2007年11月07日
ステータス症候群―社会格差という病
スポンサード リンク
これは抜群に面白い社会学研究。
世界中で社会格差と人々の健康には明らかな相関があることがデータで示されている。貧しい階層よりもお金持ちの階層のほうが病気をせずに長生きする。両極の中間層では階層があがるにつれて確実に健康状態がよくなっていく勾配が見られる。さらに学歴や社会的地位や身長で人々を比べてもほぼ同様の結果になる。高いほど健康なのだ。これがステータス症候群である。
なぜ社会格差は健康格差につながるのかがこの本のテーマである。
所得と健康の関係は一見、当たり前のようにみえる。健康ならば働けるので高所得になりやすい。お金があればよい生活ができて医者にもかかれるから、なおさら健康になる。逆に不健康ならば働くことができず、一層貧しくなる。医者にもかかれないから健康は悪化する。そういうことなのではないか?。実は問題はそう簡単ではなかった。
著者は長年にわたってステータス症候群を研究してきた第一人者。20年に及ぶ英国公務員を対象とする「ホワイトホール研究」などの実績で知られる英国政府のアドバイザ。公務員はヒエラルキーが明確なので分析しやすい対象なのだ。そこで明らかにされた健康格差はシビアなものだった。40-64歳の男性では、職場の階層構造の底辺にいる人は、同じ階層のトップにいる人の4倍も死亡率が高かった。
だがこれは英国の公務員だけの話ではないのだ。私たちの社会の、おどろくほど広範にわたって、階層が上の人と下の人では死亡率がちがうことを示す事例が多数紹介されている。階層が上の人ほど明らかに長生きでき、下の人は癌や心臓病で死にやすいという、厳しい現実が隠れていた。
国際比較をしてみると米国の平均寿命はイスラエル、ギリシア、マルタ、ニュージーランドよりも短い。平均所得では米国はそれらの国よりもずっと上にあるにもかかわらずだ。よく考えてみると、普通の生活ができる以上の所得増が、必ずしも健康改善に直結するとは思えない。すべての階層でまっすぐ上昇する健康度の勾配の原因は、所得の絶対額が問題ではないことがわかる。
著者は科学的な調査の結果、社会階層における相対的地位が健康にとって最も重要な要素であるという事実を発見する。相対的な社会的地位は、自尊心や幸福感に強く影響し、ストレスの量も左右する。「自分自身の人生全般をコントロールできるという意味での自律性があることと、有意義な社会参加への機会があること」が、健康に顕著な影響を与えていると結論する。その改善に必要な施策も提言している。
めずらしく意味のある格差を扱った本と出会った。読み応えたっぷりの内容。
スポンサード リンク
Posted by daiya at 2007年11月07日 23:59