菓子職人の年俸は、平均約8万ドル。在職中は曜日に関係なく拘束され、個人の生活を犠牲にすることが強いられる。しかも12月や1月ともなれば、毎朝5時から深夜12時まで働きづめだ

他の職種でもホワイトハウスの年俸や待遇はエリート職人にとって必ずしも高いものではない。だから採用は情熱と信頼を基準に行われている。10%は忙しさとストレスで1年以内に脱落してしまうそうだ。身元調査を必要としないため、世襲の職人も多いという。

こうしたホワイトハウスの縁の下の力持ちに対する歴代大統領の気配りのこまやかさはさすがと思った。絶妙のタイミングで気の利いた感謝のメッセージを伝えることで、職人達のモチベーションを高めている。

そしてホワイトハウスはある種のブランド名であることがわかった。目指す場所であり、プライドを持って働く場所なのである。それに比べると日本の首相官邸はブランド力って弱い気がする。何が違うのだろう。やはりトップの威光だろうか。

・ホワイトハウスの超仕事術―デキるアシスタントになる!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004698.html

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2006年11月20日

タオ―老子

・タオ―老子
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道(タオ)名の無い領域

これが道だと口で言ったからって
それは本当の道じゃないんだ
これがタオだと名づけたって
それは本物の道じゃないんだ
なぜってそれを道だと言ったり
名づけたりするずっと以前から
名の無い道の領域が
はるかに広がっていたんだ。

老子道徳経全81章の現代語訳。

著者の加島 祥造氏は1993年に「タオ―ヒア・ナウ」で英語訳からの和訳を試みている。今回は原文から直接現代日本語に訳している。こちらのほうが情感がこもっていて著者の老子への共感が伝わってくる文体である。

超訳的手法も入っていて「インターネットのウィンドウを覗きこんだって、分かりゃしない <中略> 情報を集めれば集めるほど ますます分からなくなるんだよ」などという表現もある。

自然に回帰すること(無為自然)で宇宙の神秘と一体化することが究極の道TAOであると説く老子の教えは、欧米でも禅ZENの実践とともに高く評価されている。人生のあらゆる荷物を捨てて、争うことをやめて、善も悪もない、宇宙のエネルギーに身をゆだねよ、というメッセージである。

無欲で無知なのがよいわけだが、無欲無知なだけではダメみたいである。タオを知る人は結果として無欲で無知になるということだろう。ではタオとは何なのかというと、冒頭の引用が語るように言葉で定義することができない。定義してわかったように思うのは、老子によると知識病なのである。タオを知る人は知識病にかかっている自分に気がつくことで、それを乗り越えることができる。

老子の思想は後年に道教に影響を与える。道教の達人は不老不死の仙人であるから、これも仙人の生き方の理想といってもいいのかもしれない。地球環境にも人間の精神にも負荷を欠けない究極のストレスフリー思想として、ストレスだらけの現代で再評価を受けているのも納得である。

・老子道徳経 - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%80%81%E5%AD%90%E9%81%93%E5%BE%B3%E7%B5%8C

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2006年11月19日

写真をスケッチに変換するPhoto to Sketch

・Photo to Sketch
http://www.thinkersoftware.com/photo-to-sketch/index2.htm
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写真から輪郭を抽出してスケッチ風に変換する画像処理ソフト。変換前と変換後を並べて比較、修正できる。人物の写真なら似顔絵イラストが作れるだろうし、彩色などの変換を施せば、年賀状やカードに使えるアートになりそう。

この前にレゴのブロックで作った汽車の写真を変換してみた。変換後の画像の拡大版(クリックすると拡大)がなかなか面白い効果が出ている。レゴでモデリングして、輪郭抽出してアートにするというのはアイデアかもしれないと自画自賛中。

phototosketch02.jpg

クリックすると変換後の画像が拡大されます

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2006年11月18日

電気通信大学 情報システム学2.0:情報システム学の新展開

少し先ですが電気通信大学のイベントで講演します。

東京大学の石井威望先生の講演がおすすめです。ついでに私の部もどうぞ。


・電気通信大学 第8回 学術講演会
情報システム学2.0:情報システム学の新展開
http://www.is.uec.ac.jp/ev-new/gaku/2006.html

日時: 平成18年12月8日(金)10:30 - 17:30
場所: 電気通信大学 講堂
  調布市調布ヶ丘1−5−1[京王線調布駅より徒歩5分]
  (→交通案内 / キャンパス内マップ)
参加費: 無料
概要: 昨今の情報システムの進化には驚くべきものがある.携帯電話やPDAの一般への普及,Web2.0と呼ばれる新しいインターネット技術の出現など,10年前には予想もできなかった情報システムの姿がある.本講演会では,現在の情報システムに関する2人のオピニオンリーダーを招待講演者としてお招きするとともに,本学の教授陣が情報メディアシステム学,社会知能情報学,情報ネットワークシステム学,情報システム基盤学の観点から情報システムの最先端技術の現状について紹介すると同時に,今後の情報システム学が向かうべき方向に関する議論を行う.

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10:30-10:40:
開会の辞

10:40-11:00:
「新しい情報システム学に向けて」
高瀬 國克 (電気通信大学 大学院情報システム学研究科教授・研究科長)

11:00-12:00:
招待講演:「技術進化する情報システム」
石井 威望 氏 (東京大学名誉教授,慶應義塾大学客員教授)

概要:現在,科学技術の各分野で“技術進化”が一斉に進行しており,その結果,予想を上回る各分野間での相乗効果(シナジー)が生じている。たとえば,情報システム分野においては,携帯電話の爆発的な普及,ウェブ2.0のような新しいインターネット技術の出現など,社会活動の構造変化を伴いながら,本格的シナジーの連鎖を誘発している。つまり,あらゆる領域に情報を媒体としたシナジーが波及し,新しい生物種のように,新しいシステムが続々と出現している.

