2008年03月12日
植田正治の世界
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植田正治の砂丘写真シリーズは演出表現があまりにもユニークであった。一度見ると忘れられない。なにもない真っ白な砂丘の上に、計算された構図に並べられた人間たちは、みな普段着でなにげない表情をしている。植田正治の写真は完全に作為の写真だ。日本の写真文化はリアリズムの価値が中心的であったから、アート志向の植田正治は鳥取という地域性と相まって周縁で異彩を放つ存在でありつづけた。2000年に他界したあとその作品は海外でも展示されて、今また高い評価をされている。
・植田正治美術館
http://www.japro.com/ueda/
・植田正治事務所
http://www.shojiueda.com/jp/index.html
この本は本人の言葉や家族の証言、そして同時代の写真家や評論家たちの回想によって、植田正治の表現世界を立体的にうかびあがらせる。代表作の紹介や植田が生きた環境の取材記事などコロナブックスらしいビジュアルなドキュメント。
植田正治の作品には同じ女性や子供がよくでてくる。ここに出てくるモデルは植田の家族や近縁の人たちだったのである。子供を実にいきいきとした姿で写す写真家だが、実態は別にこだわっていなかったらしい。
「親父はごく一般的な親父ですね。子どもにあまり興味がない。ほったらかしもいいところで、ほんとうに毎日のように写真を撮りにでかけては、夜帰ってきました。」と息子は証言する。本人の言葉もそれを裏付ける。「僕は子供の世界を撮ろう。子供の世界を表現してやろうというのはない。僕はあれは物体として使っていますから」。
土門拳は「絶対非演出の絶対スナップ」と言ったが、植田正治は絶対演出写真の人なのである。植田と交流のあった荒木経惟は「私も子どもの写真は得意にしてたんだけど、自分のネオリアリズム風のどろどろした現場っぽい写真と違って、植田さんのは、あっちの国のみたいにさ、スッキリしているわけだよ。時代とか場所とか環境なんて、ぜんぜん意識していない。もっとピュアに、子どもの気持ちとか子どもに対する気持ちとかが写ってる。」と評している。
植田正治の砂丘写真はリアリズムの対極で、もはや絵画といってもよいほど緻密に計算された表現である。しかし、そこに写ったモデルの表情は余計なものが一切ない背景だからこそ、すごく生々しく質感がある、リアルに感じる。よく教科書で「写真は引き算」というが、まさに典型的な引き算のお手本を貫き通してアートにしたのが植田正治なのである。
・写真批評
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005242.html
・土門拳の写真撮影入門―入魂のシャッター二十二条
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004954.html
・東京人生SINCE1962
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005034.html
・遠野物語 森山大道
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005029.html
・木村伊兵衛の眼―スナップショットはこう撮れ!
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004923.html
・Henri Cartier-Bresson (Masters of Photography Series)
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004931.html
・The Photography Bookとエリオット・アーウィット
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004958.html
・岡本太郎 神秘
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/004986.html
・マイケル・ケンナ写真集 レトロスペクティヴ2
http://www.ringolab.com/note/daiya/archives/005007.html
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Posted by daiya at 2008年03月12日 23:59