12:00-13:30:
昼食

13:30-14:30:
招待講演:「Web2.0とテクノロジー、ビジネス、コミュニティの展望」
橋本 大也 氏 (データセクション株式会社 代表取締役CEO,デジタルハリウッド大学助教授)

概要:Web2.0で何が変わるのか。サービスの実例を挙げながら、テクノロジーがコミュニティやビジネスに与える影響を俯瞰する。その上で、新時代に有効に機能している研究開発の手法や、サービス設計、今後のマーケットのニーズを考察する。

14:40-15:20:
「Tools for Thought 2.0: 創造的情報メディアへのパラダイム シフト」
田野 俊一 (電気通信大学 大学院情報システム学研究科教授)

概要:TBA

15:20-16:00:
「知識社会におけるeラーニング最前線」
植野 真臣 (電気通信大学 大学院情報システム学研究科助教授)

概要:知識社会の到来の主な理由は、1.少子高齢化社会の到来 と2.超効率化社会の到来、 が挙げられる。知識社会では、新しい価値を生み出すための高度な知識が必要とされる。そのために低コストで効率のよい組織知識のマネジメントシステムが必要となってきた。そのシステムがeラーニングシステムである。ここでは、知識社会の到来とeラーニングの最新動向について紹介する。

16:10-16:50:
「情報ネットワークシステムの丘からの眺め」
森田 啓義 (電気通信大学 大学院情報システム学研究科教授)

概要:前世紀半ばに電子計算機が誕生してから,情報処理のスピードは飛躍的な向上を続けてきたが,ここ10年程度のインターネットの爆発的な普及によって,時間だけでなく,情報の空間的な隔たりも大幅に取り除かれようとしている.ただ単に,情報を加工し,保存・伝送するだけでなく,さまざまな分野で情報を共有する大規模なシステムの構築がはじまっている.その様子を情報ネットワークシステムの丘から眺めてみたい.

16:50-17:30:
「基盤ソフトウェア 7.0: OSの過去・現在・未来」
多田 好克 (電気通信大学 大学院情報システム学研究科教授)

概要:情報システム学の展開においては、その基盤となるコンピュータの進化を無視できない。たとえば、処理の高速化、記憶域の大容量化、機器の小型化、省電力化、そして、信頼性の向上などによって、様々な応用分野が開花した。本講演では、情報システム学の展開を支援する基盤ソフトウェアの機能と利用形態について、過去から現在までを概観する。また、次世代情報システム学の発展に向けて、基盤ソフトウェアはどうあるべきか、何を成し得るのかを議論する。

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2006年11月17日

夜市

・夜市
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人がいない夜の神社って怪しくて好きだ。目を凝らすと鳥居や古木の陰に普通は見えないものが見えてきそうな気がする。気がするのだけれど、やはり見えない。見たいと思っているときには見えない。いや、大人になってからはまったく見えない。こどもの頃には何か見えた思い出がある。真っ暗な木々の隙間に違う世界がちらっと見えたことがあった。
今考えると目の錯覚である。昼間に洗濯物の影が動く人の影のように見えることがあるし、天井の木目が顔のように見えることがある。経験からすると、そういう錯覚を起こすのは、多くの場合、植物と湿気と暗がりが関係している。

植物の輪郭は人工物に比べて複雑で、目が勝手に意味を読み取りやすいのだと思う。湿気や暗がりはモノの輪郭をさらに曖昧にする。神社のように古いモノは輪郭も綻んでいる。風景の情報量が多くなって認知が混乱したとき、潜在意識が作動して意味を見出そうとするせいだと頭では考えている。

それと同時にやはり何かいるんじゃないかと思う自分もいる。植物や水には過去の場の記憶を蓄積する機能があって、生きた人間はそれを呼び出す触媒になるのじゃないか、なんて非科学的なことを考えたりする。そういう妄想をするのが楽しい。だから、この作品はとてもはまった。

夜市は子供の頃、異世界に紛れ込み、自分が助かるために弟を向こう側に置いてきてしまった兄をめぐる怪異譚。一緒に収録されている「風の古道」は異界の古道に迷い込んだ少年の話。表題作が絶賛されているが、「風の小道」が私は好きだ。それは戻れない道なのでもある。

戻れると思って歩いているうちに、いつのまにか戻れない道を歩いているって人生のメタファーである気もする。何かを選択するということは、無数のありえたかもしれない世界を置き去りにしていくということ。置き去られた世界のうらみつらみが、神社の暗がりみたいな異世界との境目に滲み出てくるのではなかろうか。子供の頃に何かが見えた、鳥居や古木の枝ぶり、風に揺れる洗濯物の影、天井の木目もまた滲みが作り出すメッセージだったりするのかもしれない。そんなわけないか。

この本は異界に2時間旅をすることができる傑作。

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2006年11月16日

詩人少年、社長になる ぼくが出版社をつくったわけ

・詩人少年、社長になる ぼくが出版社をつくったわけ
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毎月読む書評雑誌「ダ・ヴィンチ」には後ろのほうに、新風舎の新刊紹介コーナーがある。私は最近このコーナーで社名を知った。まだ一般知名度は高くない新風社だが、実は、年間に2700点を超える書籍を出版しており、2005年に新刊の点数で日本一の出版社になった。

・自費出版が進化した!新風舎 本にする原稿いつでも募集しております
http://www.shinpusha.co.jp/

もともとは、15歳の少年が自分で書いた詩を世に出したくて立ち上げた小さな会社だった。従来の商業出版では作品を出しにくかった無名の表現者を支援したいという情熱で、出版不況の中で異例の急成長を遂げている。

出版点数が多いのは、著者と出版社が資金を出し合って本を作る「共同出版」というビジネスモデルをベースにしているから。地方にも直営店舗ネットワークも展開している。数年前に皇室で読まれているという報道で、人気に火がついた絵本「うしろにいるのだあれ」は新風舎の代表作である。

この本は新風舎社長のマツザキヨシユキの自伝。著者の出版への関わりは、8歳の頃に盗作でつくった絵本に始まる。詩や小説を書いたり、ラジオ番組を作ったり、同人誌を作ってみたりと、少年期から大学時代までを、さまざまな表現活動に取り組んだ。

こうしたプロフィールだけ見ると、学生時代に立ち上げた音楽雑誌の出版事業から、成り上がったヴァージングループの社長に似ているが、まったく違うのは、上昇志向が感じられないこと。会社を大きくしようとか、売れ筋ベストセラーを出そうとは、考えない人のようだ。いい本を作りたいの一心で仕事をしている。だからこそ1万人の著者が共同出版のコンセプトに賛同してこの会社から本を出したのだろう。

IPOやM&Aをゴールにしない起業物語がすがすがしい。

無名の著者の本をたくさん出版する。インターネットの話は出てこないが、ロングテール市場の先駆けベンチャーだったと言えそうだ。自分史を出したい、作品集を出したい、ブログを本にしたいというアマチュア表現者は増えているはずだから、目利きとプロデュース能力次第で、自費出版、共同出版の市場にはまだまだチャンスが広がっているのかもしれない。

8歳のときに盗作した絵本の作者の谷川俊太郎、イラストレーターの和田誠と新会社トピスカインクを立ち上げるところで自伝が終わる。この会社が具体的に何をするのか書いていないが、ヌイグルミの販売を始めているようだ。おかしな取り合わせに注目である。

・トピスカインク
http://www.shinpusha.co.jp/wahhahai/

面白い本だったが、ひとつだけ疑問が残った。なんで著者は自分の出版社ではなく、日経BP社からこの本を出したのだろう?。

・童女M
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著者が少年時代に書いた詩集。新風舎が復刊。

・ワッハワッハハイのぼうけん: 本: 谷川 俊太郎,和田 誠
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著者が少年時代に盗作した絵本。新風舎が復刊。

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2006年11月15日

「伝える言葉」プラス

・「伝える言葉」プラス
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朝日新聞の連載エッセイをベースにしたエッセイ集。

大江健三郎の読書スタイルには憧れる。一人の作家や主題を決めて3年間深く深く読み続ける。師である渡辺一夫のアドバイスに始まったこの習慣は15回目の3年目に入ったそうだ。T・Sエリオット、イエーツ、ウィリアム・ブレイク、ダンテの神曲など、その深い読書は大江の各時代の作品に色濃く反映されてきた。

私も学生時代に、この大江の習慣を知って、ウィリアム・ブレイクや神曲の読み込みに挑戦してみたことがあったが、3ヶ月も持たなかった。好奇心だけでは、そこまで一人の作家や主題に興味を持続させられないのである。

大江の読書は、論文を書くために特定の作家を読む文学部の学生とも動機も集中度も違うようである。障害を持って生まれた息子との共生への答え、救いの光を文学にみつけたい、だとか、作家としての行き詰まりを突破したい、そのための切実な祈りのような習慣のようである。


初めのうちは、毎週のように神田や丸善ほかへ出かけてその主題の本を集めます。その期間は仕事をしませんし、まだ自分が本当に読みたい方向もわかっていませんから手当たりしだいに本を買いますので、そうしたことが永年の間に幾度も繰り返されて、家内は家計のやりくりに大変だったろうと思います。
 それらを読み続けて、二年もたつと、素人ながら本のかたまりに埋もれている暮らしで、何を本当に読みたいのかが、はっきりしてきます。そこへ向けて本を読むことに集中して、ほかのことは上の空、というふうになります。

2年間読むだけの生活で、やっと読みたいものが定まるのである。ユダヤ神秘主義の研究書1000ページの英訳を1年間、朝から晩まで読んでいたという記述もあった。10年前の断筆宣言も、本当に小説をやめるつもりではなくて、主題探しの読書の4年間を確保したかったからそう言ってみただけだった、などという告白もある。そうやって「生き続けていくのに必要な気のする本のかたまり」とのつきあい続けて70歳になっているのだ、この作家は。

書き手としても推敲を徹底的に重ねる「エラボレーション」型作家としての大江文学を読んでいると、理性的に構築する作風と同時に、その底に流れるルサンチマンの熱さ、厚みに圧倒されることが多い。冷めた文体なのに沸々と煮えたぎっているのは、3年、4年も続ける集中的な読書生活があるわけだ。このエッセイ集では、小説を書いていないときの大作家の日常と思考が垣間見えて面白かった。

(そうした深い読書の話と比べると、何本か収録されている憲法9条や教育基本法についてのエッセイは、私にはぴんとこなかった。)

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2006年11月14日

性の用語集

・性の用語集
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・ZAKZAK 女子大生“体験率”グンと伸び…横ばい男子とほぼ並ぶ
http://www.zakzak.co.jp/top/2006_11/t2006111320.html

ZAKZAKにこんな記事があったので、引用される数字を表にしてみた。

   │ 男性    │ 女性   
───┼───────┼──────
大学生│ 性交 63% │ 性交 62%
   │ キス 74% │ キス 74%
───┼───────┼──────
高校生│ 性交 30% │ 性交 20%
   │ キス 48% │ キス 52%
───┼───────┼──────
中学生│ 性交 3,4% │ 性交 3,4%
   │ キス 16% │ キス 19%

中学生、高校生はこんなものだろうなと思ったが、大学生の数字が意外に低い気がした。メディア上ではセックスが氾濫しているが、現実は結構、落ち着いているものなのかもしれない。20歳になっても処女、とか童貞とかいう言説が先行している可能性があるようだ。(本当はよくわからないけど)。

この「性の用語集」は性についての研究者が集まって、童貞とか処女とかを解説している。言葉の知名度に応じて「誰でも知ってるあの言葉」「意外に知らないあの言葉」「誰か知ってる?この言葉」の3段階に分類されている。性に関係する言葉は有名な辞書には載りにくいようで、それだけを扱った本書は価値がありそう。

取り上げられる言葉の例:

性/エロ・エロス/エッチとエスエム/変態‐H/童貞/処女/ヘア/フーゾク・風俗/ママ/ホステス/おかま/女装/巨乳/――専/コンドーム/セックスレス/カーセックス/のぞき/立小便/アベックはカップルか?/ニューハーフ/Mr.レディ・Miss.ダンディ/援助交際/社交/ノンケ/フリーセックス/不能/ブルーフィルム...

性、変態、風俗、不能、女装は、もともとは性的な意味合いがまったくなかった。エッチがエッチになったのも比較的最近である。エッチは変態の頭文字だが、さかのぼると変態には性的倒錯の意味はなかった。「He」の意味で彼氏を表していた時代もあった。

エスとエムは面白い変遷がある。エスは少し前までは、Sisterの意味で、女子学生同士の恋愛相手をさす言葉だった。アルファベットは漢字と違って、生々しさがないので、性的な意味を託されやすい傾向があるようだ。

第3部の「誰か知ってる?この言葉」の言葉はかなり手ごわい。いまは使われなくなった性の用語が歴史背景とともにまとめられている。「M検」ってなんだかわかるだろうか。そのM検にまつわる乃木伝説って?。

ほんの数十年前まで誰でもなんとなく知っていたことが、常識ではなくなってしまう例がたくさんなる。性の用語は普通の言葉と比べて、かなりうつろいやすいものなのかもしれない。

・ヒトはなぜするのか WHY WE DO IT : Rethinking Sex and the Selfish Gene
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003360.html

・夜這いの民俗学・性愛編
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002358.html

・性と暴力のアメリカ―理念先行国家の矛盾と苦悶
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004747.html

・武士道とエロス
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004599.html

・男女交際進化論「情交」か「肉交」か
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004393.html

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2006年11月13日

現代語訳 般若心経

・現代語訳 般若心経
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著者は僧侶で芥川賞作家の玄侑 宗久。

まず般若心経を全文引用してみる。

仏説摩訶般若波羅蜜多心経

観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 
度一切苦厄 舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 
空即是色 受想行識亦復如是 舎利子 是諸法空相 
不生不滅 不垢不浄 不増不減 是故空中 
無色 無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 
無眼界 乃至無意識界 無無明亦 無無明尽 
乃至無老死 亦無老死尽 無苦集滅道 無智亦無得 
以無所得故 菩提薩 依般若波羅蜜多故 
心無礙 無礙故 無有恐怖 遠離一切顛倒夢想 
究竟涅槃 三世諸仏 依般若波羅蜜多故 
得阿耨多羅三藐三菩提 故知般若波羅蜜多 
是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪 
能除一切苦 真実不虚 故説般若波羅蜜多呪 
即説呪日 羯諦 羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 
菩提薩婆訶 般若心経 

全文で262文字に釈迦の教えが凝縮されている。意味の圧縮率が抜群である。

著者によれば、般若とは理知によらない体験的な、全体性の知の様式のこと。「般若波羅蜜多」とは般若によって理想郷に渡ること、知慧の完成した状態を指す。このお経は般若波羅蜜多に至るための呪文なのである。

有名な「色即是空、空即是色」という節は、私たちが見たり感じたりするすべて(色)は実相ではなく、変化し続ける空であり、変化し続ける空だからこそ、そこからあらゆるものが立ち上がってくるのだという意味。これは無から何かが生まれてくる量子力学の世界観に似ていると著者は指摘する。

「こうした認識が仏教的認識と重なるのは、じつは偶然ではありません。「原子物理学と人間の認識」というボーアの論文のなかには、「われわれは仏陀や老子がすでに直面した認識論的問題に向かうべきである」と書かれています。」

「ハイゼンベルクは講義録『物理学と哲学』(1955−56)のなかで、「第二次世界大戦以降における物理学への日本の大きな貢献は、おそらく、極東の伝統的哲学的思想と量子理論の哲学的本質との間にある種の近縁性があることを示唆している。」

量子力学そのものが仏教哲学にインスパイアされたものであった可能性があるのだ。こういった現代的な知見を使ったわかりやすい解釈がこの解説本の魅力である。もちろん、頭でわかることを超えることが般若ではあるのだが。

そして続く第二部の般若心経の現代語訳は短いが、著者の渾身の翻訳文が示されており、本書のクライマックスである。なるほど全文ではこういう意味だったのかと、お経を聞くのが楽しくなってくる。

・Yahoo!ショッピング - 般若心経枕カバー
http://store.yahoo.co.jp/yume/24553.html
すごい。夢にでそう。何が。

・般若心経
http://www.dynasys.co.jp/FreeSoft/Hnw/index.htm
般若心経の表示と読経ソフト。

・高野山真言宗成田山真如院
http://www.naritasan.org/
般若心経Flash。

・The Heart Sutra
http://kr.buddhism.org/zen/sutras/conze.htm
般若心経の英訳。日本語よりわかりやすいかも。

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2006年11月12日

渋滞学

・渋滞学
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「自己駆動粒子」の研究。

自己駆動粒子とは、自分の意志を持って自発的に動く粒子のことで、道を歩く人間は典型例である。自己駆動粒子の動きは、ニュートン力学の3つの法則(慣性の法則、作用=反作用の法則、運動の法則)で動くニュートン粒子とは異なる。意識を持った人間は、近づいてくる他人をよけようとするし、前が空いていれば早足になる。水や空気の流れはニュートン粒子の流体力学で分析できるが、交通渋滞やインターネットの混雑の場合には、異なる分析アプローチが必要なのだ。

自己駆動粒子系の理論モデルとしてASEP(非対称単純排除過程、エイセップ)が近年注目されているという。ASEPとは、右か左か進む方向が決まっていて(非対称)、一人分の空間には一人の人しか入れない(排除)という、シンプルなルールでモデル化される過程である。ASEPのシミュレーションには、横に並べた箱の列に複数の玉を入れ、ルールに従って順次に動かしていくセルオートマトン法が適用できる。

最初に適当に箱の列に玉を入れておく。単位時間あたりに一回、すべての玉を動かすものとする。進行方向にある前の箱が空なら玉をひとつ動かす。前が埋まっていたら動かせないで一回休み。玉の数が増えるとお互いが邪魔で動けない玉の集団(クラスター)が発生する。これが大規模になると渋滞クラスターになる。遅れは後ろへ伝播する。箱の数に対して玉の数が半分を超えると、渋滞は発生するそうで、

「自由相から渋滞相への相転移の臨界密度は2分の1である」

というそうだ。つまり道の半分以上が埋まっていることが渋滞発生の条件といえる。この基本条件は、前が空なら2回に1回移動するというような移動確率を設定しても、2分の1という数字は不変だそうで、系の普遍的な性質であるらしい。

もちろん現実の交通渋滞にはその他の要素もたくさん影響している。運転手は考えながら車を走らせているので、車間距離を混雑状況に合わせて調整している。渋滞の直前には混んでいるけれども速く走ることができる「メタ安定状態」が見られる。渋滞回避への協調行動の成果である。しかし、その持続時間は通常は短いため、すぐに渋滞に陥る。メタ安定状態を長時間維持できる仕組みが発明されれば、素晴らしい渋滞ソリューションになりそうである。

追い越し車線がある場合には、混み始めると車線変更をする車が増えるが、追い越し車線のほうが遅いという逆転現象が起きる。だんだんと混んできた状況では走行車線を走る方がよいらしい。信号が青になって動き出す時間は1台あたり1.5秒で、前に10台いたら自分が動けるのは15秒後であるなどの実用的で面白い数字も明かされている。渋滞の大きな原因である「サグ部」の謎などは初めて知った。

人気店舗の待ち行列や、インターネットのパケット交換の渋滞など、車以外の渋滞の分析例も後半で多数扱われている。セルオートマトン法で分析する渋滞学はコンピュータ計算と相性がよいため、ITエンジニアが問題解決に貢献できそうな分野である。これからは、渋滞や長蛇の列に巻き込まれたら、この問題をじっくり考えてみよう、と思った。

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2006年11月11日

デフラグ処理を効率的に行うcontig

・Contig v1.53
http://www.microsoft.com/technet/sysinternals/utilities/Contig.mspx
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パソコンのハードディスクは使っているうちに「断片化」という、目には見えないある種の劣化を引き起こす。これに対して定期的に「デフラグ」という処理をかけて、回復させてやると良い。初心者以外は知っている常識であるが、今日はデフラグのパワーアップツールの紹介。

今年の夏にマイクロソフトが小さなソフト会社を買収した。

・MicrosoftがWinternalsを買収 スラッシュドット ジャパン
http://www.rikai.com/perl/LangMediator.En.pl?a=2006072245

この会社はWindows用の優れたユーティリティソフトを開発していた。そのうちのひとつが、Windows標準のデフラグ機能より優れたデフラグツールcontigであった。contigを使うと、特定のファイルや特定の拡張子のファイルだけにデフラグを実行できる。巨大な映像ファイルやディスクイメージの断片化チェックに特に役立つ。

私のパソコンは普段、デフラグをしていない。このツールで断片化状況を確認したところ、ひどい状況になっていたのが発見された。この文章を書いている裏側でデフラグ処理を実行中である。ファイルが断片化したまま使っていると、処理が重いだけではなく、ハードディスク寿命を縮めることにもなるらしい。これからは定期的に行おうと決意。

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2006年11月10日

【書籍になりました】 情報考学―WEB時代の羅針盤213冊(主婦と生活社、1600円)

・情報考学―WEB時代の羅針盤213冊
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このたび、このブログの読書記録が、主婦と生活社によって書籍になりました。

本日が発売日です。

過去に書評した600冊の中から、213冊を選び、本として読みやすく編集を施しました。

インターネットは誰でも無料で情報を入手できるのが魅力ですが、逆にいえばネットの情報だけでは物足りない時代になったと思っています。

この本では、経営書、技術書、科学読み物、小説、など紹介する書籍の分野を幅広くとりました。皆さんの本の発掘に少しでもお役に立てたらうれしいです。

冒頭に私の読書論(本の選び方、読み方、買い方、ブログの書き方)について書き下ろしました。

ブログの読者の皆さんの励ましやご意見に支えられての書籍化でした。本当にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。

出版社の解説:

過去、現在、そして未来を見通す軽快なコメントが人気の書評ブログ『情報考学Passion For The Future』。その膨大な書評群から213冊をピックアップするとともに、著者の読書術を初公開。

Posted by daiya at 15:00

2006年11月09日

メールの新着状況をデスクトップに表示するLedBiff

・LedBiff : POP3/APOP/IMAP New Mail Notifier
http://www.ledbiff.org/software/ledbiff/index.html
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メールソフトの自動受信機能は使っていない。この習慣は昔からで、便利なことは分かっているのだが、定期間隔の受信で既に届いたものを見るというメールとの出会い方がイヤなのだ。自分で受信ボタンを押したタイミングで、入ってくるメールとリアルタイムに出会いたいのである。

Ledbiffは複数のメールアカウントを巡回して新着メールの数、送信者名、件名などをデスクトップ上に、文字が流れる電光掲示板として表示するフリーソフト。このソフトなら、メールを実際に受信するわけではないので、私のメールポリシーに抵触しない。作業で忙しいときにもメールソフトを起動せずに、緊急メールがきていないかだけチェックできるので、都合がよい。

各種フィルターを設定することができ、特定人物からのメールや、特定のキーワードを含むメールがきたときに、任意の着信音を鳴らすことも可能。新着メールがないときには、時計表示にしておくことができる。

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2006年11月08日

手紙

・手紙
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東野圭吾は、今年第134回直木賞を「容疑者Xの献身」で受賞するまでに6回も同賞候補にノミネートされてきた。この「手紙」は129回候補作。当時、選に漏れたとはいえ傑作であり、この秋に映画化されて上映中である。

・映画 「手紙」公式サイト
http://www.tegami-movie.jp/

予告編ムービーがある。微妙に原作がアレンジされているらしい。

映画の「手紙」はまだ観ていないが、私が東野圭吾作品にはじめて触れたのは「レイクサイド」の映画版「レイクサイド・マーダー・ストーリー」であった。保護者同伴のお受験対策合宿で愛人殺人事件が起き、それをなかったことにしようとする親たちの隠蔽工作が意外な展開を見せるドラマだ。

・映画『レイクサイドマーダーケース』
http://www.lakeside-mc.com/index.html
「お受験合宿の夜、お父さんの愛人が殺されました。」。容疑者は妻(薬師丸ひろこ)。原作はベストセラー作家・東野圭吾が2002年に書き下ろしたミステリー小説「レイクサイド」。個性派俳優揃いで原作の面白さが万全に活きた。演劇的。


犯罪ドラマを舞台に、世間と人間の本性を生々しく暴きだす作風は、この「手紙」でも手ごたえのある物語をつくりだしている。主人公は強盗殺人犯の弟である。進学、就職、結婚、家庭生活。主人公は不幸な境遇の中から必死に人並みの幸せをつかもうとするが、もう少しのところで唯一の肉親の取り返しのつかない過去の罪が邪魔をする。隠しても暴かれてしまう「強盗殺人犯の弟」というレッテルがすべてを台無しにしてしまうのだ。この小説は、そんな主人公の苦悩も知らない獄中の兄から、弟に毎月届く手紙をめぐる話である。

ジョン・レノンのイマジンのように、愛や絆がすべてを許して差別のない世界を実現する、というわけにはいかない。現実には愛や絆が差別を作り出すことになる。強盗殺人犯の家族に同情はしても、好き好んで近づきたい人はいない。できることなら無関係でいたいとおもうのが普通の世間の感覚だ。人種差別や部落差別と違って、真正面から戦うのが難しい種類の差別感情である。

重いテーマだが、失っても失っても常に前向きに進もうとする主人公の性格が救いになっている。出口のない迷路の中に光明を見出そうとする主人公の生き方に心を揺さぶられる。

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2006年11月07日

デジハリ学園祭2006で対談イベントに出演 11月19日

・「Control plus Daiya」 - 村田マリ meets 橋本大也
http://www.dhfes.com/control/
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11月18日(土)、19日(日)に秋葉原のデジタルハリウッド大学で学園祭「「彩(さい)」 〜彩あるチカラ花ヒラく〜」が開催されます。19日の日曜日の16:00から、私は学生企画の対談イベントに出演することになりました。ホスト役は「デート通.jp」を運営するコントロールプラス社の村田マリさん。

村田さんとは、まだリアルでは一度しかお会いしていないのですが、不思議なご縁があったようで、今回の対談相手に選んでいただきました。ネットとの出会いからビジネスを立ち上げて、IT業界どっぷりな生活になるまでをお話しする予定です。

学園祭ですので主な対象は学生ですが、学生起業家、女性起業家、IT起業家の志望者の方々に参加していただきたい内容です。関心を持っていただけた方の積極的なご参加をお待ちしております。

なお、学園祭では攻殻機動隊やらアップルコンピュータやらの企画も目白押しです。


・デジハリ祭2006 お申し込みはこちらから
http://www.dhfes.com/


デートスポットのクチコミ情報サイト「デート通.jp」を運営されているコントロールプラス株式会社の社長 村田マリ氏をゲストでお迎えします。

 内容は二部構成として、第一部では、女性起業家として活躍しています村田社長が、大学在籍当時に憧れていた当大学の橋本大也教員と「ITと起業」についてトークセッションを行います。このセッションでは、村田社長が橋本教員のことを在学中に知り、どう感じてIT業界の道に進み、そして、どういった経緯でお二人は起業されたのか。また、今のIT業界の最新事情について語って頂く内容となっております。第二部では、村田社長と友人の女性起業家の方と「女性のキャリア」について、直接、討論を行います。

 女性が社会進出して年月が経ちますが、果たして本当に女性が働きやすい社会でしょうか?また、女性社長としての生き方や魅力、また仕事以外での女性としての生活などを、女性起業家の視点で話合いを行います。入場無料 ただし、席には限りがございます。

【 11月19日 16:00〜18:00 開催 】

■ 第一部 [16:00〜17:00] ■
村田マリ社長 × 橋本大也教員

■ 第二部 [17:00〜18:00] ■
村田マリ社長 × 女性起業家の方(未定)

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2006年11月06日

ビッグバンの父の真実

・ビッグバンの父の真実
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キリスト教の司祭でビッグバンの父と呼ばれる物理学者のジョルジュ・ルメートルの伝記である。理論の核となるアイデアを提唱したにも関わらず、ビッグバン理論の歴史書におけるルメートルの扱いは不当に小さい。定常宇宙論の提唱者でビッグバンという名前をつけたフレッド・ホイルや、ルメートルの「原初的原始」という着想を発展させた破天荒な科学者ジョージ・ガモフの方が有名かもしれない。

ルメートルの仕事は近年の物理学、天文学の進展によって、画期的なものであったと再評価が進んでいる。サイモン・シンのビッグバン宇宙論でも肯定的な記述が多かった。ルメートルはアインシュタインと親交を結びよく議論した人物だ。

・ビッグバン宇宙論 (上)(下)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004613.html

アインシュタインは相対性理論で宇宙の成り立ちを数学的に説明するときに、当初は宇宙定数Λ(ラムダ)を導入した。この定数を式に組み込まないと宇宙の構造が安定しないマジックナンバーであった。しかし、その値は当時は観測に基づくものではなく、式を成立させるための道具的で、恣意的な要素であったため、アインシュタインは後年、Λの導入は大きなミスであったと自説を否定した。

一方、ルメートルはアインシュタインが翻意したあとも、それは恣意的な要素ではなく、まだ観測されていないだけの本質的な要素であると考えて強く支持していた。近年、宇宙観測の技術が進歩し、宇宙背景放射が確認されるに至って、はじめてその考えの正しさが証明されつつある。

ルメートルの名前が科学史に埋もれがちな理由のひとつが、彼が科学者であると同時に宗教家であったからだといわれる。高エネルギーから宇宙が生まれたとするビッグバンは神の創造を連想させる。ルメートルの言うことは、非科学的なのではないかと疑われてしまうのだ。

しかし、ルメートル自身はそのキャリアの最初から、科学と宗教を厳密に切り分けてきた。宗教との関係についてこう発言している。


 聖書の執筆者は皆、人間の救済という問題について何らかの答えを得ていました。それがどの程度の水準だったかは人によって違ったでしょうが。それ以外の問題については、彼らの同時代人たちと同じ程度に賢明、あるいは無知だったのです。ですから、聖書のなかに、歴史的・科学的事実に関する誤りがあるとしても、それは何の意味もないものです。その誤りが、それについて書いた人が直接観察したのではない事柄についてのものである場合は、特にそうです。
 不死や救済の教義に関して彼らが正しいのだから、ほかのすべての事柄についても正しいに違いないと考えることは、聖書がいったいどうしてわたしたちに与えられたのかということを正しく理解していない人が陥る誤解です。

だから、時の教皇ピウス12世が、ローマ教皇庁科学アカデミー議長もつとめたルメートルらの発見は神の創造を科学的に証明したものだと発言した際には、頭を抱えてしまった。後に、それとこれとは関係ないのですと教皇に進言しさえもした。

・ジョルジュ・ルメートル - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%BB%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AB

そしてルメートルはコンピュータを使いこなす「ハッカー」の草分けであったとも言われる。晩年はビッグバン宇宙論の前線からは退いて、当時まだ珍しいコンピュータによる数値計算の分野で業績を上げた。謙虚な性格であったためか、コンピュータの歴史でもあまり登場しないのは残念だ。

この本では、ルメートルの視点から見た、もうひとつのビッグバン宇宙論の歴史が語られている。ビッグバン宇宙論とは科学の言葉で書かれた現代の神話であると思う。科学と宗教の中間にいながら、自己矛盾することなく、その神話の創造に参加した稀有なバランス感覚の天才だったようである。

・ガリレオの指―現代科学を動かす10大理論
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/002797.html

・はじめての“超ひも理論”―宇宙・力・時間の謎を解く
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004230.html

・ホーキング、宇宙のすべてを語る
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004047.html

・奇想、宇宙をゆく―最先端物理学12の物語
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003562.html

・科学者は妄想する
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/003473.html

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2006年11月05日

Windowsのモジュール依存関係を可視化するDependency Walker

・Dependency Walker (depends.exe) Home Page
http://www.dependencywalker.com/
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ほとんどのWindowsアプリケーションは多数のモジュールに依存している。Dependency Walkerは、実行ファイルの外部にあるDLL、EXE、OCX,sys等のモジュールの依存関係を、ツリー状に階層表示するフリーソフトである。

上のサンプル画像ではAppleのiTunesの実行ファイルを分析している。多数のWindowsモジュールを呼び出していることがわかる。プログラマであればfunction項目の内容を見れば、だいたいどのモジュールが何をしているかまでわかるだろう。F7キー(Start Profiling)を押すと実際にプログラムをロードした際の、動的な依存関係を詳しく抽出できる。

「Save As」で実行ログを保存することができる。テキストとして保存すると人間が読めるログになっている。こうしたログは、どこでエラーになったかを解析するのに使える。

Windowsの問題解決や、開発時の実行ファイル解析に便利に使える。コマンドラインとして動作させることもできる。

Dependency Walkerは、Mozillaプロジェクトのテストにも採用されているようだ。同プロジェクトのFAQに使い方が掲載されている。

・Dependency Walker (depends.exe) の使用方法
http://www.mozilla-japan.org/quality/help/dependency-walker.html

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2006年11月04日

現実入門

・現実入門
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著者の穂村 弘氏は一人暮らしも結婚も子供を持つもソープランドも家を買うも骨折もしゃぶしゃぶも経験したことがない42歳男性フリーライターである。

著者が流行らせた「人生の経験値」というリストがある。一時期、このリストで経験したものに○、未経験に×をつけて公開するのがブログやMixiで流行した。最初の20件はこんな感じであった。

・人生の経験値とは - はてなダイアリー
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%BF%CD%C0%B8%A4%CE%B7%D0%B8%B3%C3%CD?kid=104138

入院
骨折
献血
失神
結婚
離婚
フーゾク
しゃぶしゃぶ
エスカルゴ
万引き
補導
女を殴る
男を殴る
就職
退職
転職
アルバイト
海外旅行
ギター
ピアノ

著者はほとんどが×である。「このまま一生何もせずに終えることはできない」と、編集者に励まされながら、初体験の事柄に次々に挑戦していく顛末がこの本の内容だ。献血、合コン、相撲観戦、占い、結婚式場探しなどなど。

さて、この本であるが、人生の経験不足を名乗るわりに、いろいろなことを知っている人である。経験値の低い42歳の自分をちゃかして、読むものを笑わせるのが得意である。笑わせるには、読み手がどう考えるか、自分がどのように見えているか、の把握が必要なはずであって、相当の理解がなくては書けないと思う。できないからしなかったのではなくて、したいと思わなかったからしなかった人なのだと思う。

だから、ここに書かれていることはかなり受け狙いな内容だなあと感じる部分もあるが、、初体験にのぼせあがったり、戸惑ううちに、いつのまにか、あらぬ妄想を抱いて独り言をつぶやき続ける文体が、よくできた一人芝居として、とても面白い。最終章なんて、うっかり感動しそうになりました。

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2006年11月03日

手話学習ソフトウェア 手話ロボットオアフくん

・手話学習ソフトウェア 手話ロボットオアフくん
http://int.moo.jp/
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3Dキャラクターを使った手話学習用ソフトウェア。

あらかじめ辞書登録された単語を入力すると、その意味を表す手話の動作を3次元キャラクターが動きで見せてくれる。「わたし 餃子 好き」のように単語を並べると連続表示してくれるのでわかりやすい。

キーボードのシフトボタンを押しながらドラッグすると、視点を変更することができ、右クリックでのドラッグやマウスホイールで、奥、手前の視点移動になる。好きな方向からロボットの動作を確認できる。

手話の単語と動作はユーザが追加できる。新しい動作を編集するための手話単語編集機能がある。作成した動作は専用掲示板にデータをアップロードして、他のユーザーと共有できるようになっている。Wikipediaの手話版とかできたらすごいな。

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2006年11月02日

Janes-Way episode2 最新のWebテクノロジー&サービスの探究

・JANES-Way(ジャネスウェイ) episode2
http://janes-way.net/
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Eビジネス研究所主催のIT業界カンファレンスJANES-Wayの第2回が開催されます。

2006年11月15日(水)
ベルサール九段 10:30−21:00

今回のテーマは「最新のWebテクノロジー&サービスの探究 〜 ブームを巻き起こしたWeb2.0その経過と先進事例 〜」。好評だったエピソード1に続いて、Web2.0世界のプレイヤーが集います。

私はパネルディスカッションの部「激変するメディア、CGMの可能性と未来について」に出演することになりました。ユーザ参加のコンテンツ創出の仕組みがテーマです。

私の現在の主な仕事である動画コンテンツサービスや検索及びメタデータ技術の面白さ、注目ポイントを中心にお話したいなと思っています。いつもの「テレビとネットの近未来カンファレンス」シリーズに参加してくださるような方を特にお待ちしております。

パネルの顔ぶれは、日テレの土屋エグゼクティブディレクター(通称T部長)、フジテレビの投稿動画サイト「ウォッチミーTV」をてがける時澤社長、サイバーエージェントのアメーバビジョンの一谷マネージャー、そして司会は国際IT財団の中村伊知哉氏です。

14:15〜15:25 パネルディスカッション
 激変するメディア、CGMの可能性と未来について
http://janes-way.net/ep2_session.html#a4
詳細とお申し込みはこちら。

 ■モデレーター
 慶応義塾大学/財団法人国際IT財団 教授/専務理事 中村伊知哉 氏

 ■パネラー
 日本テレビ放送網株式会社 第2日本テレビ事業本部ED 土屋敏男 氏
 フジテレビラボLLC 代表者 時澤正 氏
 株式会社サイバーエージェント アメーバ事業本部 マネージャー 一谷幸一 氏
 データセクション株式会社 代表取締役 橋本大也 氏

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2006年11月01日

日本語と日本人の心

・日本語と日本人の心
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1995年に開催された大江 健三郎,河合 隼雄,谷川 俊太郎という豪華な3人のパネルディスカッションの記録をベースに構成した日本語・日本文化論。

西欧的な論理性の文体の小説家である大江と、翻訳不能な母語の土着性を重視する詩人の谷川は、日本語に対して意見の隔たりが大きい。互いの仕事へのレスペクトを終始忘れない穏やかな言葉遣いでありつつも、本質をめぐる議論では対立が明らかに目立ってきて、スリリングな展開がある。

大江氏曰く


ですから、文学の創造性ということを、神が創造性となぞらえて考えることは、私はまちがいじゃないだろうかとおもう。言葉という共通のものを用いながら、しかも個人の輝き、この人だけのものという輝きがあるものをつくりだすのが文学で、それは無意識とかいうことよりは、共通の言葉をどのように磨いていくかということに問題がある。共通の言葉にどのように耳をすますかということに、カギがあると思っています。

大江健三郎の文体が翻訳調である理由は、やはり、世界に向けて普遍的な言葉で書くという強い意志の表れであるようだ。その意志こそ、日本語ではなく普遍言語の使い手として、ノーベル文学賞を受賞した理由でもあるのだろう。

これに対して、谷川 俊太郎は無意識や深層意識にあるものを意識化して言葉に反映する詩の感受性、創造性こそ重要だと考えている。日本人として生きてきたなら、生活の言葉に対する思い入れがある。ひとつの言葉をひらがなで書くか漢字で書くかに大きな違いがある。外国語には翻訳できない要素がある。普遍言語の観念語(例えば大江氏のよく使う、民主主義とか自由とか)は、日本語にはイマイチなじまないというようなことも述べている。

アタマで徹底的に考えて意識的に書く小説家と、舞い降りてくるインスピレーションで創造する詩人の違いが対照的だ。この二人の間に司会進行役として、ユング研究の権威の心理学者(後の文化庁長官)の河合氏が、日本人の心と言葉の関係性について発言する。

河合氏は最初に谷川氏の「みみをすます」という詩を朗読する。耳をすますという言葉は英語への翻訳が難しいらしい。フロイトの「平等に漂える注意」だとか別の学者の「第三の耳で聞く」という表現が近い気がするが、耳をすますは、もっともっと広い気もするという。身体性の言葉はそれを母語とする話し手にとって、「言葉で言っているのだが言葉では言えない」ようなあり方をしている。

河合氏のパートでさすが精神分析の専門家だと思ったのは、言葉が使われる背景としての社会関係や文化に対する洞察の部分。日本文化あっての日本語なわけだ。


これはどこだったか忘れたのですが、どこかの文化人類学者の報告のなかにあって、すごく感激した言葉があります。「ノーと言えない日本人」という言葉があって、日本人は「ノー」と言わないのがすごく悪いようにいわれていますが、そこの文化だったら、相手が「ノー」と言わねばならないようなことを言うのがもう失礼なんだという。だから、その考えによると、アメリカというのは、要するに、すごく失礼だということになります。

日本語は感覚的であいまいで、英語は論理的という印象があるが、日本人はぶしつけに聞いて答えるような社会関係に住んでいないわけで、言葉単体で比較して優劣はいえないわけである。谷川氏は、読むものに異文化を理解しようという学びあいの姿勢があれば、普遍語的に書かなくても、外国人にだって、わかってもらえるはずだと述べている。

翻訳が困難とされる川端康成の文学でも日本文化への理解があれば外国人にも理解されうるというのが谷川氏のスタンスだ。むしろ母語の深みを持った多様な文学が世界文学になるべきであって、翻訳可能性を意識した普遍語の文学が世界文学というのはいかんだろうという意見があって、なるほどと思った。

3人の話し手が緊張感を失わずに討論する第二部を挟んで前後に、パネルでは伝え切れなかったことを河合氏、谷川氏が綴った第一部と第三部で補完しておりバランスがとれている。だいぶ前の本だが、文庫化、増刷されている名著。

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